足踏みを続ける日本を横目に、音を立ててBEV(Battery EV:以下EV)化が進む欧米中韓の国々。試しに下記で日米のEV比率を比較してみると、その差は歴然です。

2021年の日本の普通車の新車販売台数は約240万台。EVはその内の約2万1100台で、割合にすると約0.9%です(一般社団法人日本自動車販売協会連合会が発表した「燃料別販売台数(乗用車)」)。一方、アメリカの2021年の新車販売台数(乗用車等)は約1493万台。EVはその内うちの約2.9%を占めています(アメリカの全米自動車ディーラー協会[NADA]による「NADA DATA 2021」)。

EV普及率ではノルウェー、販売台数では中国がトップとなりますが、世界でも有数のEV大国のひとつに数え上げられるアメリカ。それだけに、中古EVが市場に多く出回っていても何ら不思議ではありません。となれば、欲しいのが中古EVを賢く購入するためのマニュアルではないでしょうか?

というのも、そこは(まだ多くの人にとって)未知なる車。ガソリン車とは、中古車選びの勝手が違います。そこで、アメリカのカーメディア「Road & Track」による「中古EV購入前に知っておくべきこと」をお送りします。


アメリカでは早くもEVを中古車店で見かける時代に

当初はアーリーアダプターを対象にした「実験的な乗り物」という印象の強かったEVですが、このところ急速に交通手段の中心的存在と目されるようになってきました。そんな時代の変化と呼応するように、かつてはステータスシンボルとみなされていたEVを、中古車販売店で見かけることもすっかり多くなりました。

最寄りの中古車ディーラーに行けば、レンタカー落ちのシボレー「インパラ」などと並んで、中古の日産「リーフ」やテスラ「モデル3」が売られているのを目にすることも珍しくありません。ここアメリカでは、すっかり当たり前の存在となりつつあるEVですが、中古車ディーラーにとってはひとつの新たな課題を生んでいます。

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Kevin Williams

考えてみれば、これは当然のことかもしれません。EVのセールスマンやディーラー、そしてすでに所有しているオーナーたちも、まだまだEVについてそこまで知識が豊富ではありません。動力が何であれ、買うからには事前の知識が必要になります。特に中古車であれば販売や購入をする前に、専門家の目で品質の審査がなされている必要があるでしょう。

ガソリンエンジンを積んだ車であれば、話はそこまで難しくないでしょう。車に関する特別な知識を持たない人でも、消耗部品や液漏れなど車両の状態をチェックできるよう、ハウツー動画や記事などがすでに充実しているはず。エンジンオイルやミッションオイルを点検し、金属パーツに異常がないか、もしくは異臭がしないかなど確認することなどはそれほど大変な作業ではないはずです。専用の工具も必要なく、ある程度の知識があれば自分でどうにかなるはずです。

ところが、EVだとそう簡単にはいきません。ボディやシャシー、タイヤなど、直感的に点検できる要素も確かにあります。ですが、モーターやバッテリーについては、これはまさにブラックボックスと言えるのです。さらにマズイことに、無知な販売員が「EVならメンテナンスの必要もほとんどありませんよ」など、知ったかぶって耳元で囁いてくることもあるかもしれませんし…。

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従来のガソリン車とEVで大きく異なるのが、トラクションバッテリー(編集注:電気自動車やハイブリッド車のモーター駆動用に使用されることの多い、アンペア量の多いバッテリー)の存在です。その状態を把握するのは、そう簡単なことではありません。バッテリーの劣化は避けられない宿命であり、モデルによってはその劣化がより速い場合もあるのです。

また以前の持ち主がどのようにそのEVに乗り、どう充電していたか? そのような条件によっても、バッテリーの劣化具合は変化するでしょう。状態が良くないバッテリーでは、そのEVで遠出することなど困難となるに違いありません。たとえ他になにも問題がなかったとしても、バッテリーが劣化した状態で航続距離が短くなってしまったEVに大した価値などないはずです。しかも、バッテリーの交換や修理にはかなりのお金がかかることが予想できるのですから…。

バッテリーという名のブラックボックス

バッテリーに関して、交換や修理の必要性について確認するのはそう簡単な話ではないのです。各メーカーともバッテリーの状態を把握するための独自のメソッドを持っていますが、それらは一般には公開されておらず、有料サービス化されていることも珍しくありません。「そのことの重要性を、中古車ディーラーもよく把握していない」というのが実情だと言えるのです。

