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現在マッハ5の旅客機開発中 ― 世界最大の企業、ボーイング社の挑戦

ボーイング社はいま、時速約6000kmで飛行できる“ハイパーソニック”旅客機づくりに注力しています。

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Courtesy of Boeing

 ボーイング社は2018年6月にアトランタで開かれた航空宇宙学会の会議の中で、同社初となる「極超音速(ハイパーソニック)旅客機」のコンセプトを発表しました。

 この航空機は商用あるいは軍用での利用を想定しており、2つの大洋を数時間(大西洋を2時間、太平洋を3時間)で横断できるというもの…だそう。

 その設計を見れば、航空宇宙産業の巨人とも言える同社が、将来の高度航空機の開発競争へとしっかりと準備をしていることが理解できるでしょう。

「スピードには本質的価値があります」と話すのは、ボーイング社の研究開発部門で極超音速の上級技術フェローを務めるケヴィン・ボウカット氏。

 ボーイング社は、極超音速技術(マッハ5以上の速度で飛行するための技術)の分野ではいつの時代も無視できない存在です。同社は同分野の研究に1956年から取り組んでおり、「X-15」で世界最速を記録したのち、「X-43」や「X-51」のような試験飛行機を開発してきました。

 ボウカット氏は、「ボーイング社は数十年に及ぶこれらの試験からノウハウを得ています」とし、「これはロッキード・マーティンのような米国企業だけでなく、中国やロシアのエンジニアたちとの新たな極超音速分野での競争において、確実な切り札となることでしょう」と語っています。

動画のように、飛行機が低空で音速に近い速度(時速1225km)で飛行すると衝撃波を生み、轟くような大音響「ソニックブーム」を発生させ、「ベイパーコーン(vapor cone)」と呼ばれる水蒸気による円錐形の雲が発生することがあります。

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 ボーイングが今回発表した航空機は、あくまでもコンセプトになります。

 今後20〜30年で実際のフライトが実現するまでには、間違いなく改良が施されることでしょう。ですが、ボウカット氏はそのような航空機を実現する上での工学上のプロセスを説明してくれました。

 言うまでもなく、離陸のときにマッハ5をいきなり出す必要はありません(誰もが、出したくもないでしょう)…ボーイングの設計士たちは幅広い速度に対応でき、その航空機が高速になるときにバイパスを利用して商用ターボファンエンジンが駆動することを想定しています。 

 従来のエンジンのファンブレードは、マッハ5のような高速飛行では壊れてしまいますし、いずれにしても極超音速で飛行しているときには、空気を圧縮するファンブレードは必要なく、航空機の速度自体がその役割を果たしてくれますので…ちょっと、難しいですね。

 現代のほとんどの極超音速ジェット機が、ラムジェットエンジンに頼るのはこのためです。これは一般には、吸入した空気を(空気抵抗の力を利用した圧力である)ラム圧(ram)に利用して圧縮し、その力で燃料を爆発的に噴射させ燃焼させた排気の反動によって推進力を得るのです。こうしてこのエンジンを利用する航空機は、超高速へと達するのです。

「このラムジェットエンジンの要素に加え、圧縮機・タービンも装備させます。すると、低速時と高速時の空気流入経路を変更することができ、低速時はターボジェットエンジン、高速時はラムジェットエンジンとして作動すせることができるのです。これが、いわゆるターボ・ラムジェットエンジンです。流入空気の流れを調整できるような設計になるのです。これによって、(高速になったとき)流入空気がターボファンエンジンをバイパスして、アフターバーナーのラムジェットに流れ込むようにします。すると、そのアフターバーナーがラムジェットエンジンとして機能するわけです」と、再び難しい話をしてくれたボウカット氏。

 このエンジンによってこの航空機はマッハ5まで加速し、ニューヨークから東京まではなんと2時間で到達できる速度となるのです。

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(C)Boeing

 このような速度は、今回のコンセプトイメージの設計に顕著な影響を与えています。1つには航空機が速くなればなるほど、揚抗比(飛行中の航空機に働いている揚力と空気抵抗の比)が下がってしまうということがあります。

「空気抵抗を低く保つためには、しなければならないことがたくさんあります。この航空機の翼の傾斜が少なく、前縁後退角になっているのはこのためです」と、ボウカット氏は説明します。

 極超音速機では、尾部にも課題があります。

 翼の上側では、空気の流れを機体から逃がすための衝撃波が発生します。これによって尾部付近は非常に低圧になり、この部分が果たす機体の安定や操縦の役割が阻害されるのです。

「尾部付近は、低圧になるとうまく働きません。効果を発揮するためには圧力が必要なんです。ですから、尾部付近が常に高圧になるような極超音速航空機を設計しなければなりません」と。

 ボーイング社では垂直尾翼を2つにして大型化し、より高い空気圧を受けられる位置に配置しました。このコンセプトによって、ご覧のように後部が一風変わったデザインになったのです。

