20歳のころのクリストファー・ロフグレンさんに将来の夢をたずねれば、意外性のない返事が即答されてきたことでしょう。

「NBAのバスケットボール・コーチに、とにかくなりたかったですね」と、彼はそう振り返って笑います。数年後には、「コーポレート・ファイナンスに関わる仕事に就きたい」という夢を抱くようになりました。その後、自分が世界で最初の「自然環境にやさしい寿司レストラン」を経営するようになるとは、彼自身もまったく想像していなかったでしょう。

 さて、そのロフグレンさんですが、今では念願かなって米国オレゴン州・ポートランドで「バンブー・スシ(Bamboo Shushi)」というスシレンストランを経営しています。やりたかったことを詰め込んだ夢の仕事を、このような形で実現させることになるとは、本人にとっても驚きだったそうです。

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 彼のたどってきた道は、一般的なものとは言えません。ですが、それでも他の多くの起業家たちとの共通点がひとつあります。それは…好きなことをそのままキャリアにしたということです。

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Courtesy of RACHEL ADAMS

 2008年11月、「バンブー・スシ」はいよいよグランドオープニングの日を迎えようとしていました。ここまで1年半に渡ってロフグレンさんは、この日のために身を捧げてきたのです。完全に“サステイナブル(持続可能)”な寿司レストランというコンセプトで、果たして利益を生めるものかどうか?も不安でした。

 利益を上げる必要など…いいえ、それはもちろんありました。「もう銀行口座に50ドルしか残っていなかったのです。すぐに黒字転換する必要に迫られていました」と、ロフグレンさんは今回のインタビューで語っています。

 しかしオープン直前に、まさかの金融危機がアメリカを襲い、経済が崩壊してしまったのです。

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「正直、恐怖を覚えました」と、彼は振り返ります。

「まったく予期せぬ出来事でしたし、また、あれほどまでに壊滅的な事態を招くとは思っても見ませんでした。でも、だからといってオープンを先延ばしにするわけにもいきません。他に選択肢などありませんでした」と、計画通りにことを進めた自分を振り返りました。

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Courtesy of ANDREW RICHARD HARA

 ロフグレンさんは、カリフォルニア大学バークレー校を卒業しています。

 学生時代は、バスケットボールとボート競技に打ち込みました。バスケットボールのコーチになる夢を諦めた後、彼はシリコンバレーに移り住みます。「ハイテク業界が好景気に湧いている、という話は聞いていましたので、そっちの世界に行ってみようかと考えたのです」とロフグレンさん。

「投資業界のこともハイテク産業のことも、始めはまったく知りませんでした。投資会社の講習などに通い、とにかく本を読んで知識を増やし、分からないことがあればなんでも質問していました」とのこと。

 ロフグレンさんさんは5年間、テック業界の投資家として働きました。

 収入はとても良かったものの、自分の仕事に強い情熱を感じられたかと言えば、微妙だったのです。憧れていた業界ではありましたが、なにかもっと自分が深く関われることをしたいと感じていたのです。

「環境法に特化した弁護士を目指そうと考え、勉強のため2006年にオレゴン州へ引っ越したのです」と、ロフグレンさんは言います。

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Bamboo Sushi

 移り住んだオレゴンで、あくまでも趣味の範囲で地元のスシレストランに出資しました。言ってみれば副業です。レストラン業界についての知識は皆無でした。

「ただ、寿司が好物でした。それだけです。培ってきたキャリアから、投資の際の事前調査の重要性については承知していました」とロフグレンさん。

 調査を進めるなかで分かったことがあるそうです。「飲食業について学べば学ぶほど、この業界がいかに社会に対して無責任で、自然環境に対してひどい悪影響を及ぼしているのかを知って、愕然となりました」と、彼はそう振り返ります。

「環境にやさしい経営をしているレストランを探して、そこに投資しようと考えました。そんなレストランを経営している人々だって、そう多くはないが必ずいるだろうと思ったのです。ですが、まったく見つけられませんでした」と語ってくれました。

