将来、火星に降り立つ可能性もある新世代の宇宙飛行士たちをご紹介しましょう!!
>>>本記事は、『NASAの宇宙飛行士を待ち受ける過酷な訓練、その実態』の続きです。
ニック・ハーグ空軍大佐
【座右の銘】自分より大きなものの一部となり、絶対に諦めない
ニック・ハーグ空軍大佐は一見、典型的な宇宙飛行士に見えます。カンザス州ホクシーで育った彼は、物心つく前から星を見つめては宇宙に行くことを夢見ていました。空軍では、苦労してテストパイロットまで登り詰め、F-16やF-15などの戦闘機を操縦しました。「とにかく乗ってみて、飛行機が制御可能か、役立たずかを試すんです。面白い仕事です」そう話す彼はMIT出身で、学生時代は航空工学を学び、宇宙船の部品を作っていたといいます。
「大学院では、複雑な概念やモデルを処理する方法を学びました」とハーグ大佐。彼は2013年にNASAの宇宙飛行士選抜試験に合格しましたが、これ以前の2003年と2009年にも応募していました。実際、最初の2回の募集に落ちたことで、彼はますます努力するモチベーションを得たといいます。
「NASAの選考委員が何をもっとも重要だと考えるかについては推測できません。選考プロセスでは自分らしさを大切にしました。私は自らの情熱を追い、キャリアで成功を収めました。それがチャンスをもたらしたんです」とハーグ大佐。
◇恐怖を受け入れることについて
ハーグ大佐は「バイコヌール宇宙基地発射台のソユーズロケットの中でうずくまっていたとき、自分の心拍数や血圧が上昇することがわかりました。そう予想できたんです」と語ります。
数千ガロンもの灯油と液体窒素を積んだロケットが今にも発射し、70秒で時速1900kmにも達するのですから、神経質になるのが普通です。NASAの心理学者(senior operational psychologist)であるジム・ピカーノ博士は「恐怖を受け入れることが不安を征服することに役立つ」とします。
また、宇宙飛行士たちは「失敗する可能性があるどんなことにも対処する準備ができている」という自信を感じるよう訓練されているといいます。NASAは緊急時の対処法として「次に予想される最悪の事態を検討する」という手順で知られています。
NASAの指導者たちは、「最悪の事態」や「次に予想される最悪の事態」を繰り返し訓練するのです。このため、何らかの不具合が発生した場合にも、宇宙飛行士たちには緊急時の手順や実行計画があります。
◇チームを強化することについて
成功は、チームのすべてのメンバーが最高のパフォーマンスを発揮できるかどうかにかかっています。そこで、宇宙飛行士たちはチームメイトと励まし合うよう訓練されています。宇宙飛行士といえば、自立的で簡潔に話すものの口数自体は少ない人物を想像するかもしれません。ですが、チームと協力していく上でそれでは不十分です。
「チームは、仲間たちと話す機会を持つためのものです。誰にでも調子が出ない日はあります。そんなとき、誰かが肩に手をかけて『大変みたいだね。何かあったのかい?飲みながら話そう』と気にかけたり、あるいは『しばらくの間考えるのはやめて、何か違うことをしよう』と提案したりといったことが助けになるんです」とハーグ大佐は話します。
◇自分の弱点を知る重要性
自己認識は非常に重要です。ハーグ氏は自分がときには「腹ペコの怒りん坊」にもなるタイプだと自覚しており、いつも怒りのコントロールに努めています。また、185cmと宇宙飛行士としては背が高い彼は、毎週ヨガをしています。「ソユーズのなかでは、胸の前で3〜4時間にわたって膝を抱えることになります。柔軟性を維持する必要があるんです」とハーグ大佐は言います。
そんな彼の力の源は妻と二人の息子たちです。
「自分のしていることについて息子たちが理解してくれるときもあります。ですが、ほとんどの場合、自分は何も知らない間抜けでバカな男で、彼らの前で失態を演じるんです。私はただの父親でもあり、それはとてもクールなことです」とハーグ大佐は話してくれました。