空気を吸い込む

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(C)Lockheed Martin Videos

写真は、NASAとロッキード・マーティンが開発中となっている、マッハ1.4飛ぶ超音速旅客機「QueSST X-plane」です。  


 航空機は速く飛べば飛ぶほど、そのエンジンが同量の空気から生みだす推進力は小さくなるものです。

 これは、より速い飛行機を設計するときにエンジンが大きくなる理由の1つとなります。今回のコンセプトイメージの飛行機は、できるだけ多くの空気をエンジンに取り込むよう設計されており、胴体の傾斜によりエンジンのエアインテーク(空気取り入れ口)に効果的に空気が流入するようになっています。

「より空気を取り込むために、機体を利用するというわけです」とボウカット氏。

 高速で流れ込んだ空気は、エンジンに入るとスローダウンします。が、これは不要な熱を生み出すのです。極超音速航空機には、この熱を処理するための冷却システムが必要になるでしょう。ボウカット氏によれば、ボーイングは液体メタンのような燃料を使い、これが水の代わりに冷却剤としても役立つような方法を探っていると言います。

 乗客を乗せる旅客機となるからには、この冷却システムは将来の研究の中心的な課題となるでしょう。こういった航空機の外板(おそらくチタン製になります)は飛行中の空気摩擦によって、おおよそ593度にも上昇しますから…。

 このコンセプトイメージからは、極超音速機が飛行する高度も明らかになっています。

 この航空機は高度9万5000フィート(約2万9000m)の上空を飛行します。これは大げさに言っているわけではありません。その理由は動圧にあるのです。動圧は空気の流れをせき止めたときに起こる圧力であり、あらゆる飛行において重要なものです。

 動圧については、自動車の窓から手を出し、その角度を変えてみると体感できるのでお試しください。

 そして空気密度は、航空機の飛行を保つ動圧の関係式の主な決定要因となります。 
 

 このため、飛行速度が上がれば、動圧は危険なレベルまで上昇します。3万フィート(約9000m)で飛行する極超音速機は、この動圧によりばらばらになってしまうでしょう。ですが、大気の薄い9万5000フィートの高度では動圧の関係式が釣り合い、同じ飛行機でも安全に飛ぶことができるのです。

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「極超音速機」の開発競争

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(C)TomoNews US

 ボーイング社が、極超音速機の開発を目指していることを明らかにしたのは2018年、つい最近のことになります。 

 同社は2018年はじめ、ロッキード・マーティンの「SR-71 ブラックバード」の後継機種となる可能性を示唆する極超音速スパイドローンを公開していました。

 高速旅客機の開発では、ボーイングは複数の企業と競合しています。なかでも最も進んでいるのが、エアバスと提携するネバダ州のアエリオン・コーポレーションと同社の「AS2」超音速ビジネスジェットです。

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Is The Aerion Supersonic Business Jet Finally Set to Become a Reality? – AINtv
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 この航空機の乗客定員は12人までと、少数ながら最高速はマッハ1.5になる見込みです。同社はこれに関して、2023年の運用開始を目指しています。

 また中国でも、2018年にユニークな設計の極超音速旅客機が発表されました。このジェット機は、高速飛行による空気の圧力を受け流すために主翼が上下2枚に分かれています。

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China's 5Mach hypersonic plane successful test?2020updates
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 このような高速飛行機では、窓がなくなるかもしれません。ボウカット氏によれば、乗客あるいはパイロットの席にある窓でさえ、物理的な窓ではなく、カメラで外の景色を映すバーチャルな窓になる可能性があると言っています。

「極超音速機の高度からは、地球の湾曲や宇宙の暗さを見ることができるはず。素晴らしい眺めになることでしょう」と、ボウカット氏は最後に締め括ってくれました。

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写真は、「ハイパーソニック・グライド・ビークル(HGV)」です。

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(C)The RAND Corporation

 アメリカのシンクタンク「ランド研究所」の研究員は2017年に、超音速ミサイルに関する主要な調査結果を発表しています。これは、毎時5000キロメートル以上のスピードにより短時間で精密攻撃が武器になります。いま世界が恐れている、新たな軍事的脅威のひとつとなっています。

 この脅威から逃れる方法をニューヨークのカーネギー財団もいま研究中で、財団によれば、この「HGV」が実際に配備されるのを10未満内と推測し、早急な防御策の立案に総力を挙げているそうです。

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 また米国のインテリジェンス報告書によれば、ロシアでは「HGV」の開発がほぼ完了し、連続生産の段階に入っているとの読みを見せています。そして、2020年にはロシア軍標準の兵器として使われるという内容になります。 

 この分野の開発は米国が追いついておらず、もし、この兵器で攻撃された場合、現在のところ米国は何も対処できない事態だということ…。もはや、核兵器が抑止力として存在することもなくなるのかもしれません。

 すでに世界の軍事は、新たなるステージに入っているようです。こうしたハイテク機器の開発の裏には、つねに軍事的開発も関係していることも忘れてはいけませんね。


From POPULAR MACHANICS
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。

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