ですが、現代的な保守派の考え方である思想の醜さや、うわべだけのセリフによる絶え間ない大混乱について思いを馳せると、今回の一件は非常に価値のあることです。いつもなら、ゾンビのような眼をして常に獲物を狙っている感じの、ウィスコンシン州出身の下院議長ポール・ライアン氏の提出する「予算案」は、同僚たちをカーテンの後ろに隠れさせ、経済学者たちを死にたい気分にさせるものでした。 

 いつものように「ニューヨーク・タイムズ」紙や、他の「一流の」メディアの多くが真っ先に取り上げたのは、今回の予算案がどれだけ赤字を膨らませるのか?でした。つまり、酒場における「経済の第1原理」に、真っ向から違反しているのです。人員コストは膨大なものとなっています。 

 
 新法案では、今後2年間で軍事費は1950億ドル(約20兆6700億円)の増加、非国防費は同期間で1310億ドル(約13兆8000億円)の増加となっています。 

 これに対し大統領は、2019年の非国防費として5400億ドル(約57兆2000億円)を提示しており、議会が可決した額より570億ドル(約6兆円)低い額となっています。計画にはメディケイド(低所得者向け医療保険制度)やメディケア(高齢者向け医療保険制度)、政府によるフードスタンプ(食料補助)といった国内プログラムに対する予算を、1兆8000億ドル(約190兆円)以上削減することが含まれています。 

「低所得者向けの食料補助プログラム『補助的栄養支援プログラム(SNAP)』は、今後10年間かけて30%以上削減する」、としています。さらに「就労可能な身体を持つ」フードスタンプの受給者に対しては勤労を義務付け、また、配給方法の変更も盛り込まれています。クーポンを使用して店で食料を購入するシステムに代わり、「国内産100%フードで作られた家庭向け」お弁当が支給されるというのです。

予算局の局長ミック・マルバニーの見解とは?

 ちょっと想像してみてください。 

 一体、どれだけの家族がこのふざけたプログラムにより、さらに苦しむことになるのでしょう。

 お弁当の予算?「国内産100%フード」? この大統領は、虐待的な行為すら愛国心に基づいています。現在、予算局の局長であり、「ティーパーティー(保守派運動)」から成りあがったミック・マルバニー氏にしてみれば、お弁当の予算すら贅沢すぎるものだったようです。 

 
 マルバニー氏は、「議会が可決した国内支出額だと、米国の赤字が増大しすぎてしまう」と、手紙の中で述べています。その代わりに、約110億ドル(約1兆1000億円)かけて医療給付制度の支払方法を変更し、ソーシャル・セーフティネットを縮小する提案をしています。このことが意味するのは、「議会の承認が不要な自動的に資金が投入されている必須プログラムを廃止し、そのコストを今後、勝手に用途を変更したり打ち切られたりしかねない資金で補う」というものです。 

 ここでマルバニー氏が伝えるメッセージは、「議会の皆さん、このお金を全部使う必要はないんですよ。でも、もし使うなら、このように使ってくださいね」というものです。 
  

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写真:どこか余裕の表情を見せる、ミック・マルバニー氏。Photograph / Getty Images 

 
 ソーシャル・セーフティネットの予算削減も盛り込まれています。このことにより、大統領がキャンペーン中に発した言葉はまったく意味がなかったことを証明しています。もちろん、みんな知っていましたが…。 

 今後10年間でメディケア予算は2660億ドル(約28兆円)、メディケイド予算は1兆1000億ドル(116兆円)の削減となります。ソーシャルセキュリティに関しては、社会保障身体障害保険(SSDI)に目をつけ、720億ドル(約7兆6000円)の削減を目論んでいます。全米芸術基金および公共放送サービスは、予算を撤廃する予定です。さらにインフラ・ウィークを記念して、道路信託基金を削減します。

今回の予算は、何のためにあるのか?

 2018年2月13日、私たちはエイブラハム・リンカーンの誕生日を祝いました。

 彼はプロジェクトを完了することが国家の統一につながると信じ、市民戦争中も国会議事堂の建築作業を続けさせました。国内が激しく対立しているときに、利益の勘定以上のことに政治の価値を置いていた大統領は彼だけではありません。歴史家のアーサー・シュレジンジャー Jr.氏は、次のように記しています。 

「市民戦争が3年目に突入したとき、エイブラハム・リンカーンは国会議事堂を完成させるように指示しました。戦争に費やすべき人員や予算が割かれることを批評されたとき、リンカーンは『国会議事堂の建設続行は、国家統一に向けた我々の意思の継続を国民に示すものだ』と応えました」。 

 フランクリン・ルーズベルトは戦時中の1941年、この話を思い出し、ワシントンに国立美術館を建築しました。そして1962年に、ジョン・ケネディが芸術に対する国民の支持を求めたとき、彼はこの2つの話を思い起こしていました。リンカーン、ルーズベルト、ケネディの歴代大統領たちは、「国家において邪魔されることのない芸術というのは、国として目指すべき姿に非常に近いものがあり、国としてどの程度洗練されているかを試すものだ」と語っていました。 

 今回の予算は何のためにあるのでしょうか? 力ない人々を恐怖に陥れるためです。

 これは大統領のすることではありません。そして、成熟した民主主義国家のすることではありません。それどころか、普通の大人のすることではありません。

From ESQUIRE US 原文(English)
Translation / TransMart
※この翻訳は抄訳です。