1974年製のフェラーリ「365GT4BB」は、そもそも「最高のフェラーリ車」のリストにたびたび選出されるというクルマではありません。しかしながら、これまでが「過小評価」だったのではないでしょうか。このモデルは、フェラーリの歴史を代表する一台となりえる可能性を秘めているようにも思えるのです…。
なにより、このクルマには間違いなく語るべき生い立ちがあります。
フェラーリとして初めて12気筒エンジンをミッドに搭載したこのモデルは、美しき「ランボルギーニ・ミウラ」に対抗すべく送り出されたもの。時速175マイル(約280km/h)という最高速を誇る…発売当時はスピードの面でも価格の面でも、世界一のクルマだったのです。
このクルマはピニンファリーナが設計し、スカリエッティがコーチワークを行ったものになります。その70年代のスタイリングは、クラシックな60年代のフェラーリの系譜を受け継ぎながらも、ブームになりつつあったより男性的な設計思想を取り入れたものでした。ちなみに80年代後半の子どもたちに大人気だったスーパーカーのフェラーリ「テスタロッサ」は、このクルマを含む「MR V12」シリーズの後継モデルでもあるのです。
「BB」という名前は、公式には「ベルリネッタ・ボクサー(Berlinetta Boxer)」の略とされています。しかし、いくつかの証言によれば、非公式ながら当時の世界的スターであったフランス人女優のブリジット・バルドーからインスピレーションを得た可能性もあると言いから、ここで魅力倍増となった方も少なくないでしょう。
このクルマは、希少価値が高いことも間違いありません。生産されたのはわずか367台で、このうち右ハンドルのモデルは58台のみです。また、運転しづらいという評判のスーパーカーが多かった当時としては、かなり運転しやすい部類のクルマだったと言います。
オークションサイト「ボンハム」上では、このクルマについて「エンジンをミッドに搭載することでほぼ完璧なバランスとなり、このクルマの驚くべき直線スピードに調和するハンドリングが実現しています」と説明。今回の一台は、2019年3月下旬に開催された「グッドウッド・メンバーズ・ミーティング」に出品されました。
このクルマは1974年にエルトン・ジョンが新車として購入し、保有していたものになります。当時のエルトンはロケット・レコード・カンパニーを立ち上げたところで、『ベニーとジェッツ』やジョン・レノンとのコラボ曲などをリリースしていました。ちなみにジョン・レノンは、同年11月にマディソン・スクエア・ガーデンで開催されたエルトンのコンサートにゲスト出演し、これはジョン・レノンにとって生前最後のライブパフォーマンスとなっています…。
当時、若干27歳であったエルトンは、そのような忙しい日々の中でもフェラーリを注文し、運転する時間を見つけていたのです。ちなみに彼は、エアコンとVoxson製のラジオをオプションで付けたそうです。
他にも多くのエピソードが出てきそうなこのクルマですが、総走行距離は1万マイル(約1万6000km)にも満たず、故郷で父親が運転するファミリーカーよりも真新しさを感じることは間違いありません。
このクルマは25万〜30万ポンド(およそ3600万〜4300万円)で落札される見込みで、まもなく新たなオーナーが決まることでしょう。自動車に関する美的感覚が変化し、新世代のコレクターたちが成熟しつつありますから、このクルマは新たに目のこえたファン層を獲得するのではないでしょうか。まさにエルトンの歌う「サークル・オブ・ライフ(生命の環)」というわけです…。
希少なフェラーリ「365GT4BB」を売却するエルトン・ジョンですが、次のクルマは一体何を購入するのか、こちらも気になるところです。
From Esquire UK
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。