英国軍は若い男性の心に訴えかけるための試みを、数十年以上にわたって続けてきました。こういったキャンペーンのなかで、兵役はあるときは「1年のギャップイヤー」として描かれ、またあるときは、「戦争ゲーム『コール・オブ・デューティ』の延長」のように描かれてきました。

 そして、「男らしさ」の概念がちょっと遅れて進化してきた現代においては、こういった新たなキャンペーンは幾ばくかの「変身への気づき」のチャンスとなることも不思議ではないでしょう。

 「This Is Belonging」という英国軍の新たな動画シリーズが、ここに来て議論を呼んでいます。「This Is Belonging(ここに絆が…)」というタイトルが付けられたこの一連の動画は、新兵が入隊を検討するにあたって抱くであろう疑問を提示し、これに答えるという形をとっています。また、この中では、従来の軍隊生活の映像の代わりにアニメーションが使用されています。

 たとえば、この動画で提示される疑問は、「軍隊で感傷的になってしまったら?」、「軍隊には同性愛者はいるのか?」、「軍隊でも、自らの信仰を実践できるのか?」といったもので、いずれの疑問にも「どんな人であれ、入隊に尻込みする必要はない」というような内容の答えが示されています。

 「軍隊は、自分の感情をまったく表現できない場所のように感じるかもしれません」、「入隊すれば、マシンのような人はいないということがわかるでしょう。軍隊は家族のようなものです」といった文言からもわかるように、この動画はメンタルヘルスを取り巻く悪いイメージを取り除くためのポリティカル・コレクトネス(人種・宗教・性別などの違いによる偏見・差別を含まない、中立的な表現や用語を用いること)的な取り組みにも関わっています。

 しかし、これをある清涼飲料水やアパレルの企業によって同様のことが行われたとしたら、わずかな不快感をもたらすだけでしょう。しかし、これが兵役というデリケートな話題についてのアプローチとなると…。特に、保守系メディアの感情を逆撫でしたようです。

今回のキャンペーンでイギリスの若者たちは、どのように反応したのでしょうか?

 「デイリー・メール」紙や「テレグラフ」紙の記事からは、「英国が誇る軍隊を、ポリティカル・コレクトネス軍団に台無しにされるのはごめんだ」という本音が見えます。

 また「ザ・サン」紙は、「陽気に感じよく人々にアプローチすることは、苦戦する新兵募集の助けにはならないだろう」、というティモシー・クロス少将の言葉を紹介しています。

 一方で英陸軍トップのニック・カーター大将は、この新たなキャンペーンについて「英国の人口動態の変化を反映するもの」とし、「世界は変わり続けており、英国軍も同様に変わらなければならない」とコメントしています。

 では実際に、若い男性たちはどのように考えているのでしょうか? 若者たちに話を聞いてみたところ、今回のキャンペーンへの反応は概ねポジティブなようです。

 「軍隊に入るのがどんな人で、軍隊がどんな場所かに関する神話を覆そうとしており、いいことだと思います」と語ってくれたのは、25歳のパーソナルトレーナーであるルイス氏。

 また、29歳の弁護士であるトム氏は、「軍隊は攻撃性をもて余している、典型的なマッチョ男性を引きつけるものでしょう。しかし彼らが、『ゲイでも歓迎される』とオープンに語ることは予想もしませんでしたし、新鮮です」としています。

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軍隊に入隊することに多くの問題を抱えてしまう若者も...。

 しかしながら、今回のキャンペーンが「軍隊の実態を歪めて伝えているのではないか?」との懸念を表明する人もいます。「メンタルヘルス上の問題を抱えた人は、兵役のプレッシャーには耐えられないだろう」という見方になります。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

 いずれにしても私たちがすべきことは、軍隊のイメージ刷新策をこき下ろしたり、新たなアプローチを讃えたりすることではありません。でも、言わせていただけるなら、彼らは「あらゆる宗教やセクシャリティを受け入れる」ことを主張すること以前に、いじめやセクハラ、そして虐待などが絶えず繰り返されている軍隊の問題に対して、いますぐに、そしてどうすべきかを十分議論すべきではないでしょうか。

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 英国軍でのセクハラに関する2015年の調査によれば、「過去1年で、望まない性的な発言をされた女性兵の割合は40%にも達する」と言います。また2014年のデータによれば、「英国軍で報告されたいじめやハラスメント、差別などの行為の数は前年比で12%増加していた」とも。

 英権利擁護団体「フォースウォッチ」のリアーナ・ルイーズ氏は、「英国軍が本当に最高の場所なら、威厳と敬意をもって個人を尊重し、人権を守らなければなりません」と指摘しています。

 今回の新たなキャンペーンが実態の伴わないマーケティング戦略ではなく、英国軍の本当の変化を示すものであるなら、新兵募集だけでなく軍隊のあらゆる側面を21世紀基準に引き上げて欲しいものです。

Source / ESQUIRE UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。