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近年、「合法的なステロイド」とも呼ばれる薬物がオンライン上で広がっています。

選択的アンドロゲンレセプタ修飾因子(Selective androgen receptor modulators)」、または「SARMs」「SARM(サーム)」とも呼ばれるこれらの薬物の効果は、睾丸からつくられる男性ホルモンの一種であるテストステロンにもよく似たものになります。

「SARM(サーム)」とは…、筋肉増強剤として知られるアナボリックステロイド(いわゆる筋肉増強剤)と同じ効果を持つとされる薬物群のこと。さまざまな種類があり、骨と筋肉の増強に効くSARMもあれば、前立腺肥大症の治療薬として期待されるSARMもあると言われています。

「運動能力を高め、より筋骨隆々な見た目をもたらしてくれる」、さらには「ボディービルダーにとって理想のサプリ」「ステロイドよりも効果的」などとうたわれています。さらにその上、肝臓へのダメージや睾丸の萎縮などを伴う「ステロイド」のような「ネガティブな副作用はない」という触れ込みも(ボディビル界)一般に広がっていました。

ここで過去形にしていますが、その理由は…そのトレンドに警鐘を鳴らす発表があったからです。その鐘の音とは?

「SARM(サーム)」の危険性を警鐘

米国医師会雑誌『JAMA』に2017年11月掲載された研究によれば、オンライン上で販売されているSARMs成分を含む多くの製品が未承認の薬物やホルモン、ステロイドを含んでいることが明らかになっています。さらに、これらのサプリメントのラベルに記載された内容とはまったく異なる成分配合がなされている…、いわゆる「偽装表示」であることもしばしばあることが判明しているとつづられています。

この研究では、SARMsとして販売されている44のサプリメントを分析。その分析方法は、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)がアスリートによる禁止薬物の使用を検査するために認めている方法が用いられました。

結果、これらのサプリメントの39%が、違法な成長ホルモンやステロイドなどの未承認薬物を含んでいると判明。さらには、25%がラベルに表示されてもいない未承認薬物を含んでいることが明らかになったのでした。さらに研究対象のサプリメントの59%で、ラベルに表示されている化合物の量が実際とまったく異なっていたことも明らかになっています。

肝機能障害の事例も…「肝毒性など命に関わる副作用が発生したケースもある」

分析で発見された化合物の中には、『米食品医薬品局(FDA)』で承認されていないものもありました。つまり、これらのサプリメントは販売できるものではないばかりか、医者も患者に処方することすらできない化合物だったのです」と話すのは、この研究の共著者でハーバード・メディカルスクールの医学教授であるシャレンダー・バシーン医師。

ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のメンズヘルス研究プログラムの責任者でもあるバシーン医師は、「また、これらの化合物はFDAが承認しているものではないので、その安全性や効果にはわずかな情報しかありません。一部の成分は、人間にどのような効果があるかすら、まったく研究もされていないものなのですから」とも語っています。

そうして2017年10月に、FDAはSARMsを含む製品に関して、以下のような警告となる声明を出しています。

「SARMsを含む製品を摂取した人々の中には、肝毒性など命に関わる副作用が発生したケースもあります。また、SARMsには心臓発作や脳卒中などのリスク上昇につながる可能性もあり、体への長期的な影響についてはわかっていません」(FDAの声明より)

バシーン医師によれば、SARMsがステロイドのような副作用をもたらす可能性もあると示唆。前述のようなリスクに加えて、ステロイドの副作用としては薄毛のほか、鬱(うつ)や攻撃性、自死について考える希死念慮(きしねんりょ)など、メンタルヘルス上の問題も多々あるのです。

世界ではおよそ7%の男性がステロイドを試した経験がある

バシーン医師はこのようなサプリメントについて、「一流のアスリートやボディビルダーのみが使おうとするものではなく、むしろ、見た目を変化させたい若い男性が使うことも多いのです」としています。

SARMsの使用については、具体的なデータはありません。が、米疫学誌『Annals of Epidemiology』に掲載された271の研究を分析した結果、「世界のおよそ7%の男性が、人生のどこかの時点でステロイドを試したことがある」という目算を発表しているのです。なお、この割合に関してアスリートやウェイトリフターという分類で括った場合には、その数値のおよそ3倍へと膨れ上がるそうです。

このように、ステロイドの代わりになり得るような薬物は、一部の男性にとっては魅力的なものなのかもしれません。バシーン医師によれば、「このようにリスクの高い薬物が一部の男性を魅了しているのは、アスリートではない若い男性の間に、身体醜形障害(しんたいしゅうけいしょうがい=極度の低い自己価値感に関連して、自分の身体や美醜に極度にこだわる症状)とも言える醜形恐怖症(実際には存在しない外見上の欠点やささいな外見上の欠点にとらわれることで、多大な苦痛が生じたり日常生活に支障をきたしたりする心の病)に陥っている若者が増加しているところに寄与していると推測できます」とのことです。

まとめ:ステロイドの副作用

今回の研究の著者はこの研究での発見について、「SARMs成分を含む、すべての製品に対して当てはまるものではない」としつつも、こういった薬物に対する規制の必要性を強調しています。

「消費者はこれらの化合物が『栄養サプリメント』として売られていることで、安全であると思ってしまうかもしれません。しかし、そうではないのです。これらの化合物は栄養サプリメントの要件を満たすものではなく、その安全性は証明されていないのです」と、バシーン医師は最後をしめくくっています。皆さんも、ぜひともご注意を。

Source / Men's Health US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。