メゾンの伝統として受け継がれるフォーマルな美意識を脱構築的なデザインにアップデートした「モダン テイラリング」コレクションから。
伝統的なダブルブレストジャケットにキム・ジョーンズが新たな解釈を加え、モダンなシルエットへと再構築したピークドラペルのジャケット。キムのシグネチャーとなっているクロスストラップも見逃せない。
モンテーニュ通り30番地。ここはディオールにとって、運命の場所。クリスチャン・ディオールは1946年12月15日、この地に自身のメゾンを開き、およそ80年にわたってパリのエレガンスとオートクチュールの象徴であり続けている。
そんなメゾンの卓越したテイラリングとムッシュ ディオールの功績に敬意を表し、ネイビーのウールツイルスーツを着用した竹内の肖像を、ブティック正面で撮影。これはキム・ジョーンズがメゾンのフォーマルなテイラリングを進化させた、「ディオール エッセンシャル」 コレクション。ジャケットの洗練された美しい落ち感、立体的なパンツシルエットが際立つ。
ブティック「30 モンテーニュ」には、オートクチュールサロンとメンズとウィメンズのプレタポルテ、アクセサリー、シューズ、バッグ、スモールレザーグッズなどに加え、レストラン、ギャラリーなどディオール ユニバースのすべてが凝縮。ネオクラシックと洗練のモダニティを華麗に融合させた気鋭の建築家、ピーター・マリノが描いた「王国」だ。
1階から2階へと続く階段は、仮縫い用のトワルで仕立てたコレクションが壁面にずらりと居並ぶ圧巻のステージ。スーパー130sのバージンウールを駆使した軽やかなグレースーツがよく似合う。
ブティック「30 モンテーニュ」には、隣接する顧客向けの施設内に緑豊かな屋上庭園を設けている。偉大なクチュリエであると同時に情熱的な園芸家でもあった、ムッシュ ディオールをほうふつさせる空間だ。
異なる要素のハイブリッドといえば、スポーツウェアとテイラリングの融合こそキム・ジョーンズの真骨頂。ぜいたくにもテイラリングで仕立てたこのハリントンジャケットは、その象徴とも言うべき一着。
スポーティな仕様とデザインながら、 ディオール テイラリングならではのくるみボタンや高めのスタンドカラー、ロゴ入りのハードウエアなどによって、スポーツウエアの枠組みを超えた端正で凛々しい仕上がりとなっている。
セーヌ川に架かるアレクサンドル3世橋は、19世紀後半に建造されたアーチ橋でボザール様式が美しいパリ屈指の観光スポット。悠久の時の流れ、とどまることのない時代性をムッシュ ディオールに感じさせていたであろう重要なロケーションでもある。
ここで竹内が身にまとったのは、パッチポケットやボクシーなシルエットなど、オーセンティックなワークジャケットからディテールを引用しながらも、ムッシュ ディオールが愛し、大流行させたプリンス オブ ウェールズのテキスタイル、くるみボタンやパイピングポケットなどのクチュールメゾンらしい手仕事によって、現代的なドレッシーさを手に入れた「モダン テイラリング」のジャケット。
センタープレスを模したダーツディテールが効果的なトラックパンツを合わせ、リラクシングなエレガントスタイルに。
花を愛したムッシュ ディオールが足しげく通ったといわれるフラワーショップ、「ラショーム」。実は、クリスチャン ディオール初のショーで飾られたお花は、このお店の物。
負けず劣らずの花好きである竹内は、品格とエスプリ漂うブーケを手に意気揚々とパリの街を闊歩する。モダンなフォーマル感を漂わせるタキシードは、キム・ジョーンズが手がけたディオールのファーストコレクションで初登場したシルエット「テイラー オブリーク」。
ムッシュが1950-51年秋冬に発表した「オブリーク」ラインから着想を得て、メゾンのオートクチュールのヘリテージをメンズウエアに落とし込んだ注目のモデルだ。オリジナルの斜めのラインを踏襲した、高めのボタン位置がユニークでアイコニックなダブルブレストだ。
大切なショーの当日やその準備を行う際は、ラッキーチャームのスズランをボタンホールに挿して臨んだというムッシュ。そんなエピソードにあやかって、「ラショーム」の季節のブーケからお気に入りのローズを選んでそっと胸元に添えて見せてくれた竹内。