アンドリュー・モーガン中佐
【座右の銘】常に正しいことをしなさい。これはある人々を喜ばせ、残りの人々を驚かせることでしょうーーマーク・トウェイン
アンドリュー・モーガン陸軍中佐は、パイロットでもエンジニアでもありません。そして、この点で42歳(2018年4月現在)の彼は多くの宇宙飛行士候補者たちとは異なっています。ですが、ペンシルヴァニア州ニューキャッスル出身の彼は、初めての挑戦で見事NASAの宇宙飛行士候補に選ばれました。
モーガン氏は陸軍士官学校を卒業し、軍人保健科学大学で医学の博士号を取得しました。軍人としての19年のキャリアのなかでは、イラクやアフガニスタンの特殊部隊の医師を務め、特殊部隊資格課程やレンジャースクール、潜水部隊員訓練、軍事自由降下パラシュートスクールなどのエリートコースを完了してきました。
「他の人と少し違うことで目立つことができたんです。私の専門的スキルは医学で、様々な極限環境において、小規模で高機能なチームのなかで活躍した経験があります」とモーガン氏。
◇新たな経験を追い求めるモーガン中佐
NASAの訓練のなかで、モーガン氏は一人で飛行機を操縦することを学ぶ必要がありました。つまり、大学を出たばかりの20代の若者たちと空軍の航空学校に通わなければならなかったのです。モーガン氏は初めての操縦体験について「強烈な体験でした。初めて一人で飛行機を操縦したときは縮み上がりました」とし、「誰の声もなく、聞いたことがないエンジンとコックピットの雑音が聞こえ、自分の操縦にすべてがかかっていると感じました」と語っています。
NASAはこれまで、航空訓練について、宇宙飛行に似ている点が多いと重要視してきました。飛行機の操縦には、複雑な機械の操作や緊急時の手順に関する完璧な知識、ミスが死につながるような状況での乗組員の連携が不可欠だからです。
「自分にとっての航空学校となるような場所を見つけ、多くの若く健康な仲間たちとの新鮮な学びを通じて、レジリエンス(困難な状況に適応して生き残る力)を築いてください」モーガン氏は言います。
◇優先順位を学ぶことについて
レンジャーやグリーンベレーに所属して訓練や戦闘を行うなかで、モーガン氏は「能力のある指導者はチームをよくサポートする」ということに気づいたといいます。そして、彼は他人のことを第一に考える習慣を身に着けたそうです。
「この習慣は、自己中心の罠に陥ったり、自分の不快感だけにフォーカスする傾向を防いでくれます。また、第一に他の人に尽くすことは、それがチームメイトのメンターを務めることであれ、個人的問題を抱えた若手を手助けすることであれ、チームを優先することであり、それこそが正しいことなのです。自己の利益を図ることを優先してしまえば、チームワークは発揮できないものです」とモーガン氏。
そしてチームファーストのアプローチは、彼の家族やワークライフバランスの価値観にも及びます。
「妻と4人の子供たちが私をしっかりサポートしてくれて、仕事についてとても理解があるんです。ですから、夕食の時間にはできるだけ家に帰るようにしています。彼らの人生のためにそこにいたいからです」(モーガン氏)
◇チェックリストをスマートに活用
モーガン氏は十分なフランス語を話すことができ、ロシア語についても習得できる自信があったといいます。そして、実際にロシア語の習得にも問題はありませんでした。しかし、彼が苦戦したのは、宇宙ステーションのシステムのための技術資料の一部です。これは英語でしたが、噛み砕くことが難しいものでした。
「ユーザーガイド程度の理解度では不十分なんです。こういったものを修理する方法を知る必要があるんです」とモーガン氏は説明します。そんなときに役立ったのは、パラシュート部隊やパイロットしてのトレーニングで身につけた「チェックリストを活用する」という習慣でした。NASAでは、複雑な手続きでユーザーのエラーを防ぐためにチェックリストを使用していますが、これはモーガン氏にとってありがたいことでした。