 彼にとって、未知なる世界へと飛び込むことは手慣れたもの。テック業界へと足を踏み入れた際に、経験済みなわけです。また、大量の本を読み、分からないことは何でも質問して情報と知識を蓄えていったのです。

「成功の秘訣、というものがあるとすれば、それは『自分が知らない物事があるのだということに気づくこと』ではないでしょうか。私について言えば、飲食業界のことなど全く知りませんでした。必要なネットワークを構築し、そして力不足を補い合えるチームを作るところから取り組みました」と、ロフグレンさん。

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 そこから1年半後、「バンブー・スシ」のオープンの年である2008年へと話は飛びます。

 1929年の世界大恐慌以来という巨大金融危機が起きたにも関わらず、この新しいレストランはすぐに軌道に乗ることができました。その成功は皮肉なことに、経済危機のおかげでもあったのです。

「経済が崩壊したせいで、多くの漁業者が卸先を失ってしまったのです」と、ロフグレンさんは言います。「それまで大量の魚介類を仕入れていた飲食店の多くが、事業から一気に撤退してしまったのです。そんなタイミングで業界に飛び込んだ私たちにとっては、実にありがたい状況でした」と。

利益をお客様に還元しています。

彼等はより安価に、より良い料理を楽しむことができるのです。

 環境にやさしいレストランを経営するにあたってロフグレンさんが案じたのは、食材にかかるコストでした。

 プレミアムな食材には、プレミアムな値段が伴うものです。

 特に2008年の当時において、環境保護を意識した漁業者によって捕れた魚だからと言って、余分な対価を支払おうという人々がどれほどいたでしょうか。「卸業者を頼らずに漁業者のもとへ、直接買い付けに行きました。中間業者をすっ飛ばしたことになります」と、ロフグレンさんは振り返ります。

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Courtesy of RACHEL ADAMS

 起業のタイミングも良かったと言うロフグレンさんですが、成功の秘訣として強調するのは、「逆境であっても物事を前に推し進めようという強い気持ちがあったこと」だそうです。

「途中、ノックアウトされそうな瞬間は何度もありました。何度もタオルを投げそうになりました。最後の一滴まで、エネルギーを振り絞るような気持ちでした。でも、足を止めず前進を続けているうちに、物事が徐々に成立していったのです。”諦めず手放さない”、それこそが鍵です。もしギブアップしてしまったら、自分がどこまで行けるかなんて知ることもできなかったでしょう」とロフグレンさん。

 その後、ロフグレンさんは「サステイナブル・レストラン・グループ(Sustainable Restaurant Group)」の創設者となりました。

バンブー・スシ」、「クィックフィッシュ(QuickFish)」、そして全米に店舗を持つ「ポキ・バー(=「ポキ」はハワイのローカルフード)」で、環境に配慮した食材を用いた料理を提供しています。

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 未来の起業家たちに対する、ロフグレンさんのアドバイスは明確です。

「もし情熱を持って取り組めることがあるのなら恐れずに進め、ただし、自分の無知や力不足には常に自覚的であるべきだ」と彼は言います。「メンター(仕事上の指導者)となる相手を、なるべく早く見つけることも重要。もし私だったらすぐに、いざというときに頼れる人を探しますね」とのこと。


「とにかく、もうこれ以上は無理というところまで自分を追い込み、そのうえでさらに前進するのだ」と、陳腐に聞こえることを承知のうえで、あえてロフグレンさんは言います。


「方向転換のタイミングを知ることも重要ですが、ときに気合いと粘り強さも肝心です」と、彼は続けます。

「結婚であれビジネスであれ、それは人生のさまざまな局面で役立ちます。意味あることをしようと思えば、チャレンジを恐れてはいけません。場合によっては大きなチャレンジが求められるでしょう。物事を乗り越え、乗り切っていく意志の強さが必要です。そのような前進の先に、本当に意味あるものが手に入るのです」と、最後に締め括ってくれました。

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from MEN'S HEALTH
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。