そして彼はそれを最大限に活用しながら、らしさ爆発…奔放(人によっては、「自分勝手」)に観戦を楽しんでいたのでした。
彼はスタジアムに入ると、未だに自らがピッチ上で戦っているかのような錯覚の陥るようです(いまにもピッチへ飛び込もうとしているようにも見えたので…)。W杯ロシア大会へFIFAのアンバサダーとして招待された往年のスーパースター、ディエゴ・マラドーナ氏は、それはもう嵐のような時間を過ごしたのでした。
1986年のW杯メキシコ大会優勝の立役者は2018年6月26日、サッカーW杯ロシア大会グループDの最終戦第3節となるナイジェリア対アルゼンチンを観戦するためVIPルームに姿を見せました。この日アルゼンチン代表は、試合終了間際の86分にロホ選手のゴールによって劇的な勝利。そして決勝トーナメントへの切符を手にするわけですが、VIPルームではその試合の詳細を気にしているのかいないのか…白ワインを浴びるように飲みながら、大盛り上がりをみせていたのでした。とはいえ、勝利の気配を肴にはしていたことは確かでしょう。
そして、そんなどんちゃん騒ぎの中心にいたのが、そう、アルゼンチンを代表する英雄、57歳となったディエゴ・マラドーナ氏。彼の招聘によって「さまざまな論争と悲劇がロシアにもたらすことだろう」と、すでにマスコミは予想されていたのですが…FIFAは彼の招聘に対し1万ポンドを支払うことを止めなかったのです。そして予想に反することなく、このような事態となったわけです。
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渡航費・宿泊費・その他の経費に対しては目をつぶったとしても、彼の招待には1日1万ポンド(およそ140万円)もの費用がかかっています。しかしながらこれは、FIFA現会長のジャンニ・インファンティーノ氏の方針によるもの。サッカー界のレジェンドを有効に使っていくことで、さらなるプロモーションを行っていくことがFIFAの方針だということなのです。
彼の存在によって、W杯がもつ歴史の重みをその歴史を知らない若者たちに再確認させることを狙ったのでしょう。また、現在はロシアの隣国であるベラルーシのサッカークラブ「FCディナモ・ブレスト」の会長も務めているということもあって、その効果を期待したのでしょう。そして結果はこうような状態となったにせよ、ロシアのスタジアムへ、かつてのレジェンドが降臨してきたことは実に効果的だったのではないでしょうか。こうして世界はさらに注目したわけですし…。
こうした観点からも今回のマラドーナ氏のギャランティが、ブラジル元代表のロナウド氏やスぺイン元代表のカルレス・プジョル氏とシャビ氏、さらにサミュエル・エトオ氏を含むその他のレジェントプレーヤーたちより高額であるということに関しては許容範囲となるでしょう…。とある日のピッチ上で展開するプレー以上に、エキサイティングな瞬間を世界中に示してくれたのですから…。
公平かつ冷静な判断で言わせていただけば、このSNS時代にはとても効果的な存在であったことは確かで、その額は正当だとも言えるのです。
そしてマラドーナ氏が、このような悪行を見せながらも、いまだに愛するファンが多数存在するのです。なぜなら…その理由の1つを今回も見せてくれました。健康危機に陥ったにもかからわず、すぐに回復。しかも、このような元気な姿を見せてくれるのですから、堪りません。
【この滞在で行ったマラドーナ氏のプロモーション活動とともに、マラドーナ伝説を写真で振り返ってみましょう!】
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 01
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では最初に、英国のタブロイド紙「THE SUN(ザ・サン)」がまとめた、今回のマラドーナ氏の観戦の様子を動画でご覧ください。
このように、多くの関係者が懸念したとおりのこととなりました…が、ある意味、これはサッカーの偉大さを世界へと知らしめる、効果的なプロモーションにもなったようにも思えるのです。ここにマラドーナ氏の引退会見での名言をご紹介しましょう。
「俺は数多くの過ちを犯した。でも、フットボールを汚したことなんて一度たりとも無いんだ」
この言葉を噛みしめながら、それぞれの試合での観戦ぶりを、写真でご確認ください。
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同じく2018年6月14日、ルジニキ・スタジアムのスタンドでグループAの第1節、ロシア対サウジアラビアを観戦中のマラドーナ氏(右から2人目)。ここに座る面子は、このたび招待されたレジェンドプレーヤーたち。左からスペイン元代表のシャビ選手(38歳)、同じくイケル・カシージャス選手(37歳)、カルレス・プジョル氏(40歳),そしてアルゼンチン元代表のディエゴ・マラドーナ氏(57歳)、最後にブラジル元代表のロナウド氏(41歳)が並びました。この日は初日であり、スーツ姿であり、しかも、スタープレーヤーが並ぶ席だったので、神の子も静かに観戦していました。
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2018年6月16日、W杯ロシア大会第3日目の第2試合。アルゼンチン代表のグループDの第1節、アイルランド代表戦でのマラドーナ氏の様子をどうぞご覧ください。いくらVIP席とはいえ、禁煙のはずなのですが…。
このツイートでご確認ください。
また、このようなツイートもあります。
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こちらも2018年6月16日、W杯ロシア大会第3日目の第2試合。アルゼンチン対アイルランドを観戦するマラドーナ氏。でも、この日の行動は「控え目だった…」と言ってもいいでしょう…。
しかし、BBCの記者であるジャッキー・オートリーさんはこんなツイートをしています。
韓国から来たファンが「ディエゴ!」と呼びかけられると、目を細めるようなジェスチャーを返していたということ…ですが、これは彼の茶目っ気であると信じます…。とにかく、大いに楽しんでいたのは事実なのです。
