チャットボット「Emily」は、ユーザーが死についてともに語りながら、実際に死に直面したときのための法的書類を完成させられるサービスなのです。
※本記事は、アメリカ人記者ソニア・バトムスキー氏体験談をもとに構成されています。
You're Going to Die—and This Bot Wants to Help You Prepare For It
この1年、私(筆者ソニア・バトムスキー氏)は死別の悲しみをケアするセラピードッグチームから終末期コンサルタント、看取り士まで、さまざまな葬儀業界のイノベーションについて見てきました。
しかし、個人としては死への準備はまったくできていなかったというのが実際のところです。
たとえば、私は人生の終わりに直面したときのための書類は作っていませんでした。とは言え、これは多くの人に言えることでしょう。
ある調査によれば、死について何らかの準備や計画を行っている米国人の割合は、およそ30%に過ぎないといいます。ほとんどの人々にとって死について話すことは、このための法的書類を準備することよりも気まずいことのでようです。
「死」という現実味のない出来事について、腰を据えて計画する時間を作るのは容易ではありません。しかし実際は、誰しも死ぬものなのです…。
そんな人々のために作られたのが、ここで紹介する「Emily」なのです。(次ページへつづく)
ユーザーがEmilyと一緒に書類を作成する
2017年夏に、スタートアップのライフフォルダーがリリースした「Emily」は、フェイスブックの「Messenger」を活用したチャットボットで、多くの人がもつ「死」の話題への抵抗感を取り除こうとするものです。
ユーザーは「Emily」とのおよそ45分間(ユーザーがどの程度深い会話をしたいかによって、会話時間は長くなったり短くなったりはしますが…)の会話を通して、臓器提供の声明や医療委任状(個人が意思決定を下す能力を失ったときに、医療的な決定を行う権限を与える人を指名するもの)、事前指示書(リビングウィルとも呼ばれる、終末期の治療方針などを記述したもの)など、死に関連する書類を完成させることができるのです。また、この書類は、ひとたびオンライン上の専用フォームからダウンロードして自ら記入することも可能だということです。
このような「Emily」からのメッセージの形式は、一つひとつの文章が分かれたチャット形式で送られてきます。(次ページへつづく)
チャットをスタートすると、彼女は以下のように挨拶をしてくれます。
「Emily」の語り口は、カジュアルな会話体です。
彼女はフェイスブックの「Messenger」をプラットフォームとして使用しているため、ユーザーとの彼女の会話は友だちとの映画の約束や、元クラスメイトとのぎこちないやり取りのようなスレッドに挟まれることになります。
実際、私が彼女とチャットをしている途中にも、婚約者からツイッターの面白ペット動画が送られてきたり、友達からさまざまな内容のメッセージが来たりしました。
そのため「Emily」は、妙なうたい文句で商品を売りつけようとする一般的なサービス・カスタマー・ボットとはまったく異なっているように感じられます。
彼女(Emily)と話すと、ハイスクール時代にオンラインチャット友達と話していたときのように思えてきます。彼女は、深夜のくだらない思いつきを熱心に聞いてくれ、自分の気持ちを引き出してくれるのです。
「Emilyをとても強い個性をもったボットにしたかったんです」、そう話すのはライフホルダーの共同創業者でCEOのハジェ・ジャン・カンプス氏。
彼の言葉通り、彼女はユーザーが住んでいるアメリカの州についての豆知識やドラマ『Dr.HOUSE』についてのジョークなど、さまざまな雑談をしてくれます。また、彼女は会話を通して、ユーザーの状態をチェックしてくれるのです。
実際の人間とチャットするのと同じように、彼女の返信は早くなったり、遅くなったりもします。正直に言って、これは効果的です。私は気まぐれながら、辛抱強い看護師と話しているような錯覚を得ることができました。(次ページへつづく)
「死について話すことを普通のことにしたい」
「Emily」のカジュアルな口調については、誰もが気に入っているというわけではないようです。カンプス氏によれば、2017年夏にリリースされた当初のフィードバックには、「『死』というテーマについて考えるには、Emilyの口調があまりにもくだけている」という指摘もあったと言います。
