シマウマやノロバを除く、一般的な馬として現存する唯一の野生種として考えられていたモウコノウマ(Przewalski's Wild Horse)は、かつてアジア中央部、特にモンゴル周辺に多数生息していました。ですが、開発や環境の変化によってその個体数が激減、研究者たちの間では「恐らく1970年近辺で一度絶滅している」と言われていました。

 そうした経路をたどりながらも、その存在が発見されて以来、多くの個体が既に欧米諸国の動物園へと送られていました。そしてそれが幸いとなり、その子孫は生き残っていたのでした。そうしてその後、飼育下での計画的な繁殖が始められ、飼育個体の子孫を再び野生へと戻すという試みが各地で続けられてきたのでした。

 ここで紹介する「カート」くんは、そんなモウコノウマの一頭です。ですが、その品種の中でも特別な存在と言えます。なぜなら「カート」くんは、40年前にサンディエゴ動物園で飼育されていたモウコノウマから採取した凍結されたDNAによってつくられたクローンなのです。

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 この「カート」くんは2020年8月6日に、テキサス州ティンバー・クリークにある獣医施設「Timber Creek Veterinary Hospital」で誕生。モウコノウマの伝統的な特徴をそのまま継承しています。ずんぐりとしていて、お腹が出っ張り、私たちが知る馬よりもロバのようにも見えます。他のモウコノウマのように、「カート」くんは90~130キロの重さにまで成長し、ひづめからたてがみまでの高さは約150cm弱になります。

  馬の遺伝的多様性を高めるために、科学者たちはまるでSF映画のような発想で、40年前の凍結細胞を使用してモウコノウマの初のクローン馬である「カート」くんを誕生させたというわけです。

przewalski's horse or dunzgarian horse
DEA / B. LANGRISH//Getty Images
2014年3月に草原で撮影されたモウコノウマ。

 モウコノウマは前述のとおり、人間による再導入が成功して現在はモンゴル・中国・カザフスタンに制限して生息しています。サイエンス系ニュースメディア「Science Alert」が報告では、人間の再導入が行われる前に野生のモウコノウマが確認されたのは1969年のことでした。狩猟や厳しい冬の気候、他の動物との競争などの末、今日世界には約2000頭しか現存していないとのことです。

 「カート」くんが継承したDNAの情報を詳しく説明すれば、40年前に、「動植物のケアと保全科学の専門知識と、自然への情熱を刺激することに専念することで世界中の種を救うこと」を使命とするサンディエゴ動物園グローバル(SDZG=San Diego Zoo Global)が保有する冷凍動物園(Frozen zoo:DNA、精子、卵子、胚等の動物由来の遺伝物質を貯蔵するための施設)で凍結保存されたDNAを使用し、国内の代理母によって前述のTimber Creek Veterinary Hospitalで誕生しました。このプロジェクトは、遺伝学を使用して絶滅危惧種または絶滅種の保存および復活を目的とした会社であるRevive&RestoreViaGen Equine、そしてSDZGの共同パートナーシップにより実現しました。

 「カートの誕生は、絶滅の危機に瀕している野生動物の遺伝的救済にとって大きな前進となるはずです」と、 Revive&Restoreの共同創設者でありエグゼクティブディレクターであるライアン・フェラン(Ryan Phelan)氏はニュースリリースで述べています。また、「クローニングを含む高度な生殖技術は、絶滅の危機に瀕している種を救うことができ、時間と共に失われていたであろう遺伝的多様性を回復することを可能にするのです」とのこと。

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Kurt, the cloned Przewalski's foal, August 31, 2020
Kurt, the cloned Przewalski's foal, August 31, 2020 thumnail
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 現在、冷凍動物園にはおよそ1万を超える生細胞培養・卵母細胞・精子など、絶滅種1000近くの分類群を網羅した、世界で最大かつ最も多様なコレクションが保管されています。

サンディエゴ・ユニオン・トリビューン(The San Diego Union-Tribune)」紙によると、フローズン動物園の共同創設者である故カート・ベニルシュケ(Kurt Benirschke)氏にちなんで名づけられたモウコノウマの「カート」くんは健康ですが、彼が自由になるには代理の母親と一緒にもう1年経過観察をしながら育てる必要があるということです。

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「計画では、最終的にカートをサファリパークに連れて行き、そこで保護と繁殖プログラムの一環として、公園内の14頭のモウコノウマの中に加わわる予定です。ですが、彼はすぐにサファリパーク内を駆けまわるいうことはできないでしょう。なぜならカートは、その前に代理母とともに少なくともあと1年は、他の若い馬との対話法を学ぶ必要があるからです。 それを習得して初めて、彼はサファリパークへと連れていけるのです。そして、動物園の研究者たちの多くの望んでいるように、野生に戻れる可能性を十分に持った健康な子孫を生み出してくれるでしょう」と、サンディエゴ動物園グローバルの遺伝学部長であるオリバー・ライダー氏は語っています。

Source / ESQUIRE IT