2018年の夏は、大変動の前触れとして記憶されることになるかもしれません。あるいは大変動は、すでに「起」を通り過ぎ、「承」の段階へと進んでいるのかもしれません。ならばタイミングで言えば、シナリオライターは効果的で素晴しい「転」のストーリーを考えなくてはならない時期なのかもしれないのですが…。

ここ最近、アメリカでは山火事や台風、そして洪水といったニュースがほぼ毎日のように報じられています。これらのニュースは、しばしばポルノ女優への口止めやオマロサ氏の録音テープといったトランプ大統領に関する話題にかき消されてしまっているのですが…、まさに今世界で起こっている重大なる災害なのです。

米国西部では、現在も山火事が続いています。が、注目を集めたのはトランプ大統領がその対策に関する低レベルのアドバイスをしたときだけでした。

東南アジアとインド亜大陸の大部分はこの夏洪水の被害を受け、2018年7月にはギリシャも山火事に見舞われました。ヨーロッパは熱波に襲われ、イギリス諸島の一部では2018年6月の平均気温が、観測史上最高を記録しましています。またスウェーデンは2018年、過去260年でもっとも暑い7月となり、シベリアの気温さえ32度に達したのです

世界各地で異常気象が続くなか、2018年8月21日付の「ガーディアン」紙がある驚くべきニュースを伝えました。

これによれば、科学者たちが長年最も安全と考えてきた北極の一部の氷でさえ、すでに溶け始めたというのですから。以下に引用します。 

ガーディアン紙より引用: 
世界最古の最も厚い北極の海氷が割れ始め、通常は夏の間でさえ凍っているグリーンランド北部に開水域ができています。この現象は過去には見られなかったものですが、北半球の暖かい風と気候変動による熱波により、今年は2度も起こっています。グリーンランド北部沖は通常、強固なまでに凍結しており、「地球温暖化の影響で溶ける北半球最後のエリアになる」と予想されていたこともあります。このことから、最近まで「最後の氷原」と呼ばれていたのです。
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シベリアなどの
永久凍土の融解が進めば
メタンガスが放出されてしまう

融氷に関する最も差し迫った不安は、沿岸都市を危機にさらす海面の上昇です。が、科学者たちの間では近年、融氷が温暖化を加速させるフィードバックループ(フィードバックを繰り返すことで、結果が増幅されていくこと)を助長することを懸念する声がますます高まっています。

例えば、海氷は完全に透明ではなく光を反射します。ですが、融解が進めば、より暗い色の地面や海水が表面に出てきます。こうなると多くの熱を吸収し、周りの氷の融解スピードや海面上昇を加速させてしまうわけです。

また、シベリアなどの永久凍土の融解が進めば、メタンガスが放出されます。このガスは二酸化炭素ほど長くは大気中にとどまることはありませんが、二酸化炭素のおよそ30倍の熱を閉じ込める温室効果をもっているのです。

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山火事を静かに見つめる男性の姿。

科学者たちはまた、世界的な気温の上昇が極渦(北極や南極の上空にできる大規模な気流の渦)を弱化させていることに対しての懸念も強めています。

過去には急な気候変動に重要な役割を果たしてきた大西洋の暖流であるメキシコ湾流は、融氷と海水温上昇により過去1600年でもっとも弱いレベルになっています。こういったさまざまな影響によって地球が「温室状態」になれば、フィードバックループ(フィードバックを繰り返すことで、結果が増幅されていくこと)があまりにも強力となるでしょう。

そうなると、もはや時すでに遅し。

いくら二酸化炭素排気量を削減し、温暖化に歯止めをかけようと人類がいくら試みても、まったく無意味なものとなってしまうか可能性も大。もはや、後戻りができない段階になってしまうわけです。

では、このように世界が新たな局面を迎えた今夏、世界で最もパワフルな国である米国はどんな立場を示しているのでしょうか。そんななか、まず初めに米国大統領は2018年8月中旬、風力発電への嫌悪と「クリーンコールテクノロジー( 石炭を燃やしたときに発生する二酸化炭素・硫黄酸化物・窒素酸化物などの有害物質を減少させる技術)」推進に関して自らの考えを述べたのですが、これまたお粗末…。

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ツイート内容:
こちらは、ニューヨークで先週行われた資金集めでトランプが、石炭や風力発電について語った言葉の書き起こしになります。ーダニエル・デール氏 

もはや驚きはありません。トランプ大統領は世界史上稀に見る愚か者であり、自らが数十年前に内面化した現実の断片に根ざした世界観と、非常に限られた思考能力の万華鏡を通して世界を見ているのです。彼は傲慢な愚かさの象徴であり、米国社会に広がる頑固な反知性主義の破壊的性質を体現する存在なのです。

