ドナルド・トランプ大統領は、彼の周囲にいた専門家や占い師たちを次々に追い出し、いまでは何でも自由にできる立場になっています。

 トランプ政権は、かつて彼が出演していたテレビのリアリティ番組『アプレンティス』のホワイトハウス版から、映画『トゥルーマン・ショー』の裏返しへとすっかり様変わりしてしまい、その間、トランプ大統領は英語という言語でさまざま攻撃をツイッターにぶちまけ、そして、自分がその時々の敵とみなす相手を破壊するための策を練ることに多くの時間を費やすようになっています。その度合いは、日ごとに増しながら…。 

 そして、4月第1週に彼が選んだ敵は、アマゾンとジェフ・ベゾス(大金持ちの創業者/経営者)だったのです。トランプ大統領は、不法入国者に対する攻撃の手をゆるめ、代わりにアマゾンへの攻撃を2018年4月2日から開始していました。 
  

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ツイート内容: 
「私は大統領選(の投票日)よりかなり前に、アマゾンに関する自分の懸念を口にしたことがあった。他の企業と違って、アマゾンは州税や地方税をほとんど、あるいはまったく払っておらず、公営企業である郵便公社を自分たちの商品配達の使い走りにしており(そのために米国政府は大損している)、そして何万という小売業者を廃業に追い込んでいる!」とドナルド・トランプ大統領。 
 

 そして、この攻撃は翌日の4月3日にも続くのでした…。 
 

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ツイート内容: 
「アマゾンのせいで、『デリバリーボーイとして使われている郵政公社が巨額の損失を被っている』という私の見方は正しい。アマゾンは商品配達にかかるコスト(以上の金額)をきちんと支払うべきであり、それを米国の納税者に負担させるべきではない。アマゾンが他者に押しつけているコストは、膨大すぎる額に上る。郵政公社の幹部たちはわかっていないのだろうか(それともわかっていながら取引を続けているのか)?」とさらに呟いたのでした。 

 トランプ氏が個別の企業の納税額に懸念を抱いているということは、まったくのお笑いぐさでもあります。彼は大統領選中にあった候補者討論会で、「自分が税金を抑えられているのは『利口』だから…」と自慢していた男ですから…。

 またウォーターゲート事件以降、2大政党から出馬した候補者全員が納税額を明らかにしてきたなかで、トランプ氏は「自分は収めるべき税金はきちんと収めている」はずだとして、納税額の公表を拒否した男です。トランプは、DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals、幼少期に米国に到着した移民への延期措置)の中身がどうなっているかなど、まったく気にしていません。が、白人男性が米国の税法を遵守しているかどうかについても、それと同じくらいにしか気にしていないでしょう。

「ワシントン・ポスト」紙と対立するトランプ氏

 トランプ大統領が実際に関心をもっているのは、アマゾンのオーナーであるジェフ・ベゾス氏です。

 ベゾス氏は「ワシントン・ポスト」紙のオーナーでもありますが、その「ワシントン・ポスト」紙はトランプ大統領や彼の政権についての事実をしつこく報じ続け、彼に無力感の伴う怒りを味合わせている報道機関です。

 トランプ大統領は、「フォックス ニュース チャンネルとさまざまなプロパガンダを切り売りするシンクレア・ブロードキャスティングの放送網しか、まともなニュースソースはない」と決めつけていますので、そんな彼の「ワシントン・ポスト」紙に対する軽蔑の念は大きくなる一方なわけです。 

 レポーターのガブリエル・シャーマン氏が、『ヴァニティフェア』誌に掲載された記事の中で報じている通り、アマゾンに対するトランプ大統領の攻撃は、「ワシントン・ポスト」紙に対する彼の敵愾(てきがい)心と分かちがたく結びついているのです。 

<引用文> 
複数の情報筋によると、アマゾンに対するトランプ大統領の怒りを煽っているものの多くは、アマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏が「ワシントン・ポスト」紙を所有していることと関係していると認める者が、トランプ大統領の味方の中にさえ存在するとのこと。 

