正直なところ、トランプ政権復活の可能性はかなり高いです。「ほぼ確実」と言えるでしょう。それでも、 “もしトラ”では絶対にダメです。実現した場合、2025年には日本企業にもマズいことが起きるからです。

[目次]

▼ トランプが共和党候補としてバイデンに勝つ!?

▼ 健康不安、スキャンダル、戦争がなければ…

▼ トランプ政権が復活→ウクライナ紛争終結…

▼ 米がパリ協定から離脱→日本の脱炭素投資が…

▼ 地政学リスクが大きくなり紛争リスクも本格化

▼ 日本は“もしトラ”ではなく“まずトラ”を…

※2023年1月26日に「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された、鈴木貴博氏(百年コンサルティング代表)の記事転載になります。


トランプが共和党候補
としてバイデンに勝つ!?
“もしトラ”は確実に起こる

トランプ前大統領が、共和党の大統領候補を選ぶ二つ目のイベントとなるニューハンプシャー州の予備選挙で再び勝利しました。

候補者の対抗馬はすでに元国連大使のヘイリー氏一人に絞られていて、かつ、ヘイリー氏が緒戦でトランプ候補にもし勝てるとしたら唯一のチャンスは今回のニューハンプシャー州だと言われていました。

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Donald Trump wins New Hampshire primary - Now what?
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ヘイリー氏はこれまでニューハンプシャー州の選挙戦に実質的に注力してきたのですが、結果としてはトランプ候補54%ヘイリー候補43%と勝つことはできませんでした。

とはいえ、ヘイリー候補の43%は善戦と言えるでしょう。この後、2月24日にヘイリー氏の地元であるサウスカロライナ州の予備選挙では少なくとも1勝できるはずで、候補選びの趨勢(すうせい)が決まるといわれている3月5日のスーパーチューズデーまで、わずかながらチャンスが残っている状況です。

その前提で、未来予測の専門家として断定させていただくことが二つあります。一つ目に、共和党の候補者はトランプ候補でほぼ決まりでしょう。

ここまでは、他の識者の方々も意見は同じだと思います。重要なのは二つ目で、11月の大統領選挙の本選でも間違いなくトランプ候補が、民主党現職のバイデン大統領に勝つでしょう。

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世の中では、かつてのベストセラーの「もしドラ」にひっかけて「もしトラ」という言葉がはやっています。「もしトランプ大統領が再登場したら?」を意味する言葉です。言葉としては面白いのですが、未来予測の立場で言えば「もしトラ」ではダメです。

「まず確実にトランプ新大統領が誕生する前提で、2025年には日本企業にはマズいことが起きるだろう」ということが、現時点で一番蓋然(がいぜん)性が高い未来です。

この記事では前半で「なぜトランプ新大統領の誕生が確実なのか」を解説したうえで、後半では「まずトラ」、つまりトランプ大統領で日本企業はどうマズいことになるのかを予測してみたいと思います。

健康不安、スキャンダル、
戦争がなければ
トランプ政権復活ほぼ確実

アメリカの大統領選挙は4年に一度行われ、二大政党である民主党と共和党の大統領候補が一騎討ちの形で選挙を戦います。その選挙は50州それぞれに割り当てられている選挙人の数を勝った候補が総取りするという一風変わった間接選挙で行われます。そのため過去何回か、アメリカ全体の総得票数では多かった候補が敗れるという結果も起きています。

2024年大統領選挙バナーテンプレート
avgust01//Getty Images
※2024年 アメリカ合衆国大統領選挙のイメージです。

この独特の大統領選挙の仕組みは、50州それぞれが独立国家のような権利を有するという歴史的な経緯から生まれた制度なのですが、建国250年もたつとそれなりに制度疲労が起きています。

簡単に説明すると、50州のうち40州前後の州は選挙をする前から民主党候補が勝つか共和党候補が勝つかはほぼ決まっているのです。

ざっくり言えば、東海岸と西海岸では民主党が強く、中央部の州では共和党が強い傾向があります。金融とITの強い州では民主党が強く、工業と農業が盛んな州では共和党が強いと言ったほうがより正確かもしれません。