ジャーナリズムの世界でも言えば、ある種の「転」を迎えています。それは、トランプ氏のあらゆる発言の分析を試みるという新たなジャンルが成長しつつあるのです。その試みが成長すればするほど、彼の発言の内容は「嘘と個人的因縁にまみれている」と断言できるようになるわけです。

というのも、ほんのちょっと深追いしただけで、トランプ氏が風力発電を忌み嫌うのは、スコットランドの企業がトランプ氏の所有するゴルフコースがある海岸沖に、風力発電所を建設しようとしたことが原因であるのではと察しがつくわけです。

ゴルフ場の景観が台無しになることを恐れたトランプ氏は、風力発電に関するデマを何年もの間拡散させ、「風力発電で野鳥が死んでいる」という問題意識をもつ人々に寄り添うフリをしてきたに過ぎないのです。

そもそも、「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律」を無力化しようとしている政権の大統領が、鳥類を本気で心配しているはずがありませんので…。

安価な天然ガスの台頭により
石炭は競争力を失いつつある

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とはいえ、石炭輸出が増加しているというのは事実です。

たしかに、石炭輸出は2016年〜2017年にかけて60%増加しています。つまり、トランプ氏が述べている「クリーンコールテクノロジーの輸出」など実施していないも同然なのです。彼が輸出を推進しているのは、大気を汚染しない、地球温暖化につながらない石炭なのでしょうか? いえいえ、そもそもそんな石炭など存在しません。

クリーンコールテクノロジーとは、石炭を燃やしたときに発生する一部の二酸化炭素を減少させる技術のことになります。そして、もし米国が輸出を推進したとしても、この技術を利用する国が存在しなければなりません。

さらに重要なこととして、安価な天然ガスの台頭によって石炭は競争力を失いつつあるのです。

このためトランプ政権は、石炭火力発電所を国家安全保障のインフラとみなす冷戦時代の法律を使用して、石炭を支えてきたわけです。同政権の政策は、エネルギー供給業者に石炭火力発電所からその稼働継続に十分な電力を買い取るよう命じています。気候変動の危機が迫っているにもかかわらず、米国はおそらく最も汚い化石燃料を実質的に助成しているのです。

たしかに、多くの石炭生産地域の労働者たちは苦しい生活をおくっているのは事実かもしれません。ですが、この政策が本当に彼らの生活を救っているのでしょうか? そして、その代償がどのような状況を引き起こすのか想像できないのでしょうか? いまのところ、想像できない…というよりも、想像したくないのかもしれませんが。

共和党は「気候変動は人間がもたらした現実の問題である」という科学的コンセンサスを否定していた

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またトランプ氏は、米国を「パリ協定(温暖化ガス排出量を削減するための法的拘束力のない国際的な合意)」に対し、世界で唯一の非参加国となることを決定的にしたのです。米国の離脱発表は、歴史に残る国家の恥とも言うべき瞬間でした。

またトランプ政権は、オバマ政権下で施行された「クリーンパワー計画(パリ協定の排出量削減目標を達成するための基本的枠組み)」の撤廃を進めており、メタン(二酸化炭素の30倍も熱を閉じ込める温室効果ガス)の排出規制や自動車の排ガス規制についても見直そうとしています。

そうです、彼は何もかも廃止しようとしているのです。

このような歴史の分かれ目に立っているのが、無知で荒っぽく、人類の文明の未曾有の危機を「中国のでっち上げだ」と誇らしげに言い放つようなリアリティショーのスターなのですから、開いた口が塞がりません。

「風力発電は野鳥を殺すだけだ」と主張し、干ばつが引き起こした米国西部の山火事と戦う消防士たちに対し、ゴルフのラウンドの合間にアドバイスをするような人物なわけです。

そもそも共和党は、この新たな国辱の時代の以前から、「気候変動は人間がもたらした現実の問題である」という科学的コンセンサスを否定してきました。西欧諸国の大政党で、そんな政党は他に見当たりません。

ですので、仮にトランプ氏でない人物が共和党大統領になっていたとしても、米国は自滅的な愚かさと強欲に沈み込んでいたこととも言えるのです。とはいえ、北極の新たな棚氷(たなごおり)が崩壊に向かうなかで、風力発電を毛嫌いし、「クリーンコールテクノロジー」を推進するトランプ氏の演説は、この上なく不快で苛立たしいものなわけです。

このままでは、われわれは後世で「世界が山火事や洪水、猛烈な嵐などの気候変動の明らかな兆候に見舞われるなかで、ストーミー・ダニエルズ(ポルノ女優)や国債について議論していた愚かな国民」として歴史書に残るでしょう。そうなれば、子どもたちにどう弁解できると言うのでしょうか。

世界中の問題となっている気候変動に対し、明るい兆しがあることを皆さんで祈るしかありません。

Source / Esquire US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。