エストニア上空を飛行していたこの戦闘機ですが、誤射の原因はまだはっきりしてません。
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NATO Fighter Jet Accidentally Fires Air-to-Air Missile Near Russian Border
2018年8月7日、北大西洋条約機構(NATO)軍としてロシア国境に近いエストニア上空を警戒飛行していたスペイン軍所属の「ユーロファイター2000」が、空対空ミサイルを誤射するという驚きのアクシデントが起こりました。
そして、この戦闘機はリトアニアのシャウレイ空軍基地に無事帰還しました。が、問題のミサイルの行方はわかっておらず…エストニアのタルトゥ市の北40kmほどの場所に、落下したとの推測のもと調査中のようです。そして、ミサイルには最大10キロの爆薬が搭載されているということ。ミサイルはこうした事故の際には、自爆するよう設計されているはずなのですが…。地上に着弾した可能性もあるも示唆しています。
スペイン当局は近隣を訪れる人に対して、「ミサイルのような形状をしたもの」に注意するよう呼びかけています。
エストニアのユリ・ラタス(Juri Ratas)首相はフェイスブック(Facebook)に、事故は「極めて遺憾」だとした上で、人的被害がなかったことを神に感謝すると投稿。「エストニア軍が同盟諸国と協力して事件の全容を解明し、こうしたことが二度と起きないように全力を尽くすことを確信している」と述べています。
今回の誤射についての調査は、まだ開始されたばかりです。が、現代の戦闘機で、なぜこのような深刻なミスが起こり得るのでしょうか、不思議でなりません。
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「ユーロファイター」は非常に高い性能をもつ戦闘機であり、単にパイロットが謝ってコントロールスティックを傾けただけで、すぐに異常事態に陥るといったシステムでもなければ、ましてや…誤ってボタンを押すだけで、ミサイルが発射されるようなものではないのです。このスペインの戦闘機には、ASC(Armamemt Control System=兵装コントロールシステム)が搭載されています。これはミサイルの発射など兵器の制御を担うシステムになります。
「ユーロファイター」のフライトマニュアルには、「空対空ミサイルの発射には、パイロットと戦闘機そして兵器との連携を必要とする」と明記されています。戦闘機はミサイルの発射前、標的の方向やスピードに関するデータをミサイルへ受け渡すのです。また、同機のユーザーガイドには、「着弾はすべて計算の上、制御されたプロセスで行われます。それは次のようなプロセスになります…」と記せられ…。
《引用》
システムは、兵器の最小射程と2つの最大射程を計算し、ミサイルの射程を示すスケール上に横線でこれらの目印が付けられます。最大射程は2つありますが、このうち1つは1G、つまり直進飛行する標的に対する最大射程であり、もう1つは、回避するために旋回した場合を予想しての最大射程になります。
その他、公式の文献によれば…そのミサイルの爆発の被害領域が最少となる部分を判別しながら射程範囲を円で表示したり、アクティブレーダー誘導式の発展型中距離空対空ミサイル(AMRAAM=Advanced Medium-Range Air-to-Air Missile)をビジュアルモードで起動する場合には、特別の表示になるなど…さまざまな状況で正確性を極めることができるようになっているようです。
とはいえ、ときにはパイロットがすぐにミサイルを打つ必要に迫られることもあります。このような状況では「Boresight Mode(ボアサイト・モード)」と呼ばれるモードでミサイルが発射されます。公式の文献を確認すればこの「ユーロファイター」にも、このモードが搭載されているのが確認できました。
このモードは通常、味方の戦闘機と敵の戦闘機を数で比べた場合に劣っていると判断したときなど、危機的状況でのみ使用されるものです。このモードになると、照準に入った最初の段階でミサイルはロックオンします。このためNATOのパイロットが、偶然このプロセスで発射したというのは考えにくいことなのです。そこに、「必然」がなくては起こりえない事故に思えるのです。
今回のアクシデントについては、厳密な調査が行われるでしょう。そうしなければ、われわれは騒がなくてはならないほど重大な事故なのです。これが人為的ミスなのか? それとも、飛行制御コンピューターのバグなの? などなど、その他考えられる様々な原因に対する早急の究明を願っています。
現時点までのNATOによる説明どおりなら、おそらく、いくつかの原因が複合して起きた事故ではないかと推測する専門家が多いようです。そして運が良ければ、ソフトウェアや訓練に変更を加えることで再発防止が可能となり、この問題を解決することができるのです。しかし、運が悪ければ…この高価な機の開発費が、無駄に終わらぬよう祈るばかりです。