筆者自身(※編集注:米カーメディア「Road & Track」のケヴィン・ウィリアムス氏)がそのことを痛感したのは、2018年にオプション装備のレンジエクステンダー(※編集注:EVの航続距離を延ばすために搭載される、小型発電機からなるシステム)を搭載したBMW「i3」の試乗に出掛けたときのことです。まばゆいブルーの車両で、状態はとても良く保たれていました。新品のタイヤを履いた足回りも快調で、「価格も適性だろう」というのが第一印象でした。

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しかしながら、パッと見ではバッテリーの状態まで確認することはできない…そのことをここで痛感できました。「約75パーセントの充電で50マイル(約80キロ)の航続距離」と書かれていましたが、これはフル充電で97マイル(約156キロ)という「i3」本来のEPA評価とは一致しません。運転の仕方などによって数値が前後するのは当然とはいえ、これではバッテリーの状態が良いとはとても言えません。

気の弱いドライバーであれば、「このバッテリーでも、どうにかなるっしょ」と楽観視するかもしれません。でも慎重派の人であれば、バッテリー交換の必要性について警戒することになるはず。つまり私は慎重派なので、数字を甘く見ることはできませでした。

ディーラーも、そんな数値の確認方法も把握していなかったようでした。ということで、私は自らその「i3」を20分以上もいじくりまわすことになったのです。その結果としてわかったことは、「車載インフォテインメント(インフォメーションとエンターテインメントの機能を幅広く提供するシステムの総称)のモニタ画面に、バッテリーの状態が表示されないのではないか?」ということでした。

失望感とともに帰宅した私はすぐにパソコンを立ち上げ、さらに20分ほど費やして、あれこれ情報を漁りました。するとあるYouTubeの動画の中で「i3」のバッテリーの状態については、「メータークラスターのメニュー画面の中に隠されるようにして表示されている」ということが語られていたのです。長期にわたりフル充電されていない車両であれば、バッテリーの状態が正確に示されているかどうかも、ちょっと自信が持てません。スクリーン上の情報をどのように解釈すべきか、それは誰にもわからないのです。

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これこそがまさに、中古EV選びにおける最大の難問のひとつです。つまり、バッテリーの状態を簡単に把握する方法がないというわけです。まるでスマートフォンと同じようにEVが生産されているこの時代、OEM各社がいかなるプロセスで1台の車を組み上げているのか? それを知ることは困難なこと。AndroidやiOSであれば、バッテリーの状態を診断できるツールが設定メニューからアクセスできます。現在の状態が新品当時と比べてどの程度なのか? 誰でも簡単に確認できるのです。

ですが、それがEVとなると…。バッテリーについて多少なりとも確認がしやすいのは、テスラということになるのでしょう。それでも正確な状態を知ろうと思えば、充電と放電のために24時間ほど費やさなければならないでしょう。つまり、確認することは可能とは言え、手っ取り早い方法などないということです。車をちょっといじって、不調の原因を突き止められた時代は遠く過去へと流れ去り、今や丸1日がかりでバッテリーの状態を確認しなければならなくなってしまったというわけです。

中古EVを見極めるためのヒント

以上のような批評も確かに大切ですが、そればかりでは中古EVの購入を検討しているユーザー諸兄のご期待に沿えるとは思えません。ここは私の手元のカードから、中古EV購入についていくつか参考となる情報をお伝えしておきたいと思います。

基本的には、ガソリン自動車の中古車選びとそう大きくは変わりません。

足回り、タイヤの摩耗(EVは平均的に車重が重い傾向にあるため、早く摩耗してしまう可能性があります)など、直感的に判断できることは少なくありません。パワーデリバリーやアライメントの状態なら、ロードテストで確認できるでしょう。しかしながら、最大のポイントである高電圧トラクションバッテリーについては、メーカー各社のサービス部門に車を預ける必要が出てくるかもしれません。

それでは、中古EV選びのチェックポイントを以下におさらいしておきましょう。

  • 内装や足回りに破損や錆びなどないか? これはガソリン車と同様にチェック可能です。
  • パワーデリバリーは順調か? アライメントに問題がないか? 耳障りな音や不安定な挙動がないか? これもガソリン車と同様に確認できます。
  • バッテリーの状態確認。これはメーカーのサービス部門の力を借りる必要があります。自身では確認できないかもしれません。

最後の一点に関しては、まずは予算や時間との相談でしょう。メーカーのサービス部門までどの程度の距離があるのかなど、決して安くない出費になりそうなので確認しておくことが必要です。

EV後進国・日本。このようなトピックが、今以上にメディアを賑わす日はいつになるのでしょうか?

Source / Road & Track
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です