しかしカンプス氏はこういった意見について、「このアプリにとって的外れなもの」と指摘します。
「多くの人々は、死というものを崇高な世界であるように思いたがっているようです。一部のユーザーは死について話すとき、裁判官と会話するかのような態度をとりたがるのです。ですが、誰にでも分かるようにするべきであり、人々は堅い口調で死について会話をする必要などないのです。死について話すことを普通のことになるよう、私たちは考えなければなりませんね」とカンプ氏。
「Emily」に関する注意点の1つは、ユーザーが彼女と一緒に作成する書類は現時点で(アメリカの)15の州でしか法的拘束力がないということです。
これは、州ごとに必要な法的書類の形式が違うためです。「Emily」が2017年6月末にリリースされたときには、書類はカリフォルニア州とテキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州、イリノイ州にのみ対応していました。
しかしライフフォルダーは、今後数カ月で残りの州への対応も完了させたいそうです。(次ページへつづく)
健康的なミレニアル世代に向けられたEmily
また「Emily」がターゲットとしている層に関して言えば、「死を遠い未来の出来事と考えて、終活を避けている健康的なミレニアル世代」であることも言及しておくべきでしょう。
したがって「Emily」は、自殺念慮に悩まされている人や、より差し迫った死に直面している人、たとえば末期疾患にあると診断された人などとの会話に、十分な準備ができているわけではないようです。
とはいえ、死についての話題を避けたがる多くの健康的なミレニアル世代にとっては、「Emily」は「まさに医師たちが求めていたものである!」と言えるかもしれません。
人生の終わりにおける選択肢を初めて考えるということは、自分一人で積極的にやりたいことではないかもしれません。だからこそ、このプロセスをサポートしてくれる彼女(Emily)の存在がありがたいものとなるのです。
死について準備することは、デートサイトのためのプロフィールを埋めることにも似ています。何を言いたいかははっきりしていないのですが、とにかく始めることが難しいということだけは分かるはずです。(次ページへつづく)
死について話すべきことがたくさんあるということに気づく
会話が終わると、「Emily」は私のデータに基づいて話し合いのためのガイドをEメールで送ってくれます。
これは基本的に、彼女(Emily)と私の会話のまとめともいうべきものですが、友だちや家族と死について話すことをスムーズにするように構成されており、彼らにも自分の人生の終わりのおける望みについて語るよう促すものです。
これを受け取った私は、こと死の話題に関しては、自分のソーシャルグループ内で頼りになる存在になれたような気になれるのです。しかし、彼女との会話の真の目的は、死に関する法的書類を作ることではありません。彼女は自分の死の意味について考えることを練習するための機会を提供してくれることが真の目的なのです。そして彼女は、あなたに判断を下したり、自らの意見で話を脱線させたりすることもないのです。
私と彼女との会話は実際、全部でおよそ45分ほどでした。
退屈したときのため「ネットフリックス」を立ち上げていましたが、会話は「イエス or ノー」のシンプルなものではなく、退屈はしませんでした。
カンプス氏は、「Emilyとの会話の長さは、ユーザーにとっての問題ではないようです」と話します。
「人々は深い会話となれば、喜んで話したがります。おそらく私たちはこの(死の)問題に対し、あまりに長く避けてきたので、一旦話し始めると話すべきことがたくさんあるということに気づくことでしょう」とカンプス氏は締めくくってくれました。
※最後までお読みいただき、ありがとうございました。
《おすすめ記事》
From Men's Health
BY SONYA VATOMSKY
NOVEMBER 27, 2017
Translation / Wataru Nakamura ※この翻訳は抄訳です。Edit / Hikaru SATO, Kazu OGAWA