アメリカ在住の男性アル・シドティさんの尿に血液が混じり始めたとき、医師は肉離れが原因と考えましたが、これは間違えでした。

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Courtesy of @AL SIDOTI

 Cancer Destroyed His Bladder — So Doctors Reconstructed It Using His Small Intestine  

 アル・シドティさんが最初の妻と離婚したとき、立ち直るためにはしばらく時間が必要でした。当時35歳で配管工として働いていた彼は、それまで週に1回だったジム通いを徐々に週に2回、3回と増やすことで、次なるステップへと自らを誘うよう努力していたと言います。

「体重が減り始めて、デートもするようになりました。人生がうまく進み始めていたんです」と、シドティさんは当時を振り返っています。ですがそんな最中、彼は次第に腹部の痛みを感じるようになったのです。そしてまた、尿の最後の方には血液が混ざるようになったとのこと…。

「最初は、寄生虫かなにかに感染したのかと思ったんです…」とシドティさん。

 そこで医師に相談したところ、過度のワークアウトが原因で「肉離れあるいは筋肉の伸ばし過ぎからではないか?」という診断を受けたと言います。そこでワークアウトを一旦止めるように指示され、それに従ったシドティさん。ですが、それ以降も腹部の痛みは収まらず、むしろ悪化するばかりだったのです。

 次にシドティさんは、その医師の紹介で泌尿器科医の診断を受けることにしました。

「直腸指診による前立腺の検診を受けましたが、問題は見つかりませんでした。それから医者は内視鏡を取り出し、横になった私に麻酔を施し、尿道から内視鏡を挿入しました。これは、想像を絶するほどの痛みでしたね」と彼は語っています。

そして見つかったのは、想像以上に悪いものでした。

「医者は周りを見回して、私に『一人で来ましたか?』と尋ね、『いいえ』と応えると『誰かを呼びたいですか?』と尋ねたのです。その会話ですぐに、何か悪いことを告げられるということがわかりました。その後、医者は紙に図を書き、こう言いました。『あなたは膀胱ガンです』と…。このガンは、海底に生える海草のような見た目をしており、膀胱の外側まで突出するほど成長していたそうです。すぐに治療を始める必要がありました」と、シドティさんは振り返ります。

 当時彼は、膀胱ガンがもっとも致死性の高いガンの1つだとは知りませんでした。

 米がん協会のデータによれば、米国では2018年に6万2380人の男性が膀胱ガンと診断され、そのうち1万2520人が死亡にまで至ったと記録されています。

 膀胱ガンと診断された当時のシドティさんは35歳。このガンは、統計ではこのときのシドティさんより高齢の男性に多く、診断される患者のうちの90%が55歳以上だったのです。そして、もっとも一般的な兆候としては、頻尿や排尿時のチクチクする痛みや灼熱感、血尿などでした。

 彼の治療計画は、BCG(ウシ型弱毒結核菌)注入療法から始まりました。

 これはBCGを生理食塩水に溶解して、尿道から膀胱に挿入したカテーテルを通じて膀胱内に注入するというものになります。BCGとは、結核菌の毒力を弱めた製剤で、結核の予防ワクチン“BCG”と同じものになります。この溶液を膀胱内に注入するとBCGは腫瘍部位に付着。その細胞内部に取り込まれ、BCGと腫瘍細胞に対する免疫が生じ強い炎症反応が起こります。このことにより、免疫系細胞のマクロファージ(白血球の一種)が活発化し、腫瘍細胞を貪食・破壊することが期待できるものになります。

 また彼は、ガンを直接切除するために複数回の手術も受けました。ですが十分な効果はなく、2〜3回手術を受けた後もがんは再発してしまったと言います。

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 次に、『クリーブランド・クリニック』という大病院に送られたシドティさんは、青色光膀胱鏡検査と呼ばれる検査を受けました。

