日常に溶け込む服の静かな贅沢 

2023年9月22日にお目見えした新クリエイティブディレクター=サバト・デ・サルノによるデビューコレクションに続き、2024年1月12日に初のメンズコレクションが発表されました。ウィメンズと同じく、コレクションタイトルは“GUCCI ANCORA”。

「アンコール」を意味する“ANCORA”。「再び」「なおもずっと」の掛け声のもとメゾンに受け継がれてきた本来の価値を掘り起こしたアイテムであふれています。

gucci in milano fashion week mens
Courtesy of Gucci
2024秋冬メンズコレクションのファーストルック(左)と、2023年9月に発表されたウィメンズコレクションのファーストルック。

歴代クリエイティブ・ディレクターを務めたトム・フォードやフリーダ・ジャンニーニらの作品たちにもオマージュを捧げている今回のコレクションは、少なくとも2000年代以前からコレクションを見続けてきた人たちにとっては懐かしさを多分に感じるものだったことは間違いありません。

同時に前任のアレッサンドロ・ミケーレが大旋風を巻き起こしたスタイルから、シンプルで日常に溶け込む静かなぜい沢、つまりは流行して久しい「クワイエット・ラグジュアリー」への大転換だとこぞって取り上げられました。 


gucci in men milan fashion week
Courtesy of Gucci

歴史を積み上げて築いた廃れない服の魅力 

それが、今回のメンズコレクションにも共有されています。2023年の“ホースビット 1953”ローファーの広告キャンペーンでポール・メスカルが着ていたTシャツにたおやかなウールのセンターパンツ(もしくは白セーターにデニム)、そして、白ソックスにベージュのトレンチコートのルック。

もしくはルカ・グァダニーノが上流階級を舞台に描いた官能映画『ミラノ、愛に生きる』(2010年)にでも出てきそうな、精錬で慎ましく、それでいてセンシュアルなスタイリングは派手でわかりやすくはないからこそ、時代が変わってもいつもそこにあった、ずっと着られる美を携えています。 

gucci show at milan mens fashion week a model wearing a white suit
MONIC

わくわく感こそ少ないかもしれませんが、それは消費がサステナビリティにとって敵とみなされる現代において、ラグジュアリーファッションにとって必要なアプローチであり、同時にブランド本来の存在価値の復権とも言えます。

プレタポルテ(高級既製服)はそもそもインスタ投稿のために買われたり、レンタルされたり、ひどいときには試着だけされて帰られたり、もしくはファッションスナップ用に一時だけ所有されすぐ転売されるために、何十何百という職人が時間を費やしてつくるものではないのだと…。

それをいま一度思い起こさせるかのように、アーカイブを最大限に活用したデザインはグッチファンなら懐かしさを感じるものばかり。ショーの招待状から街中のラッピング広告まで統一させた“Rosso Ancora”は、創設者グッチオ・グッチがポーターとして働きながら行き交う富裕層の持ち物を観察し、審美眼を磨いたというロンドンの歴史的高級ホテル「ザ・サヴォイ」のエレベーターを彩っていた赤。

グッチ ミラノファッションウィーク
Esquire Japan
赤で染められたウィメンズのミラノファッションウィークの展示会場。2023年9月撮影

また、トム・フォード期のレザージャケットやフラッパードレスの面影が残るアウター、フリーダ・ジャンニーニ期の洒脱なダブルブレストのセットアップを彷彿とさせるスーツなど、時代を代表する印象的なアイテムは、現代的なスタイルにも投影しうる普遍性を持ち合わせていたことに気づかされます。


gucci 2024aw mens collection by sabato de sarno
Courtesy of Gucci

”男性””女性”かかわらず持てる・着られる

とりわけ興味深いのは、ジェンダーを超えたアイテム。ダリア・ウェーボウィを起用したキャンペーンでも話題になった大ぶりのマリナ チェーンがメンズコレクションにもアイコン的アイテムとして多用され、ジャクリーン・ケネディが愛用していた“ジャッキー”バッグやハーフムーンバッグが当たり前のようにメンズモデルたちの手や肩に掛けられていました。

gucci in milan mens fashion week
Courtesy of Gucci
gucci in milan fashion week mens
Courtesy of Gucci

そして数シーズン前から繰り返し発表されてきた、襟ぐりの大きく開いたワンピースドレスのようなトップスのグリッターバージョンがさらりとスタイリングに組み込まれていたことは、メンズ/ウィメンズの境を飛び越えてファッションを楽しむ自由を“ancora(さらに)”前進させているようにも感じられます。シンプルなスタイリングでも、“フェミニン”な要素をメンズコレクションに融合させられることを証明しています。ハーフムーンバッグ、ホーボーバッグがメンズの“it bag”として定番になる日も近い(かもしれない)。