また、それほど複雑でないものについては、家でチームメイトと取り組むことも。
「家族が家を一週間開けるようなときは、チェックリストをこなします。チェックリストはタスクの完了に構造や形式をもたらしてくれます。また、目覚ましをかけることも忘れません」と彼は最後に話してくれました。
ジョシュ・カサダ少佐
【座右の銘】科学の良い点は、あなたが信じようと信じまいとそれが真実だと言うことです。 ーーニール・ドグラース・タイソン
宇宙飛行士は通常、宇宙遊泳中に宇宙ステーションからのテザー(命綱)が切れることはありません。しかし、もしそうなった場合も、バーチャルリアリティ(VR)のシミュレーションのおかげで、彼らはどのように対処するべきかを知っています。
ジョンソン宇宙センターにある小さなVRルームで、このシミュレーションに臨んでいるのが44歳のジョシュ・カサダ海軍少佐です。最新のVRヘッドセット「Oculus Rift」を装着し、ジョイスティックでジェットパック・スラスターをコントロールするカサダ氏は、命綱が切れてから20秒以内に安全に宇宙ステーションに帰ることに成功しました。このようなシミュレーションはすべての宇宙飛行士が定期的に行っており、ISSでも行われています。ミネソタ州ホワイトベアレーク出身のカサダ氏は、子どもの頃は野球少年だったそうです。
「最初に大好きになったのは野球でした。次に科学と航空を好きになりました」とカサダ氏。彼は26歳でロチェスター大学で物理学の博士号を取得しましたが、このとき海軍のパイロットになれる上限年齢まではわずか5週間しか残っていませんでした。彼はイラク上空を飛ぶミッションに参加し、その後海軍のテストパイロット学校で指導者になりました。NASAへの挑戦は一度目は失敗に終わりましたが、彼は海軍のテストパイロットに所属し続け、二度目の挑戦で宇宙飛行士候補に選ばれました。
◇分解して考えること
カサダ氏は成長する中で、とても役に立つある教訓を身につけていました。それは「何かが壊れたら、自分で直す」というものです。「単にお金がなかったという理由もありますけどね」と話す彼ですが、様々なモノの仕組みを知るのが好きだったそうです。
「YouTubeと、ハンダごてがあれば、世界征服さえできますよ」と冗談を言う彼は、「芝刈り機が根を巻き込んだときは、分解して根が絡んだフライホイールを直せばいいんです。この考え方はあまりお馴染みではないかもしれませんけどね」と自らの教訓を語ります。
「リビングルームで何かを分解するときは、改めて組み立てる方法は知っておいた方がいいでしょう」とカサダ氏。モノの修理は宇宙飛行士のミッションの核となります。そして、日常生活においても、このスキルはレジリエンスを高め、自信を向上させてくれます。
◇正しく理解する大切さ
大学院において、カサダ氏はより綿密な実験を行いました。クォークを研究し、40もの大学の研究者たちと協力したのです。この研究を通して彼は、建設的な議論をもたらし、積み重ねていくことを学んだといいます。
「誰かの分析の欠陥を指摘することほど物理学者が大好きなことはありません。理屈っぽくなることがいいというわけではなく、正しく理解する必要があるということなんです」(カサダ氏)
◇ハードウェアに敬意を払う
海軍において、カサダ氏はP-3やP-8の試験飛行を行いました。
「理想としては、試験飛行は刺激的なものであるべきではありません。エンジニアやメカニック、プログラマーたちと、1時間の飛行のためにときには数年も協力するのです。テストパイロットは、リスクを特定し、最小化するためのプランを懸命に考えます。とはいえ、新たな乗り物を初めて操縦するときに何の恐れも感じなければ、それも正しい態度ではありません」とカサダ氏は語ってくれました。
ヴィクター・グローバー中佐
【座右の銘】物事をうまくできたときの報酬は、それができたということですーーラルフ・ワルド・エマーソン