この「モダン テイラリング」のジャケットは、アレクサンドル3世橋で着用していたワークジャケットと同型のもの。しかしウールモヘアの軽量キャンバス地を駆使したダークネイビーにすれば、ガラリとムードが変わって見える。取り外し可能な“CD ICON”のピンが胸元にさりげないアクセントをプラス。ローズと“CD ICON”という、極めてディオール的なコンビが秀逸。
伝統的なテイラリングの
芸術性を愛し、
メゾンのアイデンティティとして
今に至る
ディオールが誇る無形の伝統、すなわち“サヴォアフェール”の中核をなすといわれる、テイラリングにフォーカスしたファッションストーリー。この撮影をディオールのお膝元・パリで行いたいと考えたとき、その表現者は竹内涼真をおいてほかにない、とわれわれは考えた。容姿端麗であることはもちろん、若さと品格、知性と野性の絶妙なバランス。なにより花を愛するジェントルさと、ファッションへの鋭い感性を備えている希有な人物だからだ。
オートクチュール、プレタポルテの最高峰として君臨するディオールに対しては、“モードなラグジュアリーブランド”というイメージを抱いている人が多いことだろう。しかし創設者であるムッシュ ディオールの時代から、そしてムッシュ自身が、伝統的なテイラリングの芸術性を愛し、メゾンのアイデンティティとして今に至るまで、大切に受け継いできたという事実は、あまり知られていないはずだ。ディオールにとってのテイラリングの重要性は、パリのメゾンのなかで唯一、メンズ テイラリング専門アトリエを有していることからも一目瞭然だ。
「ディオールの服って、パッと見ただけでそれとわかるシルエット、たたずまいの美しさがあります。でも実際に新しいテイラリング コレクションを身にまとって、改めてこのフィット感、ピタッとくる着心地の良さも“ディオール”ならではですね。そして高いテイラリングの職人技術あればこそなんだ、と実感しました」
ディオールをはじめ、数々のラグジュアリーな衣服に親しんだ竹内だからこそ感じ取れた、ディオール テイラリングの素晴らしさ。その事実に光を当てたのは、ディオールの現メンズ クリエイティブ ディレクターであるキム・ジョーンズにほかならない。
キム・ジョーンズはディオール メンズウエア ワードローブの拡充と洗練という命題に直面したとき、まずディオール アトリエのサヴォアフェールの中核を担ってきたテイラリングに着目した。フォーマルなテイラリング コレクションを「ディオール エッセンシャル」として再構築し、既存のスタイルを若々しくリフレッシュ。さらにそれと並行して、「モダン テイラリング」と銘打ったカプセルコレクションをローンチ。メゾンが受け継いできたフォーマルな美意識を、自らの得意とするスポーティなエッセンスと融合することで脱構築的デザインへとアップデートしている。この両方向からのアプローチでアイデンティティであるテイラリングにフォーカスし、ついにはディオールの核心へと迫ろうと考えたのだ。
「アトリエでは(24年サマー)コレクションの前日だというのに、職人の皆さんがギリギリまで妥協のない作業を行っていました。これぞクリエイション、これぞディオールのサヴォアフェールの源泉なんだろうなって。その熱量に圧倒されると同時に、同じものづくりに携わる者としてとても共感しました」
Featuring /
Ryoma Takeuchi
●お問い合わせ先
クリスチャン ディオール
TEL 0120-02-1947
Photographs / WATARU
Styling / Taichi Sumura
Hair & Makeup / Hisano Komine
Coordination / Masae Takanaka
Text & Editing / AMERICA
Videograph / Yuzuru Nakatani
Online editting / YUKINO TAKEUCHI(HDJ)
Video produce / TOMOHIRO YASUDA(HDJ)