コワーキングスペースWeWorkの共同設立者であり、エキセントリックな起業家アダム・ニューマンは、シリコンバレーの「ユニコーン」ブームでもてはやされた一方、その「大言壮語(実力以上に大きな事を言うこと)」ぶりでも有名になりました。
とは言えピーク時のWeWork の企業価値は、470億ドルに達していました。ニューマンは「火星にもWework計画」を口にしていましたが、まさに星を撃ち落とすような壮大な夢を描くのも無理のないことだったかもしれません…。
そうしてその夢は完全に破れ、ニューマンは最高経営責任者(CEO)職からの辞任に追い込まれたわけですが、ニューマンはその前に米ワシントン・ポスト紙に「世界初のトリオネア(1兆ドル長者)になる」と語っていました。彼の実話をドラマ化した『WeCrashed~スタートアップ狂騒曲』(アダム・ニューマン役はジャレッド・レト)の放映に当たっては姿を隠していたニューマンですが、ここで残念なお知らせがあります。彼が再びビジネスの舞台に戻ってきたのです。彼の大言壮語は、とうとう実現するのでしょうか!?
好調なスタートを切った新会社
彼は既に、その道のりの1000分の1の地点には到達していると言っていいでしょう。ニューマンの新会社で不動産ベンチャーのFlow(フロー)の企業価値は、現在“10億”ドルと評価されていることが明らかになりましたので…。
また、マーク・アンドリーセンが共同設立したベンチャーキャピタル(VC)、アンドリーセン・ホロウィッツがこの事業に3億5000万ドル投資したと報じられており、Flowは好調なスタートを切っていると言っていいでしょう。
アンドリーセンはアンドリーセン・ホロウィッツのウェブサイトに、「Investing in Flow」と題した非常に長いブログ記事を投稿し、(単なるコミュニティ活動にとどまらず、コミュニティと企業が予算を持ちながら一緒に動く。 その中で、企業が単体で何かを生み出すのではなくコミュニティがプロジェクトを牽引して何かを生み出していく)「コミュニティドリブン」な賃貸スタートアップFlow に投資することを明らかにしました。その理由として、「米国の住宅危機」を挙げています。さらに、「ニューマンと Flowの仲間たちは、[中略] まさにこの問題に真向から取り組むものだ」と強調しています。
また、「WeWork」というやや言及がはばかられるであろう話題についても、次のように説明しています。
「アダムは先見性のあるリーダーです。かつてない新たな産業にコミュニティとブランドをもたらし、商業用不動産という世界で2番目の規模の資産クラスに革命を起こしたのですから。アダム、そしてWeWorkの物語は、その一部始終を徹底的に語られ、分析され、(特に正確に)フィクションとして描かれてきました。こうしたストーリーが熱心に語られる一方で、アダム・ニューマンというたった一人の人物がオフィス体験を根本から変設計し直し、そのプロセスにおいてパラダイムシフトを促すグローバルカンパニー企業を率いたということは過小評価されることが多いのです」
新会社「Flow」とは?
では、Flowとは一体何なのか? そして、それがどのように私たちの集合意識を変えようとしているのでしょうか? シリコンバレーのベストアイデアとされるものにはありがちですが、その詳細や説明はあまり語られません。
Flowのホームページでは、Hun Culture(女性やゲイの男性に人気のある英国のサブカルチャー)から「Live, Laugh, Love」というフレーズを借りて、「Live Life in Flow」という独自の文言を投げかけて2023年の開業を約束しています。
ニューマンはWeWork危機後の活動中断期間の多くの時間を、不動産の買収に使っていました。彼が入手した物件はニューヨーク州およびカリフォルニア州で9000万ドル分にもなり、2022年時点で世界各地に約4000戸の手頃な価格の集合住宅を所有していると言われています(総額10億ドル相当)。
WeWorkブランドがまだ盛況を誇っていた頃、その一方で、彼と妻のレベッカは彼らの会社を多角化する計画について口にしていました。「SOLFL(Students of Life For Life、ソウルフルと読む)」という名の学校(その後完全消滅)を運営する「WeGrow」、社交的でネットワークを作りたい独身者のための大学寮のような「WeLive」など。今回のFlowは、WeLiveの「iteration(焼き直し)」というより、「manifestation(実現)」になるのでしょうか?
ニューマンの事業構想
ニューマンは何年も前から、自身のビジネスにおいてこの部門を支持してきました。その一因としては、自身が若い頃にイスラエルのキブツで暮らした経験が背景となっています。コミューン(共同体)のような場所で、他人と一緒に生活するというアイデアは彼にとっては魅力的だったのです。WeWorkという事業が計画通りに進んでいれば、彼は機会を見てこの事業を展開していたことでしょう。
彼は2016年、英「オブザーバー」紙の取材でWeLiveについて語り、「それは1日、1週間、1カ月、1年単位の新しい生活様式になるでしょう。世界市民となるのです。1つの場所の会員になれば、すべての場所の会員になれる…これは『誰もが参加できるプライベートクラブのようなもの』と呼んだほうがいいかもしれません」と説明しました。
この記事を書いたジャーナリストのキャロル・カドワラダーは、「プライベートクラブというよりも、まるでサブカルチャーのヒップスターの共同体、もしくは大人のための大学生活のようだ」と指摘しています。
アンドリーセン・ホロウィッツも、Flowの計画がこのようなものであることを示唆しています。彼は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の結果として、「多くの人が職場から遠く離れた場所に住むようになりました。今後、ハイブリッド(通勤と在宅の折衷スタイル)な環境にシフトする人は増えるでしょう。(中略)こうした人々の多くにとって、スマホなどを見ているスクリーンタイムの増加や対面での交流の減少は、疎外感や孤独感といった仕事面だけにとどまらない課題を引き起こすでしょう。これは誰にとってみても望ましい方向性ではなく、今すぐにでも直接的な対策を講じる必要があります」と指摘しています。
一方、ニューマンは2021年に英「フィナンシャル・タイムズ」紙に対し、彼とレベッカは「Flow Carbon」という新規ベンチャービジネスの中で、「貴重な二酸化炭素(CO2)吸収源を伐採から守ることを目指し、赤道付近の森林の購入を開始した」と語っています。「CO2排出量を相殺したい企業に炭素クレジットを販売するビジネス 」ということですので、Flowの単独のアイデアとなる可能性は低いでしょう。
ニューマンは今回、現代生活のあらゆる側面の改善を目指しながら実入りも期待できる、(身体面だけでなく、精神や霊気などを含めた全体を対象として捉える)「ホリスティック」なブランドを打ち出したわけです。とは言え今回も、「打ち出しただけ」で終わる可能性もゼロではありません。私たちにできるのは文字通り、「Flow(流れ)」に任せることだけでしょう。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Keiko Tanaka
※この翻訳は抄訳です。