ドナルド・トランプ氏が米大統領選に出馬した際、冷淡さという武器を米国の政治の世界にもち込みました。
それはさまざまな形で表れましたが、そのひとつは、異国で暮らす罪のない人たちの死に対しての“完全なる無関心”というものでした。トランプ氏は「テロリストの家族までも攻撃してしまえ!」とおおっぴらに主張。そして、政治集会では演台の上から、ISIS(イスラム国)と戦うための自分の戦略は「彼らを爆撃して震え上がらせること」だと示唆していたのです。
トランプ氏は別の機会にも、この考えを口にしていたのも事実です。
トランプ氏を支持した人のなかには、トランプ氏のこの発言を「大統領候補の口から出た単なる選挙用のレトリックに過ぎない」として、自分自身を誤魔化した人たちもいました。
しかし、2018年4月5日(米国時間)付の「ワシントン・ポスト」紙の記事には、トランプ氏のこの発言が単なるレトリックではないこと、そして、トランプは大統領就任後もこの考えをまったく変えていないことを示唆する話が載っていました(トランプ氏が暴力に嫌悪感を示したことは一度もなく、また、彼が人前で他の人に本当の意味で共感したこともほぼありません)。
<記事の引用>
その後、CIAでは民間人の犠牲者を最小限に抑えるために、同局のドローン作戦責任者が「特別な弾薬を開発した」と説明しても、大統領は興味を示さなかった。また、標的とされた人間の家族が家から離れるまで、CIAが攻撃を手控える様子を記録したビデオを観ながら、トランプは「どうして待ったんだ」と尋ねたと、このミーティングに参加したある関係者は回想した。
これは大統領の考えが垣間見られる、とても不安になるエピソードです。特に米国の爆撃で死傷したイラクとシリアの民間人犠牲者の数が、2017年には前年の2倍に増加していたとする推定が出ていることを考え合わせると、なおさら不安になります。
テロリストの疑いのある人間と一緒に民間人にも攻撃を加えることは、トランプ氏が熱に浮かされてみた大統領のテロ対抗策に関する夢であるばかりでなく、いまではそれが実際にテロに対抗する米国の方針になっています。このエピソードが示しているのは、そんな現状なのです。
終わりのない戦争に、終わりは本当になかった…
終わりのない「テロとの闘い」について、私たちはこれまでずっと無関心でした。そして、トランプ氏を巡るサーカスのようなドタバタが国内で続くなか、この問題は基本的に姿を消してしまいました。
もし、そうでないとすれば、イラクやシリアにいる罪のない人たちを殺すことで、彼らの友人たちや親類たちを親米派に変えられると思っているのでしょうか。民間人に対しての攻撃が、あとに残される友人や親類を反米的なテロリストグループから引き離すことにつながると思っているのでしょうか。
そして、2018年4月5日付の「ワシントン・ポスト」紙の記事で完全に明らかになったように、終わりのない戦争は本当に終わりがありません(少なくとも、米軍の上級幹部らはそう考えているようです)。
<引用>
ジェームズ・マティス国防長官も2017年11月後半、シリアでイスラム国や同様のグループが再び現れることを防ぐうえで、米軍の演じる役割を拡大させることについての概要を説明した際、その点に関して口にしていた。「このひどい状態に対して、いま何かをする必要がある」と彼は記者らに語った。「武力を行使するだけで、そのほかのことについては『幸運を祈る』というわけにはいかない」
<引用>
マティスの発言には、ペンタゴン関係者の間で広まっているコンセンサスが反映されている。明確な結果がないなかで、米軍上層部の多くは現状維持が勝利と同義であると考えるようになっている。このころ上級幹部らは、「際限のない戦争(“infinite war”)」について話している。
<引用>
米空軍のマイク・ホームズ将軍は今年行ったスピーチのなかで、「負けているのではない。試合に出続け……自分たちの目標を達成しようとしているのだ」と述べていた。
これは、ジョージ・オーウェルの小説に出てくるような恐ろしい台詞です。"It's not losing, it's pursuing your objectives.(負けているのではなく、自分たちの目標を達成しようとしている)"…米軍の上層部は簡単に言えば、「米国にはこの戦争に勝てる可能性はなく、われわれにとって唯一の選択肢は永久に戦い続けることだけ」、と言っているということになるのです。
米国の手元に残された選択肢は、際限のない戦争しかないのか?
中東での「際限のない戦争」―― 米国に対して敵意を抱く人々が暮らす国々を、無期限に占領しようとする戦争に対して、国民は具体的にいつ同意したというのでしょうか?
念のために記すと、米連邦議会はシリアに対して宣戦布告もしていません。また、米国の軍隊が現在駐屯したり戦闘したり、兵士が死んでいたりしているアフリカや他の地域の国々にも宣戦布告はしていないのです。
オバマ政権と同様に、トランプ政権も2003年の「2003 Authorization to Use Military Force(軍事力行使権限)」(対イラク戦を具体的に想定したもの)を利用して、世界全体で軍事介入してきています。宣戦布告にあたっての連邦議会の役割は、過去数十年間に徐々に浸食されてきました。しかし、これは憲法に関わる事柄が本当に崩壊してしまったという事実を示す、もっとも甚だしい例なのです。
「米国を中東の泥沼状態から引きずり出すことにより、大きな関心を示しているように見えるのがトランプ氏だ」というのは、奇妙なねじれを生じさせているのは事実です。問題は彼の方法では、「中東という土地を、できるだけ素早く駐車場へと変える」方法を模索しているだけに過ぎないように思えるのです。
<引用>
トランプ氏の言葉は、公で発せられたものも、プライベートな場で発せられたものも、ある見方を示している。それは、「戦争とは残忍かつ素早く行われるべきであり、そのためには圧倒的な攻撃能力を使って、場合によっては民間人の犠牲者のことなどあまり考慮せずに遂行されるべきだ」というものだ。大統領にとって米国の敵に対する勝利とは、彼が大統領選の遊説中に口にしていたように爆撃で、“the s--- out of them,(彼らを震え上がらせる)”ことを意味する場合が多い。
<引用>
トランプ氏は2018年4月上旬に、このテーマを再びもち出してきた。また3月には、オハイオでの集会で「われわれはイスラム国を叩きのめした」と発言していた。あの自慢話は大統領が米国の兵隊を、「早急にシリアから引き揚げる」と言い張っていることを意味していた。
そうしたことでいま、米国の手もとに残された選択肢は「際限のない戦争」か、それともより「短期間で済む、ただし人道的には最悪の事態」しかありません(たとえ後者を選んだにしても、おそらくこの問題は解決しないでしょう)。そして、このふたつの観点は、現在米国の外交および軍事に関する方針策定に携わる人々が保持しているものになるのです。
Source / ESQUIRE US
Translation / Hayashi Sakawa
※この翻訳は抄訳です。