つまり、アメリカの大統領選挙は残る少数の「激戦区」でどちらの候補が勝つかでバイデン大統領が再選されるのか、トランプ候補が返り咲きをするかが決まる。これが「制度疲労」の正体です。

この制度疲労の欠陥があるせいで、2024年の大統領選挙は比較的予想がつきやすい状態になっています。簡単に言えば、今のところ激戦区においてバイデン大統領がトランプ候補よりも支持率を大きく下げているのです。

アメリカ大統領選2024のイメージ、民主党と共和党を表す青いロバと赤い象がスポットライトを浴びている図。
OsakaWayne Studios//Getty Images
※写真はイメージです。民主党表す青いロバと共和党を表す赤い象がスポットライトを浴びながら対峙しています。

民主党としてはバイデン大統領以外の候補が出てきたほうが、本当はトランプ候補に勝てる可能性があるのですが、現職の大統領が選挙に出ると言っている以上、民主党で別の候補が出てくることが難しいのです。

これが、トランプ新大統領復活の可能性が高いという根拠です。私は7割方、この予測が当たると思っていますが、この予測が覆る可能性としての不測の要素は3つあります。

【1】高齢のバイデン大統領、トランプ候補のどちらかに健康不安が発生する

【2】同じく大統領候補に選ばれる前に政治的に致命的なスキャンダルが発生する

【3】アメリカが本格的な戦争に巻き込まれる

どれもありうるシナリオですが、その確率を考えても「まずトランプだろう」というのが現時点での未来予測ということです。

トランプのフィギュア
Houston Chronicle/Hearst Newspapers via Getty Images//Getty Images

では、ここからは「まず確実にトランプ新大統領が誕生するとしたら、それは日本企業にとって何がどうマズいのか?」を考えてみたいと思います。

トランプ新大統領が誕生すれば、基本的にバイデン現大統領の政策の多くが否定されることになります。

原理原則としては「米国第一主義」「保護主義」「同盟軽視」が基本姿勢になるでしょう。その前提でこの記事では、特に重要な以下の3点について述べてみたいと思います。

【1】ウクライナ紛争およびガザ紛争への影響

【2】地球温暖化の後退

【3】米中の分断

トランプ政権が復活
→ウクライナ紛争終結
軍事予算増で
欧州経済は停滞

まず最初に、今年11月にトランプ大統領が誕生した場合、そこでウクライナ紛争が終わる可能性があります。理由はウクライナの弾切れです。

ウクライナはこの2年間、欧米からの支援を受けて敢然とロシアに対抗してきたのですが、直近ではヨーロッパからの弾薬が枯渇しつつあり、戦線も膠着(こうちゃく)状態です。

頼みの綱はアメリカからの弾薬の支援ですが、トランプ大統領はビジネスマンですから、金銭的に割に合わないウクライナへの支援は大幅に縮小する可能性があります。

そうなるとゼレンスキー大統領はどこかの時点で、現実的に和平を模索する必要が出てくるでしょう。クリミア紛争のときと同様に、ウクライナはまた領土の一部をロシアに奪われた形での紛争終結を受け入れざるをえなくなります。

いい面としては、日本を含めた西側諸国とロシアのビジネスが再開することですが、悪い問題として紛争終結が欧州経済に与える影響があります。簡単に言えばロシアに対抗するためのEUないしはNATOの軍事配備増強が必要になり、その負担で欧州の実態経済が悪化することをある程度想定しておく必要があります。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

一つわかりやすい例を挙げておきますと、2023年にドイツ経済がマイナス成長になったという事実があります。その主要な理由がドイツの法律にあります。政府の支出が大きくならないようにルールが決められていて、日本政府のようにじゃぶじゃぶと政策的な支出を増やすことができないのです。

日本は10年前の日銀の異次元緩和以降、逆に政治家がどんどん支出を増やしてプライマリーバランスが悪化していることが問題なのですが、それはまた別の問題として、ドイツおよびEUはどこかで政府予算を増やしたら、どこかを削らなければいけない。

