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2018年2月8日~2月25日にかけて、白熱した対戦を繰り広げてくれている平昌冬季五輪。日々われわれに感動をもたらしてくれ、休む暇もないと興奮気味の同僚もいるかもしれません。
    

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 そんな冬季五輪の中でも、スキー競技「エアリアル」に注目したいと思います。皆さんはこの種目を具体的にご存知ですか? 「知らない」という方も多いかと思いますので、ここで簡単に説明しましょう。「aerial(エアリアル)」という言葉が「空中」という意味であるように、空中演技を競うスキーのフリースタイル競技の1つになるのです。長さ160cm程度のスキー板をはいて空中に飛び上がり、宙返りをして着地するまでの短い競技…わずか数秒間ですべてが決まってしまう、スリルと爽快感のある競技なのです。

 具体的には時速約70kmで斜面を下った後、高さ4mのジャンプ台から空中に飛び上がります。そこで4回の横回転(捻り)や3回の後方宙返りを決めるというわけです。そして空中ではまっすぐな姿勢を保ち、高い位置できれいな弧を描くようにします。このような競技なので、着地時には脊椎や膝に対し尋常ではない衝撃がかかるのです。 

  
 エアリアルで金メダルを取るためには、このような演技を成功させ、常に怪我とも闘わなければなりません。この競技は美しくもクレイジーであり、非常に危険なものでもあります。ですが、まだまだ知られていないところが残念なところです。 

 ハーフパイプのようにいくつもの技を出したり、モーグルのようにコースを滑り抜けることがない…あらゆるアクションが1回のジャンプに凝縮され、4年に1回のこのたた数秒間にすべてが決まるわけなのです。 

「チャンスは1回で、そこでやり遂げるか失敗して帰国するかです」と話すのは、2017年のエアリアル世界チャンピオンで米五輪代表のジョン・リルズ選手です。 

 
 リルズ選手をはじめとするエアリアルの注目選手たちにとっては、2回または3回の捻りを加えた後方3回転宙返りは、朝飯前とも言える最低限の技になります。しかし、決勝ラウンドで金メダルを獲得するためには、「ザ・ダディ」とも呼ばれる4回の捻りを加えた後方3回転宙返りを成功させる必要があります。 

 さらにリルズ選手によれば、一部の男性選手は、決勝3回目の演技で5回捻りに挑戦することもあるそうです。これは常軌を逸した技になります。この技では、かなり高速なスピンが求められるため、着地が難しく、もはや、上手くいくよう祈るしかないとも言えるでしょう。そしてこの結果は…メダルが獲得できるかもしれませんが、その裏側で大けがも待っているかもしれないのです…。 

 今回、このエアリアルという競技について、実際の演技のプロセスや平昌五輪でのリスクが高い理由など、リルズ選手に詳しく聞いてみました。

スピードチェック

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 リルズ選手が、事前準備としてまず行うのがスピードチェックです。斜面を滑り下り、ジャンプ台の手前までにどの程度のスピードが出るかを試すのです。このときのスピードは時速72km〜80kmが適切だといいます。コーチは横風を計算し、斜面のどこからスタートするかを決定します。

 エアリアルにおいて、風は非常に重要です。この競技には体操や飛び込みのような正確な演技な必要とされるので、風の計算は不可欠なのです。そして、これまでの平昌の天候は、この競技に好ましいものではありませんでした。強風により一部の競技が延期になったり、施設が閉鎖されたりしたからです。

 とはいえ、エアリアルの選手は強風の中でもしばしば演技を行います。2018年1月、リルズ選手の弟で同じくワールドカップチャンピオンのクリス・リルズ選手は、中国でのイベントのなかで風速20mの横風を受けて着地に失敗。脚を骨折し、前十字靭帯を損傷してしまいました。

踏み切り

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「両脚を揃える」、「姿勢はまっすぐ」、「着地に備える」といったイメージトレーニングを改めてした後、リルズ選手はブーツのバックルを留め、コーチとグータッチ。その後はジャンプ台近くで風速をチェック。 

 最後にもう一人のコーチを確認し、すべてがクリアとなりゴーサインが出ればスタート。重力の力を借りて斜面を滑り降ります。そして、ジャンプ台の踏み切り点に近づくと、両腕を上げて空中に飛び上がります。

空中技

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 リルズ選手は飛び上がると、首と右手を左に反らしながら一度宙返りをし、1回捻りを加えます。 

 その後、もう一度宙返りをして、さらに2回捻りを加えます。空中ではもっとも高い位置で15mにも達します。常に意識しているのは、「乱れのない、まっすぐな姿勢を保つ」ということだそうです。

 上昇して最高点に達すると、今度は自由落下です。この瞬間はまったく体重を感じないといいます。このあたりで、「着地に備えろ」というコーチの大声が聞こえてくるでしょう。降下中にさらに一度宙返りをし、1回左に捻りを加えると着地に備えます。

着地

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 着地はきれいに決まることもあれば、危険なものとなることもしばしばです。特に、雪が氷のブロックのように硬いときは要注意です。平昌の体感温度は今週、-21度まで下がりました。これによって着地は、さらにハードなものとなるでしょう。 

 5回捻りに挑戦しない場合でも、失敗はよくあります。もっとも典型的な失敗は「スラップ・バック」というもので、着地時に体重が後ろに寄りすぎることで背中を雪に打ち付けるというものです。 

 また、体重が前に寄り過ぎた場合は、前にひっくり返ることになり、この失敗は「パンチ・フロント」と呼ばれます。もし体が横になった状態で落ちたり、幅10cmのスキー板で着地できなかった場合は、ひどいケガをすることもあります。 

「脚や肩の骨折、脊椎のひび、靭帯損傷、脳震盪などすべて目にしたことがあります」とリルズ選手。 

 わずか3秒間で、これほどのスリルや爽快感が得られる競技はほかにないことでしょう。エアリアルを観るときには、選手が踏み切った後はまばたきをしないように注意しましょう。大事な瞬間を見逃してしまいますからね…。

By Nick Pachelli on February 17, 2018
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ESQUIRE US 原文(English)
TRANSLATION BY Wataru Nakamura 
※この翻訳は抄訳です。 
編集者:山野井 俊