 これは、膀胱内に青色光を照射して腫瘍のリスクを診断するというものです。この検査により、彼のガンは膀胱の外壁にまで広がっていることが明らかになったのでした。

 担当する泌尿器科医のジョルジュ・パスカル・ヘイバー医師は、彼と恋人のドーンに次のように告げたと言います。

「このガンが広がり続ければ、腎臓や肝臓、リンパ節などの主要な臓器に転移するでしょう。そうなれば、死を覚悟せざるを得なくなります」と。

 次にできる治療法は、侵襲性(生体内の恒常性を乱す事象)の低いロボット手術で膀胱を完全に取り除き、その後、別の手術で彼の小腸の一部を新たな膀胱として再建するというものでした。この手術は比較的新しいものでしたが、2018年の研究によって手術時間や回復にかかる時間の短縮が可能となり、失血を減らすことができるというメリットも明らかになっていました。

 この治療法を受けるしかないと思ったシドティさんでしたが、ここで1つだけ彼にとって大きな問題があったのです。

 というのも、この手術では前立腺も一緒に切除する必要があったのです。つまり、「精子を保存しない限り、シドティさんは今後父親にはなれない」ということを意味しているからです。

 シチリアの大家族の生まれで、常々たくさんの子どもがほしいと思っていた彼にとって、これは衝撃だったのです。さらに悪いことに、当時の彼はガールフレンドのドーンにプロポーズをする準備をしていた矢先、彼女も子どもを作りたいと思っていたからです。

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Courtesy of @AL SIDOTI

 そこでシドティさんは、将来の子宮内受精あるいは体外受精に備え、週に何度かクリーブランド・クリニックの精子バンクにも通い始めたのです。こうして父親になることを諦めることなく、手術の準備を整えることができたのです。

 そして手術の日が…。

 彼の膀胱を取り除き、小腸の一部から新たな膀胱を再建するための手術をしました。その手術には、10〜12時間がかかったとのこと。クリーブランド・クリニック泌尿器科医のヘイバー医師はそこでソフトボールサイズの膀胱を再建し、これを彼の腎臓と尿道につなげました。

 最終的な完治までには、7カ月もの時間を要しました。

 さらに性交渉をできるようになるまでは6カ月待たなければならず、また、排尿の仕方についても新たに学ばなければなりませんでした。

「私はカテーテルに生理食塩水を注入・排出して、絶えず『新たな配管』を洗浄しなければなりませんでした。膀胱は瘢痕(はんこん)組織でふさがっていたので、普通に排尿することはできなかったんです」とシドティさん。

 このため、彼はケーゲル筋(骨盤底を形成する筋肉)を使って尿を押し出す方法を学ぶ必要があったのです。

「配管工だった私ですが、自分自身に『新たな配管』を行う必要があったわけです」と、彼は手術後のリハビリ期間について皮肉を交えながら語っています。そして彼は、この「新たな配管」の使い方をもマスターしたのです。

 そして何度かの挑戦を経て、ついにシドティさん夫婦は、2013年に娘を迎えることもできたのです。

 現在はガンも治り、42歳になったシドティさん。

 そして、「日々の生活が大きく変わることはなかった」と言っています。ですが、いくつかの小さな変化もあったそう…。「たとえば、毎晩何度かは排尿のために起きなければなりませんし、利尿作用のあるコーヒーは飲まなくなりました」とのことです。

 また、こうも語っています。

「自分の飲む量には、常に注意を払わなければいけません。水分を摂りすぎると小腸が広がり、ケーゲル筋で尿を排出するのが難しくなるんです。あと、尿の濃度が高くなりんです。小腸が粘液を作りますから…」と、シドティさんは語ってくれました。

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Courtesy of Cleveland Clinic(https://my.clevelandclinic.org/)

 とはいえそんな問題も、彼が現在、人生を謳歌できているからこそ言えることではないでしょうか。

「ガンで命を落とさなかったこと、そして、人工膀胱を使わなくてもいいことにとても感謝している ― 私は、ヘイバー医師がこの手術を行ったなかでも一番若い患者でした。ですが彼は私の命を救い、娘を得る手助けをしてくれました。現在、素晴らしい人生を送れているのは彼のお陰です」と、シドティさんは最後に感謝の気持ちとともに締めくくってくれました。

From Men's Health
BY EMILY SHIFFER
JUN 26, 2018
Courtesy of @AL SIDOTI, Cleveland Clinic