いま、ロシアのスパイ活動にはかつてのような輝きを見ることはできません。ロシアのスパイと言えば、自らも英国のMI6に所属した経験を持つジョン・ル・カレのスパイ小説であろうと、取材協力を拒否するような冷淡で容赦なく断固としたイメージがあります。が、今やまったく間抜けな者たちの集団に成り下がってしまったようです。
最近、ロシアのスパイとして、2人の男性(ロシアの元スパイである、スクリパリ氏の毒殺未遂に関与したとされています)が糾弾されていたのはご存じでしょう。現地メディア「ロシア・トゥデイ」のインタビューを行った際の記事は、記憶に新しいことでしょう。
彼らは「ソールズベリー大聖堂などを訪れるため、ちょっとした週末旅行に来ていた」と話しましたが、なぜかイーストロンドンのボウに滞在し、土日両日ともソールズベリーに行きながらも大聖堂を訪れることはなく、この街から帰ると、すぐにモスクワに帰国しています。
また、覚えていたことと言えば、この大聖堂のWikipediaページの最初の1・2段落に書かれていた程度のことに過ぎませんでした。このようなずさんな仕事は、ロシアのスパイ組織である連邦軍参謀本部情報総局(GRU)においても蔓延しているようです。
というのも、オランダ捜査当局は2018年10月4日(現地時間)、スクリパリ市の毒殺未遂事件の調査を行っていた化学兵器禁止機関(OPCW)へのハッキングにGRUの工作員たちが関与していたことを、北海沿岸に位置する事実上のオランダの首都で、アムステルダムとロッテルダムに次ぐオランダ第3の都市でもあるデン・ハーグ(オランダ)での記者会見で発表しました。
このハッキングにおいて彼らたちは、非常に間抜けなミスを犯していたことが明らかになったのです。今回、そんなロシアの工作員たちが犯したミスを紹介いたしましょう。
ロシアが送り出した工作員たちの情報は、グーグル検索で簡単に見つかった
2018年3月に英南部ソールズベリーで、ロシアの元スパイ、セルゲイ・スクリパリ氏(66歳)と娘のユリアさん(33歳)が毒殺未遂に遭いました。この事件で使用された有毒の神経剤「ノビチョク」を調査していたOPCWですが、工作員たちは同機関の建物に隣接する駐車場にクルマを停め、車内のコンピューターから同機関のWi-Fiネットワークにアクセスしてハッキングを行う計画だったと言います。しかし、彼らの試みは英国の捜査当局から情報提供を受けたオランダ捜査当局に阻止されてしまうのでした。
なぜバレてしまったのでしょうか?
その理由の1つには、実行犯のアレクセイ・ミニン、オレグ・ソトニコフ、エブゲニー・セレブリャコフ、アレクセイ・モリニェツの4人が、ロシアのエリートスパイ養成校の卒業生であることがグーグル検索でわかってしまったからということなのです。この学校は、スクリパリ氏の毒殺未遂の容疑者として挙げられているアナトリー・チェピーガの出身校ともされています。
工作員の1人は、自らの自動車をスパイ養成校の住所で登録していた
ロシアの車両登録データベースは正式には公開されていません。ですが、グーグル上では簡単に見つけることができます。
今回の工作員の1人は、「the Aquarium」という名で知られるエリートスパイ訓練基地の住所に自らのホンダ「シビック」を登録しており、親切にも基地の電話番号まで登録していたのです。
欧州に亡命した元GRU工作員の1人はこの基地について、「極秘の存在で、ロシア市民はその存在を明かすだけでも投獄される可能性がある」と語っていますから、このうかつなホンダ乗りはただでは済まないことでしょう。
ある工作員は、モスクワの諜報員たちからなるアマチュアサッカーチームに所属していた
グーグル検索によれば、工作員の1人であるセレブリャコフは2011〜2013年までモスクワのアマチュアリーグチーム「Radiks」の選手だったことがわかっています。
元チームメイトのヤン・イェルショフは「モスクワ・タイムズ」紙に対し、彼の仕事についてこう語っています。
「『何らか政府のエージェント』だったのは、公然の秘密だった」と。
このチームについて、「ほとんどのメンバーがロシアの諜報機関で働いており、『セキュリティサービス(秘密諜報機関)』チームとして知られていた」としています。イェルショフによれば、セレブリャコフは「まともなプレイヤー」で、今でもチームにときどき励ましのメッセージを送ってくるそうです。
工作員たちは「経費をちゃんと請求したい」という誘惑に勝てなかった
オランダの捜査当局は、工作員たちがGRUの官舎から直接モスクワ空港に向かったことを示す、タクシーの領収書を発見しました。おそらく彼らは帰ってから、タクシー代を経費として請求するつもりだったのでしょう。
GRUの大規模な計画においては、際限なく経費を使えることが魅力的なメリットの1つだったのでしょうが、タイミングと場所には気をつけるべきでした。
工作員たちは、続き番号の外交パスポートを持っていた
欧州各国がこのパスポートの不審さについて一致した見解を示す一方、ロシア当局は憤然としてこれを否定しています。
ジャーナリストで長年ロシアメディアに目を向けてきたジュリア・デイヴィス氏によれば、今回の騒ぎへのロシア国内の反応は戸惑いと皮肉が入り混じった様相だと言います。例えばテレビに登場したある専門家は、「われわれがそれほど無能なら、どうやってドナルド・トランプを権力の座につけることなどできたでしょうか」と、皮肉っていたそうです。
ジュリア・デイヴィス氏のツイート
ドミトリー・ネクラソフ氏がロシアのテレビ番組で語った内容:「われわれはあまりにも無能だったので、すべてのGRU工作員のパスポートを続き番号にしてバレてしまいました」
かつて恐れられていたロシア工作員ですが、今では世界を代表するスパイ組織のCIAやMI-6などに比べると、大きな差があることは明らかなようです。きっと彼らはプーチン大統領の怒号を受け、しばらくすると、再びかつてのように素晴しい仕事をすることでしょう。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。