  
「トランプ大統領は『ニューヨーク・タイムズ』紙が好きではないが、それでも地元の新聞として、『ニューヨーク・タイムズ』紙に敬意を抱いている。それに対して『ワシントン・ポスト』紙にはまったく敬意を抱いていない」と、トランプ政権に近いその共和党員は語っています。 

「ワシントン・ポスト」紙は、ベゾス氏が編集に関する決定にはまったく関与していないとしているが、トランプ大領領は彼の顧問らに対して、ベゾス氏が「ワシントン・ポスト」紙を政治的な武器として利用しているとの自分の考えを語ったことがあります。ホワイトハウス元関係者のある人物は、トランプ大統領が「ワシントン・ポスト」紙のことを『ナショナル エンクワイア』誌と同じように見なしているとも語っています。 

 
 また、「ベゾス氏は、自分は(『ワシントン・ポスト』紙の編集には)関与していないと言っていますが、トランプ大統領はベゾス氏のことを信じていない。トランプには(『ナショナル エンクワイア』誌の発行人である)デビッド・ペッカーのような輩(やから)と付き合った経験しかないのです。報道機関を政治的な武器として利用することが正しいにせよ間違っているにせよ、それが可能であることをトランプは知っている」と、ホワイトハウス元関係者はコメントしています。

「ワシントン・ポスト」紙はアマゾンの傘下

「アメリカ合衆国の大統領が、自らのことを敢えて批判する自由で独立した報道機関を標的にしている」としても、トランプ大統領なら意外なことではありません。そんなわけで、彼の標的が「ワシントン・ポスト」紙、具体的には「アマゾン傘下の『ワシントン・ポスト』紙(The Amazon Washington Post)」であることを、私たちはかなり前から知っていました。 
 

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ツイート内容: 
「シリアのアサド政権に対抗する反政府勢力への膨大、かつ危険で無駄の多い資金援助を私が打ち切ろうとしていることについて、The Amazon Washington Postが嘘の話をでっち上げた」 

「自由な社会のなかで、報道機関が果たしている役割をトランプ大統領が理解できない」というのも、全く意外なことではありません。結局のところトランプ大統領は、ゴシップを記事にするコラムニストや彼らを起用する新聞各社を相手に取引することに対して、人生の大半を費やしてきた人間です。そんな人間なら、どの報道も単なる取引材料であり、簡単に武器として利用できるものと考えてもおかしくはありません。 

 親トランプ派の代表的な媒体である『ナショナル エンクワイア』誌なら、何か他のものと引き替えに、喜んで情報を渡したり、都合の悪いネタをボツにしたりするでしょう(なにか他のものというのは、トランプが彼らに差し出す何かのことです)。「ワシントン・ポスト」紙が記者や編集者に、オーナーの意向を気にせずに仕事すること、そして単に、現在どんなことが起こっているかを報じようとすることを認めているかもしれないという考えは、トランプ大統領には理解しがたいものです。彼にとって新聞は、民主主義を支える機関ではなく、権力者が使う単なる道具に過ぎないということになるのですから…。 
  

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Photograph / Getty Images 

 
 トランプ大統領が「ワシントン・ポスト」紙の報道ぶりに不満をもち、そのせいでアマゾンを攻撃しているのは、痛いほど明らかです。

 しかしこれは、私たちが以前にも目にしたことがある悲しい偶然の出来事でもあります。「(つまり、トランプ大統領がまったく見当違いの理由でもある)個人的にせこいということから、実際に存在する課題を偶然取り上げることになったということ、そして、アマゾンがなぜ批判に値するかを彼は十分には理解していないからだろう」ということになるのです。  

 アマゾンは危険なテクノロジー分野の独占企業の中でも、最も危険な存在です。そんな独占企業は、私たちの社会のなかで信じられないほど大きな影響力を行使しており、しかも、説明責任はほとんど負っていません。

トランプ大統領にとって、すべてが政治的な闘い

 ライターのスコット・ギャロウェイ氏は以前、「エスクァィア」に掲載した記事の中で、いわゆるビッグ4(アマゾン、グーグル、アップル、フェイスブック)の分割を求めて次のように記していました。 

