2018年4月10日(米国時間)、Facebook社のマーク・ザッカーバーグCEOが2016年の米大統領選におけるロシアの干渉疑惑に関しての米上院公聴会で謝罪しました。

その米上院公聴会の様子は偉大なる米国議会の歴史のなかでも、もっとも奇妙で理解し難いストーリーが展開する劇場とも言うべきものでした。この公聴会の表向きのテーマは、「Facebookがケンブリッジ・アナリティカという企業の問題にどのように対処したか」ということでした。

ケンブリッジ・アナリティカは、保守派の献金者である大富豪のマーサー家とつながりがあり、つまりはトランプの選挙運動に関わっていました。

しかし実際、この議会証言の様子をたとえるなら、「主に20世紀の白人男性たちが運営する18世紀の機関が、選挙において21世紀のテクノロジーを活用した不正に取り組む」とも言える内容だったのです。議員たちの多くに言えることは、「ザッカーバーグ氏への質問は、自分たちの孫に任せた方がまだ良かったのでは」ということになります。

ザッカーバーグ氏は証言のなかで、Facebookがケンブリッジ・アナリティカ、そしてロシアのサイバー工作に容易に出し抜かれてしまったことについて、長い時間をかけて謝罪しました。

「Facebook社を経営してきたなかでもっとも後悔していることの1つは、2016年にロシアによる情報操作に気づくのが遅れてしまったことです。私たちは調査を開始しており、何かが見つかることでしょう。ロシアには、われわれのシステムや他のインターネットシステムなどを自らの利益のために利用することを仕事にしている人々がいます。これは、進行中でもある軍拡競争なのです。世界中の選挙への干渉を仕事とするロシア人たちが存在する限り、現在はまさに紛争状態なんです」とザッカーバーグ氏。

個人的には、チャック・グラスリー氏やパトリック・リーヒ氏のようなテクノロジーをからっきし理解していない議員たちが、私の代わりにレベルの低い質問をしてくれたことには安心しました。

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もちろん、このような謝罪はザッカーバーグ氏にとっては造作もありません。米ニュースサイト「ヴォックス」が指摘するように彼は学生のころから、あらゆるプライバシー侵害に関する申し立てに対し、謝罪し続けてきたのですから。

以下、「ヴォックス」より引用

オンライン・ソーシャルネットワークは、明らかに新たな法規制上の問題をいくつも引き起こしています。とはいえ、より視野を広げれば、「企業にいかにして確実に責任を果たさせればいいか」、という問いは目新しいものではありません。

たとえば、ヘルスケアの提供に関わる企業には、道義的責任だけでなく、法的・経済的な責任があります(1996年に定められた「医療保険の携行性と責任に関する法律、Health Insurance Portability and Accountability Act、HIPPA」の条項の遵守が求められます)。

この法律によって、ヘルスケア業界でのあらゆるプライバシー侵害がなくなったわけではありません。ですが、違反があった場合には、企業は罰則を受けます。そして、この罰則があるからこそ、ヘルスケア業界の企業はこのような過失を避けようとするのです。

同様に、金融機関はグラム・リーチ・ブライリー法(Gramm-Leach-Bliley Act、GLBA)で定められたプライバシーのルールに従う必要があります。実際、GLBAコンプライアンスが定められて以来、専門の法律家や企業が登場し、ある意味うんざりするような小さな業界ができたほどです。

同じように、議会は米国社会におけるジャーナリズムの役割を昔から認識してきました。

米国郵便公社は割引価格で、定期刊行物を届けます。連邦通信委員会のテレビ局ライセンス要件には曖昧ながら意義深い「公共の利益」に関する基準があり、これはローカルニュース番組の制作にも、主要な全国ニュースイベントの放映にも隔てなく適用されます。

これらの基準に明らかに違反するテレビ局は、規制当局に対して法的・経済的な責任を果たさなければなりません。

ザッカーバーグは単なる無謀な大富豪なのか?

ザッカーバーグ氏をインターネットの救世主のように崇める態度には、いつもむず痒い感情を抱いてきました。ですが、2018年4月10日の上院で、「この信仰もほぼ終わったのではないか」と思ってしまうのです。

確かに議会のメンバーは、あまりにも時代遅れだったかもしれません。ですが、ザッカーバーグ氏は社会的・文化的なビジョナリーというよりは、自らの利益に、なんとしてでもしがみつこうとする“単なる無謀な大富豪”にしか見えなかったのです。

彼は、自社の炭鉱が事故を起こした石炭企業の重役や、タンカーが沈没した石油王となんら変わるところはなかったのですから。

以下、「ヴォックス」より引用

以前、米政府は「将来有望なインターネットスタートアップをHIPPAやGLBAコンプライアンスのような官僚主義的ルールの支配下に置くのは良いアイディアではない」と、賢明にも考えました。ですが、これらの若きインターネットベンチャーはいずれも成長し、巨額の罰金につながる情報流出を防ぐことを手助けしてくれる多数の法律家やコンプライアンス専門家を雇う余裕が十分にあります。もはやFacebookを、繊細な花のように扱う必要はありません。法的な責任を課しても、同社の敏捷性が失われてしまうことはないのですから。
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テッド・クルーズ上院議員は、自身の明確な議題をもってこの公聴会に臨みました。

とはいえ、ザッカーバーグ氏は幸運でした。

テッド・クルーズ上院議員は、自身の明確な議題をもってこの公聴会に臨みました。そしてその議題は、ケンブリッジ・アナリティカや新時代のプライバシー問題とは何の関係もありませんでした。クルーズ氏が何より狙っていたのは、このソーシャルメディアを保守派が標的にできる別の文脈で吊るし上げることだったのです。

ザッカーバーグ氏とクルーズ氏のやり取りとは?

