2018.03.28

月一連載

【三浦瑠麗のスプーンの上の国際政治1】日本は孤立?! トランプ大統領は、なぜロケットマン(金正恩)に会いに行くのか?

刻々と変わる国際情勢を、Lullyこと三浦瑠麗さんが、スプーンでひとすくい。月末に一度、今知っておくべき国際政治を分かりやすくかみ砕けるよう、やさしく解説してくれます。

日本は孤立?!トランプ大統領は、なぜロケットマンに会いに行くのか?

5月末・米朝首脳会談の真相 

 北朝鮮と米国がチキンゲームをしていたかと思ったら、オリンピックを境にあれよあれよという間に南北首脳会談が決まり、米朝首脳会談まで開催される見通しがでてきました。北朝鮮のような小国に、米国の大統領が、まだ何も決まらないうちに会ってあげる、というのは、時代を画する感があります。トランプさんの(よく言えば)フットワークの軽さは、「米国は本当に覇権国の座から降りたのかもしれない」と思わせるほど。
 
 そもそもトランプ政権はなぜ、発足後すぐに北朝鮮問題を取り上げたのでしょうか。実際は、北朝鮮問題のピックアップは消去法だったのではないかと私は思います。

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  トランプさんは、冷戦後の外交政策を否定し、歴史を転換する大統領になりたいと考えていたふしがあります。そのモデルは、米中接近したニクソン大統領です。トランプさんは、おそらく当初はロシアと接近するつもりだった。共和党の並みいる候補がロシア脅威論をぶち上げる中、トランプさんだけがロシアと協力できるという考えを示しました。ところが、いわゆるロシアゲート疑惑で民主党陣営に追い込まれ、安易にロシアには近づけなくなってしまった。当初の目算は外れました。では中国は、というと商売上の競争相手としてすでに是々非々の関係。イランは、オバマ政権が歩み寄って核合意を結んだ相手だから、宥和などもってのほか。そこで、北朝鮮問題で成果を期待したのではないでしょうか。
 北朝鮮は孤立に慣れており、核保有の決意は固い。彼らは、米朝首脳会談で制裁の部分的解除などの果実が得られれば、米国がとうとう自分たちを認め、歩み寄ってきたと国内に宣伝するでしょうし、会談が失敗しても、歯を食いしばって制裁に耐えて軍拡する元の戦略に戻ればいいだけです。米国で、まず北朝鮮に注目する機運があり、そんななかで戦争を回避し仲立ちしようとする韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領がいたために、物事が一気に進みました。

 日本では、そんな文政権を北朝鮮に騙されていると思う向きが多いようです。しかし、西側先進国での文大統領の評価はうなぎのぼりです。何せ、つい最近まであれだけ米軍が先制攻撃をするぞと脅し、同盟国に戦争計画までブリーフィングしていたのです。皆が、トランプ大統領ならば可能性はゼロではない、ソウルは火の海になるのではないかと心配していた矢先のことです。文大統領は、騙されていません。北朝鮮が時間稼ぎをしていることも、核を放棄するつもりがないことも分かったうえで、あえて宥和を選んでいるのです。彼にとっては、統一に向けた歴史的偉業の第一歩という、これまた政治家ならではの思惑があります。分断国家において、敵方と和解することの象徴性、その重さは、日本人からするとちょっと理解しづらいところがあるでしょう。あくまでもそれは当事者でないと分からないものだから。他方で、非核化の可能性はほぼないのに、国際社会が宥和をよしとするということは、やはり北朝鮮の核の脅威から遠く離れているから。
  
 こうしてみると、日本が置かれた孤独な立ち位置は、生じるべくして生じた必然です。置いていかれた、ということばかりを気にしているようではだめ。いまいちど、私たちの国益とは何なのかを探り当てるプロセスが求められているのです。

※宥和政策(ゆうわせいさく)-----現状を打破しようとして強硬な態度をとる国に対して、譲歩することで摩擦を回避していく外交政策。ナチス‐ドイツの要求を認めたミュンヘン会談がその典型。

Photograph / Getty Images   Edit / Emiko Kuribayashi

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三浦瑠麗

1980年生まれ。神奈川県茅ケ崎市出身。国際政治学者。東京大学政策ビジョン研究センター講師。「朝まで生テレビ!」「みんなのニュース」などTVでも活躍。著書に『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)、『国民国家のリアリズム』(角川新書)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『シビリアンの戦争』(岩波書店)などがある。プレジデント社からメールマガジン「三浦瑠麗の『自分で考えるための政治の話』も発信中。http://lully.president.co.jp/ 一児の母。

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