<引用文> 
「アマゾンはあまりに支配的な勢力になっており、いまではジェダイが使うようなマインドトリック(心理操作)で、自社が特定の市場に参入する前から潜在的な競合相手に苦痛を与えることが可能になっている。消費者を相手にする企業の株式は、以前なら重要なふたつの指標を手がかりに売買されていた。つまり、その会社のベースにあたる部分の業績(たとえば、ポッテリーバーンズの場合なら、『1平方フィートあたりの売上高が10%増加』といったもの)、それに経済に関する全体的な状況(たとえば「新規住宅着工件数が増加」など)のふたつである。しかし現在は、民間の投資家も公的な投資機関も、このふたつに第3の手がかりを加えている。「アマゾンがその分野で何をしそうか(しそうでないか)」というのがそれだ」とスコット・ギャロウェイ氏。 

<引用文> 
「アマゾンがデンタルサプライ事業への参入を発表した日には、同分野の既存各社の株価が4〜5%下落。また、同社が処方薬の販売を始めると報じたときには、薬局チェーン各社の株価が3〜5%下落。そして、ホールフーズ・マーケットの買収を発表した際には、その後、24時間の間に大手食料品店チェーン各社の株価が5〜9%も下落していた」とスコット・ギャロウェイ氏は重ねて発言しています。

 
 トランプ大統領の、いわゆる「宣戦布告」のニュースが2018年4月2日(米国時間)に流れ、それを受けてアマゾンの株価は5%下落していました。が、上記のような状況を考えると、この下落もひどく不公平なこととは思えません(ただし現職の大統領がその立場を利用して、純粋な政治目的のために民間企業にダメージを与えるというのは、言論の自由や司法の独立に対する直接的な攻撃と同じくらい危険なことですが…)。

 そして、トランプ大統領がアマゾン相手に戦争しようとしているのは、同社が責任を負わない独占企業であるからでもなく、あるいは「2007年から2015年の間にアマゾンは利益の13%にあたる金額しか税金を支払わなかった」からでもありません。

 トランプ大統領が郵政公社やその労働者のことなどを、気にかけていないのも間違いありません。

 つまり、トランプ大統領がアマゾンに戦争を仕掛けている理由は、「ワシントン・ポスト」紙が調査報道や社説を使って彼に付きまとっているからであり、また下記『ヴァニティ フェア』誌での記事の指摘で明らかな通り、トランプ大統領は結果的にベゾス氏のことを嫌っているからなのです。 

  
<引用文> 
現政権に近い4人の情報筋の話によると、トランプは現在、アマゾンへのTwitter攻撃をエスカレートさせて、同社にさらに大きなダメージを与える方法を協議しているという。「この件については、誰もトランプ大統領を抑えられない状態。これは戦争だ」とある情報筋は私に語ります。また、「彼はいつも何かにとり付かれているが、いまはその矛先がベゾスに向いている」と別の情報筋は述べている。「トランプは『どうすればベゾスをやっつけられるだろう?』といった感じだ」とある情報筋はコメントしている。 

 
 トランプ大統領のこのような行動は、まだに壊れた時計についての昔のことわざの正しさを示す、驚くべき生き証人となったわけです。つまり、「“A broken clock is right twice a day.” (壊れた時計は、1日に2回は正しい偶然に正しい)」を実行したわけです。

 大統領候補選の討論会で、「イラク戦争が歴史的な大失敗であった」と共和党の候補者たちに認めさせたことも、あるいは首都ワシントンのことを「利権と巨額の資金、礼儀正しい腐敗でいっぱいの沼地」と呼んだことも、彼の偶然の正しさを示した例と言えるでしょう。 

 しかし実際には、トランプ大統領はワシントンの金権政治のことなどまったく気にしていません。

 彼にとってはすべてが政治的な闘いで、自分が得をするための単に便利なこん棒にしか過ぎないのです。彼はアマゾンを分割して独占的な振る舞いを止めさせることにも、あるいはその結果として、消費者や社会が受ける恩恵にもまったく関心がありません。彼が欲しいのは、“The Amazon Washington Pos”tにもう少し良い見出し(の自分に関する記事)が載ることだけなのですから…。


From ESQUIRE US 原文(English)
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。