こんなにも後味の悪い表彰式を、未だかつて観たことがあるでしょうか…。
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Naomi OSAKA
「テニスの全米オープン 2018」で、6-2、6-4で見事に大坂なおみ選手がセリーナ・ウィリアムズ選手に対してストレート勝ちし、男女シングルス日本人史上初のグランドスラム優勝の快挙を成し遂げました。
一方で、4大大会通算24勝目を逃したセリーナは、試合中苛立ちがピークに達したのか、「嘘つきはあなたじゃない!」とウィリアムズ選手は審判へ暴言を放ったり、自らのラケットを破壊するなどの行動も…。
会場はひとたび異様な雰囲気にもなりしたが、それでも大坂選手は冷静にプレーを続行。そうして気づけば、ストレートで元女王をねじ伏せることとなったのです。
大坂選手にとって憧れの存在であるウィリアムズ選手。当然、アメリカ国民にとってもウィリアムズ選手の存在は大きいものでした。黒人女性であり、産後復帰したばかりの女性として、彼女はアメリカの働く女性、マイノリティ女性として象徴的な存在であり、彼女が勝利することにはアメリカ国民、特に女性にとって大きな意味をもっていたのでしょう。
しかし、そんな期待とは裏腹に、いつの世も“新星”とは想像を超える結果を生むものです。
優勝した大坂選手に対し、会場ではウィリアムズ選手の勝利を期待したファンによって想像以上のブーイングが巻き起こります。恐らくこのブーイングは大坂選手へではなく、主催者側に向けられたものであったようですが…。
この“歓迎されぬ”優勝の気配を感じたのでしょう、若干20歳の大坂選手は素直に喜べるわけもありませんでした。
そんな中、ウィリアムズ選手によって「おめでとう! なおみ! もうブーイングはやめましょう。彼女はグランドスラムにふさわしい良い試合をした」とコメントすると、会場はようやく静まります。
そして大坂選手は、「全米オープンの決勝でセリーナと対戦するのが夢でした。それができて、とてもうれしいです。ありがとう!」というコメントとお返しを贈ります。
セレモニーで優勝トロフィー授与前に行われた、大坂選手への質問に対するコメントを一部紹介しましょう。
司会者:夢の決勝に進みました。そこでセリーナに勝ち、夢をかなえたわけですが、いまの気持ちは?(略)
大坂選手:会場の皆さんがセリーナを応援しているのは、しっかりと感じとっていました。こんな終わり方になってすみません…ですが…、「試合を見てくださってありがとう」と言わせてください。
司会者:試合後、お母さんと抱き合っていましたが…
大坂選手:お母さんがこの会場に来てれたことは大きな力になったと思います。でもお父さんのほうが、生で観るのが辛いらしく、残念ながらここには来ていないのですが…。(会場爆笑)
司会者:男女を通して、始めて日本人がグランドスラム王者になりましたが、いかがですか?
大坂選手:セリーナと決勝で戦うことが夢だったので、それがかなって本当にうれしいです。(ウィリアムズ選手のほうへ振り向き、お辞儀をしながら…)プレーしてくれてありがとう!
この後、大坂選手は優勝トロフィーを受け取りました。
米「USA TODAY」紙では、新女王に輝いた大坂選手の強さだけではなく、試合後の振る舞いやインタビューで見せた彼女の人間性にも注目し、称賛しています。
「グランドスラム初優勝という状況の中、大坂なおみ選手が“優雅さ”と“気品”をみせた」とし、対照的に36歳のウィリアムズ選手を「子供じみていた」と厳しく批評しています。
翌日には、『ESPN』のよる生インタビューに答える大坂選手。これをひと目見よう集まった群衆による、「ナ・オ・ミ」コールが高らかにアメリカの空に響いていました。
ちなみにインタビューしているのは、90年代に活躍したメアリー・ジョー・フェルナンデスと、ESPNのクリス・マッケンドリーを挟んで右に座るのは、70年代から80年代前半にマルチナ・ナブラチロワさんといくつもの死闘を演じ女子テニス界を牽引したクリス・エバートさんです。時代の移り変わりを、目の当たりにしているようかのようでした。
Source:USA Today「Naomi Osaka shows grace, class in first Grand Slam victory」
Text & Edit / Lumiere Copper, Kaz OGAWA