元プロサッカー選手のアラン・シアラーは、豚の脚のように頑丈な首と花崗岩のように固い頭蓋骨を武器に、現役時代は誰よりも空中戦に強い選手として活躍していました。

 そんな伝説のサッカー選手は現在、ある不安を抱えています。その不安とは…自分のいちばんの得意技であったヘディングにより、自らの健康に対し多大なる影響を被ったかもしれない…というものでした。

イングランド屈指のFWであったアラン・シアラー氏、ヘディングがもたらす影響を語る
  

 2017年11月12日に、「Alan Shearer: Dementia, Football and Me」(原題)というドキュメンタリーが英BBCで放映されました。この番組のなかでシアラーは、サッカー選手の認知症という話題を取り上げ、継続的にヘディングをし続けることがやがて脳の損傷につながるかどうかを調査しています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Alan Shearer Diving Header
Alan Shearer Diving Header thumnail
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◇サッカー選手がヘディングで認知症になる?

 シアラーは練習中に、いつも150回ほどヘディングを重ね、自分の武器にさらに磨きをかけていたことで知られています。が、そんな彼は今回「テレグラフ」に対して、こうコメントしていたのです。

 「自分が認知症にかかっているのでは?って心配なんだ。サッカーのせいで、自分には未来がないかもしれない!と心配ばかりしている」と、コメントしていたのです。

 さらに、「現役時代、ピッチで頭に怪我を負ったことは何度もあったが、当時はそんなときでもベンチに走って帰り、傷の部分を何針か縫ったら、あとは包帯を巻いてそのままゲームに戻っていたね。当時は、そうすることが当たり前であり、そう期待されていたから」と、シアラーは現役時代を振り返っています。

 「でも、そんな頭部の怪我よりも、練習でヘディングを繰り返して行っているほうがダメージが大きい。私が心配なのは、このヘディングによる脳への影響のほうだ。それでも選手たちは今でも、日に30回、40回、50回はヘディングの練習をしているかと思うが…」と、シアラー氏はヘディングを繰り返す選手たちのことを懸念しながら語っていました。

 「ジェフ・アストル(元イングランド代表のフォーワード)氏が亡くなり、検死官からヘディングと脳の損傷との関係が指摘されてから、もう15年が経ちます。しかし、その状況はまったく変わっておらず、そのことに対しジェフの家族は怒り、同時に落胆もしている。そうなるのも当然の現状さ」と、かつての代表チームメイトのことにも触れていました。

 「ファブリス・ムアンバ(コンゴ出身のサッカー選手)が試合中に心臓発作で突然倒れたときには、半年もしないうちにどの試合場にもAEDが導入されていたのに…」とシアラー氏は考え深げに語っていた映像が思い出されます。

◇シアラー氏が取材で行った実験とは?

 シアラーはこの番組の取材でスターリング大学を訪ね、ある実験を行いました。

 この実験は、彼の脳の働きがヘディングの前と後でどう変化するかを調べるというもので、また、ヘディング中の脳の様子をスキャンする実験も行われました。

ヘディング 認知症,pinterest
Courtesy of BBC

 専門家の間ではかなり以前から、サッカーボールを繰り返しヘディングし続けていると脳に損傷が生じ、認知症につながるとの可能性が指摘されていました。

 しかし、2002年にアストル氏が亡くなるまで、両者のつながりを示すはっきりした証拠は出されていませんでした。アストル氏(享年59歳)の死後、ヘディングによって生じた慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy、CTE)が原因だったということが世に初めて明らかになったのです。

 こうした発見にもかかわらず英サッカー連盟(FA)や国際サッカー連盟(FIFA)は、この問題に関する研究への資金的援助をまったくしていません。

 その点についてシアラー氏は、次のようにコメントしています。

 「(FAやFIFAの無策ぶりに)たくさんの人が怒りを感じている。そして、彼らが怒るのも無理はないことだ。協会はなにを考えているのか、悲しい限りだ。この問題を即座に取り上げ、『もっと我々はいろいろと手を尽くすべきだ』と懸命に対策を考える人間がいてもいいはずだ。でも、今のところいない…それには私は驚くしかない」とシアラー氏。

 米国のスポーツ界では、数年前からアメリカンフットボールと脳障害についてNFLが先頭に立って対策に取り組んでいます。これに学び、サッカー界もいますぐにでも取り組んでほしいものです。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。