ちなみに、この日のマラドーナのウエアは? 代表ユニホームは着ていませんが、同国がW杯初優勝した1978年アルゼンチン大会の公式ロゴが入ったスウェットを着用していました。
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2018年6月21日のマラドーナ氏。
ニジニ・ノヴゴロド・スタジアムで行われたグループDの第2節、アルゼンチン対クロアチア戦を観戦するマラドーナ氏。第1節のアイスランドと引き分けで迎えた大事な第2戦だけあって、少々興奮気味の神だったのです…。
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2018年6月21日のマラドーナ氏。
振り回していたTシャツらしきものは、背番号10でMESSIと書かれていました。「ドリブルで蹴散らせ!」とでも言っていたかもしれませんね…。
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2018年6月21日のマラドーナ氏。
次には手品師のように(笑)、違うTシャツをファンへ見せるマラドーナ氏。両手に腕時計を着用しながら広げたTシャツには、「TE QUIERO SOY UN BARDO(あなたのことが好きだ、でも僕は詩人なんだ)」というメッセージが書かれていました。これもプロモーションの一環でしょうか(笑)。
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2018年6月21日のマラドーナ氏。
ファンサービス中も、ピッチ上のプレーも視野に入っているようで、さすがです。アルゼンチン選手のミスでしょうか、それともクロアチア選手のファールでしょうか? いきなり本気で怒り出すマラドーナ氏。
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2018年6月21日のマラドーナ氏。
そして、この日の結果は…? このマラドーナ氏の表情が物語っています。0-2でクロアチア代表の勝利。ここまでの2試合で、アルゼンチン代表は1分1敗の勝ちなし。瀬戸際に立たされたのでした…。
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そうして迎えた2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節、ナイジェリア戦でのマラドーナ氏の様子をご覧ください。もはや説明は必要いりません…このマラドーナ氏の興奮度マックスをご覧ください。アルゼンチン代表が予選突破するには、もう、勝利しかありませんでしたので…。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。ファンからの声援を受け、応えているところ。まるで名作映画の一場面のよう…FOXは伝えています。確かに…。
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。試合前、自身が描かれた横断幕をファンから譲り受け、自ら観客へ向けて掲げる様子。
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 18
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。興奮しているばかりではなく、休息をとる大切さも忘れていないようです。
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 19
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2018年6月26日、予選グループDの最終戦となる第3節ナイジェリア戦でのマラドーナ氏。この日、アルゼンチン代表は2-1でナイジェリア代表を破り、決勝トーナメント進出を決めました。その2-1のポーズでしょうか!?
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 20
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そして最後のシリーズは2018年6月30日、カザン・アリーナにて。16チームによる決勝トーナメント第1回戦で、アルゼンチン代表とフランス代表との対戦を観覧するマラドーナ氏です。右は現在のパートナー、名門リバープレート女子チームの元選手だったロシオ・オリーバさん。左はブラジル元代表のロナウド氏。
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 21
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2018年6月30日、隣のブラジル元代表のロナウド氏の目がピッチ上にあるからといって、こんなことまで…。さすがの視野の広さは維持しているようです。ですが、これはきっとほんの挨拶程度のことでしょう。マラドーナ氏の舌が見えるような気がしますが…。
現在のディエゴ・マラドーナ氏を知る 22
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そして2018年6月30日、フランス対アルゼンチンは4-3でフランスの勝利となりました。アルゼンチン代表のエースであるメッシ選手は、2点目3点目のアシストで活躍したものの、自身のゴールはなかったのでした。ここにメッシ選手のマラドーナ超えが期待された、アルゼンチン代表にとってのW杯ロシア大会は終了となったのでした。W杯史上に残る点の取り合いとなった見事な試合…その観戦に疲れたのでしょうか、「ふっー」と息を吐くマラドーナ氏でした。今後は冷静に、アンバサダー業に取り組むことでしょう…。
最後に、ドーピング使用疑惑をかけられたときのマラドーナ氏のお言葉を紹介しておきしょう。
「俺がやったドーピングは、努力だけだ」
BY NICK POPE on June 28, 2018
Photos by Getty Images,
ESQUIRE UK 原文(English)
TRANSLATION BY Kaz Ogawa
編集者:小川和繁