今回の背景を説明しておきましょう。保守派のなかでは最近「FacebookやTwitterによって言論が弾圧されている」との声が強く上がっています。

この中心にいるのが、黒人ユーチューバーでトランプ支持者のダイヤモンド&シルクの2人、テック界の億万長者であるパルマー・ラッキー氏(Facebook社が買収したOculus社の創業者)です。

ラッキー氏は、“反クリントンやトランプ支持の取り組みに資金提供していたこと”、“Reddit上で反クリントンのメッセージをソックパペット(多重アカウントの不正使用)で発信したこと“で、Facebook上ではお払い箱になっていました。

こういったことに言及するのは、大統領選へのロシア干渉疑惑への調査が進んでいる間、この話題に今後数カ月間、共和党の矛先が向くことは間違いないと思うからです。そして2018年4月10日、クルーズ氏はザッカーバーグ氏を徹底的に追及しました。以下、そのやりとりを抜粋します。

クルーズ:「あなたは証言のなかで、セキュリティやコンテンツレビューに1万5000〜2万人が携わっていると言いましたね。これらの1万5000〜2万人の人々のコンテンツレビューにおける政治的志向はご存知ですか」

ザッカーバーグ:「いいえ。入社の際、従業員に政治的志向を聞くことは普通ありません」

クルーズ:「ではCEOとして、政治的立場や支持している候補者に基づいて、雇用や解雇を決定したことはありますか?」

ザッカーバーグ:「いいえ」

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クルーズ:「パルマー・ラッキー氏が解雇されたのはなぜですか?」

ザッカーバーグ:「それは個人に関する事柄であり、ここで話すのは不適切だと思います」

クルーズ:「政治的見解に基づいて決断を下したわけではないと、はっきり主張しましたね。間違いありませんか?」

ザッカーバーグ:「(ラッキーの)解雇理由は、政治的見解によるものではないとはっきりと言えます」

クルーズ:「1万5000人〜2万人の人々がコンテンツレビューに従事していますが、このうちどのくらいの数の人が、民主党候補に経済的な支援をしたことがあるか知っていますか?」

ザッカーバーグ:「知りません」

この行為は、「共産党員でしたか?」と問い正す、いわゆる“赤狩り”と同様の追及ではないでしょうか。ザッカーバーグ氏を追求する一連の動画は、クルーズ氏がテキサス州で再選を目指して、ベト・オローク連邦下院議員と争う際にはプロモーションツールとして大いに役立つことでしょう。

事実、ケンブリッジ・アナリティカが最初にサポートしたのはクルーズ氏だった!?

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黒スーツ姿で会場に現れたマーク・ザッカーバーグ氏。

多くの人々が言及したように、クルーズ氏はどうもある事実について触れることを忘れていました。

その事実とは2016年の大統領選において、「ケンブリッジ・アナリティカが最初にサポートしたのはクルーズ氏だった」ということです。2015年の「ガーディアン」紙の記事を紹介しましょう。

以下、「ガーディアン」より引用:

この無名のデータ企業は、現在、クルーズ氏の選挙運動に組み込まれており、同陣営の有力な後援者である大富豪から間接的な資金提供を受けています。この企業はケンブリッジ大学の研究者に金を払い、オンライン調査を使って何も知らない米国の多数のFacebookユーザーの情報を収集。米国の有権者の詳細な心理学的プロファイルを作り上げています。ケンブリッジ・アナリティカ(ヘッジファンドを率いる大富豪で共和党の巨額献金者であるロバート・マーサーの資金提供を受けています)は、有権者を標的にしたこの新たな作戦の一環として、この調査の被験者から懸念や警告の声が上がっていたにも関わらず、米国市民の「心理的属性プロファイル」と呼ばれるデータを使い、クルーズ氏が大統領選で勝てるようサポートしています。

「ガーディアン」紙が確認した文書からは、研究チームの個人的データの収集方法に、長期的な倫理的・プライバシー上の問題があることが明らかになりました。彼らは米国のFacebookユーザーのプロファイルにアクセスし、彼らが気づかないうちに洗練されたユーザー類型を作り上げたのです。

なんてことでしょう、ザック。こんな重要な人物を見逃していたとは。はたして、どんな結末を迎えるのか? とても気になるところです。

Source / ESQUIRE US
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。