ジョンソン宇宙センターには、宇宙飛行士のための一般的なジムがあります。ですが、ここには無重力空間用に調整されたトレーニング機器が揃う特別なジムもあります。このような機器(フライホイールやピストン、バーベル、ケーブルなどを備えたエクササイズラック、トレッドミルやスピンバイクなど)は宇宙飛行士たちが実際に宇宙ステーションで使用するものです。
41歳のヴィクター・グローバー海軍中佐は、この特別なジムでデッドリフトやスクワット、高強度インターバルトレーニングなどのワークアウトを行っています。「無重力環境では、自分の汗の雫が宇宙ステーション中に浮かぶのではないかと心配しています」とジョークを飛ばすグローバー氏は、F/A-18のパイロットで、空軍テストパイロット学校およびカリフォルニア州立工科大学の卒業生でもあります。
彼の子どもの頃の夢は、スペースシャトルのパイロットになることでした。そして、1986年のチャレンジャー号爆発事故の後も、この夢が潰えることはありませんでした。「学校でみんなで見ていました。これほどの犠牲を出してまで行う宇宙探査の重大さを感じたんです」(グローバー氏)
◇効率性を高める
NASAのストレングス&「コンディショニングペシャリスト(CSCS)」のマーク・ギリアムズ氏は、宇宙飛行士向けのワークアウトを20年にわたって開発しています。ISSにおいて、彼らは筋力や骨密度、心肺の健康を維持するために毎日トレーニングを欠かしません。
僅か6か月間無重力環境にいるだけで、彼らは最大で下半身の筋肉の20%を失う可能性があります。このため、ギリアムズ氏が重視するのは、デッドリフトやスクワット、トータルボディ・リフトなど、宇宙で筋肉が落ちやすい部位をターゲットにしたエクササイズです。宇宙飛行士たちはまた、トレッドミルやハンドルバーなしのエアロバイク(体幹の安定性が試されます)を使用し、インターバルスプリント(100m、200m、400mおよび800m)や有酸素運動も行います。
◇自分の役割を知る
パイロットとしておよそ20年の経験を持つグローバー氏にとって、状況報告は習性のようなものです。ですが、NASAで彼はより耳を傾けることを学びました。「自分のミスに注目し、分析することで、学習速度を高めることができるんです」とグローバー氏。「たとえば、ミーティングにおいては、優先順位を意識すること。自分が言おうとしていることが価値をもたらすかどうかを自問してみることが重要です」と話してくれました。
彼はサバイバルトレーニングを通して、「役割の柔軟性」、「いつリーダーシップをとり、いつサポートに回るべきか」といったことを学んだといいます。コロラド州の米野外リーダーシップスクールのコースでは、宇宙飛行士たちが意思決定について学びます。誰もに役割が与えられ、それがミッションに明快さをもたらすのです。
◇孤独に打ち勝つ
軍隊に配備されることになれば、自分が死んだときのために、愛する人のための遺言書や手紙を書く儀式も避けては通れません。グローバー氏もこれを経験しており、キャリアの中では、危険な暗闇の中でF/A18での着陸を行ったこともあります。このため、彼は宇宙旅行のリスクへの準備はできています。地球にいる現在は、妻と四人の娘たちとはできるだけ長い時間を過ごすようにしており、通常午後9時には寝床に就くといいます。
ISSにいる宇宙飛行士たちは、家族からのケアパッケージを受け取ることはできますし、家族との電話やビデオチャットも許可されています。また、彼らは毎日のフィットネストレーニングで健康を促進してストレスを軽減します。将来の探査、たとえば火星探査では、リアルタイムのコミュニケーションは不可能になるでしょう。そこで、NASAはVRロールプレイングや時間経過に応じたケアパッケージなど、このソリューションにも取り組んでいます。
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From Men's Health
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。