ベテラン自動車ライターのアクセル・キャットン氏と、同じくベテラン自動車フォトグラファーのミッシェル・ズンブルン氏はコロナ禍、「何か進めるべきプロジェクトがあるはずだ」と模索してました。そして、ドイツの出版社「teNeues(テヌース)」の協力を得て、1冊の写真集の企画が立ち上がったのです。

それは、歴史的記念碑と呼ぶべき名車、異端として存在したクルマ、個性的なヴィンテージカーなど、人々の記憶から失われつつある素晴らしいクルマの数々を贅沢な写真とテキストでつづった豪華な写真集「Lost Beauties: 50 Cars that Time Forgot(失われし美:時代と共に生きた名車50選)」をまとめることです。

ズンブルン氏が過去10年にわたって撮影してきた300以上の名車の写真から、写真家本人とキャットン氏、そしてテヌース社の編集部が、それぞれ50台の候補となるクルマを厳選するところから作業が始められました。「驚いたことに、三者のリストを見比べたところ、同じクルマが45台ほど共通して選び出されていました。これはまさしく良い兆候と言えました。またそのお陰で、作業が大いに楽になりました」と、キャットン氏は振り返ります。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
'Lost Beauties: 50 Cars that Time Forgot'
'Lost Beauties: 50 Cars that Time Forgot' thumnail
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クルマはそれぞれいくつかの明確な基準に基づいて選び出されました。「まずは写真を見ることで直接何かを感じ取ってもらえる、そのクルマの特別な個性が伝わるということを意識しました。これまで知っているようで知らなかった物事があることを気づいてもらえるような1冊に仕上げたいと思いました」と、キャットン氏。

候補に挙げられたクルマは、どれも自分の好きなものばかりだったとキャットン氏は言います。その中でも特に、今や忘れ去られようとしている、または、そもそも広く知られていない歴史的背景を持つ名車を記録に残しておくことも本のコンセプトでした。

「1942年に誕生した『ルフ エレクトリック(L'Oeuf Electrique:編集注=“L’Ouf”=卵、“Electrique”=電気)』には、改めて驚かされることとなりました。BMWの「イセッタ」と現代のスマートカーを融合させたかのような、卵型をした電動の卵型の1台です。ナチスドイツの占領下となった第二次世界大戦中のパリで生まれたクルマですが、材料の調達も困難であったはずですし、また当時と言えば、今のように自由に電力を使うことなどできませんでしたから、極めて特殊な状況下で生まれたクルマなのです」と、キャットン氏は解説しています。

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Heritage Images//Getty Images
表紙を飾ったライレー社の別モデルのクルマ。コチラも1948年のモデルです。

この写真集の表紙を飾る1948年製造のライレー社のクルマも、実に魅力的な1台でした。「この本を象徴する1台です。見る者すべてを驚かせる、そんなクルマです。グリル部分を見れば、アルファロメオやジャガーを連想するかもしれません。しかしこれは、当時フランスの自動車メーカーのドライエなどを手掛けていたスイス人デザイナーの手によって設計された1台です」、とキャットン氏。「ただし、クライアントからの依頼に応じてデザインされたものではありません。デザイナーが何もかも自分のために設計した、特別なものなのです。だからこそ、奇抜さが群を抜いているのです」

さらには、1932年のビュシアリ「TAV 8-32 ベルリン・ソーチック」の姿もあります。このクルマは24インチのホイールにV16エンジンを搭載した前輪駆動のフランス製エントリーカーですが、ボディワークを担当しているのはフランス・パリの名門コーチビルダーとして知られるソーチックです。「シャシーは吊り下げ式なので、当時としては驚くほど低い車高と言えます。前輪駆動車ですが、巨大なフェンダーとランニングボードのため、とても前輪駆動には見えません。車体よりも、タイヤのほうが大きく見えるほどです」と、キャットン氏も驚きを隠せません。「実車を目の前にすれば、一日中だって飽きることなく眺めていられる名車です」とも言います。

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J. Emilio Flores//Getty Images
フランスの自動車メーカー、ヴェンチュリの電気自動車「フェティッシュ」。

Lost Beauties: 50 Cars That Time Forgot

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この本に収められているクルマの中で最も新しいものが、ヴェンチュリ「フェティッシュ」です。驚くほど軽量で、つくられてからまだ20年も経っていません。もし50年後に同様の企画でクルマを選ぶとすれば、どのようなクルマが掲載されることになるのでしょうか? その問いに対するキャットン氏の回答は、見事の一言です。

「安全規制が徹底され、法律で厳しく管理されている現在では、個性的なクルマがどんどん生まれにくくなっている時代です。選ばれるとすれば、フーバーの手による希少車、ブルネイ国王の所有する2ドアのロールス・ロイス『シルバースピリット』。もしくは、オランダ人のニールス・ヴァン・ロイという名人の手により設計されたオーダーメイドのクルマ。あとは、アストンマーチン『ヴァンキッシュ・ザガート』も入るかもしれません。どれも大変魅力的で、また極めて希少性の高いものです。今後20年から25年の内にはもう、クラシックカーのコンテスト大会などでしかお目にかかれないクルマになってしまったとしても、不思議ではありません」

Source / CAR AND DRIVER
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。