つまり軍事予算が増える分、経済への支出が減り、結果として欧州経済が停滞する。これは欧州とのビジネスがある日本企業には大きなリスクになります。

ウクライナ紛争終結の問題はこれだけではありませんが、とにかく戦争終結で世の中の前提が大きく変わるというのが“まずトラ”(まず確実にトランプ新大統領が誕生する場合)で起こる最初の問題です。

アメリカが
パリ協定から離脱→
日本の脱炭素投資が遅れ
国際競争力ダウン

二番目が、アメリカが地球温暖化を抑止するパリ協定の枠組みから、また離脱するリスクです。これはEV(電気自動車)で出遅れている日本企業にとっては朗報だという側面はあるでしょう。しかし私はその影響が多岐にわたることで、事態はそれほど簡単ではないと捉えています。

悪い方の影響は二つあって、一つは日本企業がアメリカと協調して行ってきた脱炭素投資がはしごを外される危険性です。これはバイデン政権下で日本の自動車メーカーが投資をしてきたアメリカのEVと認められるための投資が無駄になるといった事柄がわかりやすい具体例でしょう。

environmental technology concept sustainable development goals sdgs group of people human resources
metamorworks//Getty Images
※写真はイメージです。

もう一つは、このタイミングでアメリカとそれに追随する日本が脱炭素投資を緩めてしまうことで、2020年代後半に逆に日本に求められる脱炭素のハードルが大きく上がってしまうことです。ひとことで言えば、遅れが大きくなって国際競争力を下げてしまうリスクといえます。

地政学リスクが大きくなり
紛争リスクも本格化

三番目が、中国とアメリカのデカップリング(分断)です。これも現時点では熊本や千歳に半導体工場が建設されるなど日本経済にプラスの要素はあるのですが、当然のことながら日本経済の重要な取引先である中国市場との関係が悪化するのは、マイナス要因の方が大きいわけです。

悪いことに、今年から来年にかけて中国経済は不動産バブル崩壊の影響で非常に苦しい状況に陥ると予測されています。最悪の時期であるがゆえにトランプ新大統領は自信をもって中国たたきに出る可能性が高くなります。

その反作用で仮にグローバルサウスが中国寄りに動いたとしたら、日本がアメリカに追随することで日本は中国市場だけでなく、グローバルサウス市場でも立ち回りにくくなるという事態も想定しなければいけないでしょう。


これはpollの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

そしてこれらのリスクを組み合わせると、四番目のリスクが浮かび上がります。トランプ新大統領誕生で、地政学リスクははるかに大きくなるのです。これらの三つの変化によって、国同士の力関係が変化するのもリスクですが、それに加えて新たに高まる別の紛争リスクを考える必要が出てきます。

わかりやすい例を一つ挙げれば、イスラエルとアメリカの関係性が変わることで、イランをはじめとする中東諸国がイスラエルとハマス(あるいはパレスチナ)との戦争に参戦しやすくなる可能性があります。当然のことながら、もしそうなれば新たな中東戦争が勃発し、新たなオイルショックが起きる危険性が高まります。

日本は“もしトラ”ではなく
“まずトラ”を
真剣に考えるべきだ

全体を総括すると、こういう話になります。トランプ新大統領が誕生する確率は高く、その結果、ロシア、欧州、中国、グローバルサウスそれぞれとアメリカとの関係性が大きく変わることになるでしょう。

日本政府はある程度、アメリカに追随するでしょうから、それぞれの国でビジネスを行う日本企業にとっては逆風も吹くわけです。

ドナルドトランプが目指すアメリカファースト
Icon Sportswire//Getty Images
※写真はイメージです。

もちろんトランプ新大統領のアメリカ第一主義、保護主義、分断主義の恩恵をストレートに受けられる日本企業もあるとは思います。しかし状況がそれほど単純ではない日本企業の場合、今年の秋までに、自社にどのような悪影響が起きるのか、きちんとあぶり出したうえで、対策を考えておく必要があります。

その意味で「もしトラ」などと口にしているのは危険です。「まずトラ」を前提に、生き残り戦略を考えることが今の経営者には求められているのです。

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