自動車業界には、さまざまなところにトレンドが存在しています。良いものもあれば、迷惑なものもあり、賢いものもあれば、おバカなものも。あなたは、「そんなことは自動車業界に限った話ではないはず」と思うかもしれません。もちろん、そのとおりではありますが、もしも自動車業界の特性を挙げるとすれば、ある自動車メーカーがそのブームの火つけ役を担っているのです。火つけ役のメーカーはどこか? BMWやホンダ、トヨタやフェラーリなどではありません。最近のトレンドをけん引している自動車メーカーこそ、実はアウディなのです。

「いや、まさか!」と思いますか? しかし、これは事実です。フォルクスワーゲングループ傘下にある元祖高級ブランドのアウディは、最近のデザインやエンジニアリング、技術におけるトレンドセッターです。その中には、本当に素晴らしいものもありますが、残念ながらそうではないものがあることも事実でしょう。

 
Franziska Krug//Getty Images
2004年に発表された初代アウディ「A6」。

BMWやレクサスが、自分たちであの大きなフロントグリルのデザインを思いついたとお思いでしょうか? いいえ、そんなことはありません。アウディは2004年、C6世代の「A6」で巨大なフロントグリルを実現しています。この新たな「シングルフレームグリル」は、街行く人の視線をフロントエンドに集めることに成功しました。

私(この記事の著者であるトラヴィス・オクルスキー氏)は、特に競合車と比較すると「エレガントで個性的な素晴らしいデザインだ」と常々思っていました。当時のBMW「 7シリーズ」やメルセデス「Sクラス」は、控えめなエレガンスという伝統から離れ、前衛的なデザインが増えていました。新デザインのフロントグリルが初採用された2007年のアウディ「A8」は、それらに比べて格段に美しいモデルだったのです(少なくとも私はそう思っていました)。

image
Raymond Boyd//Getty Images
アウディ「A8」。これは、2019年のシカゴオートショーに展示されたモデル。

当時いくつもの自動車雑誌が、アウディのその大きなグリルを「醜い」と酷評しました。しかし自動車メーカー各社は、そんな記事など読まなかったかのように、現在ではフロントグリルはかつてないほどに巨大化の一途をたどっていることを当たり前のように流しています。

BMWは車体全体がグリルで埋め尽くされているかのようですし、トヨタ「アバロン」にいたってはボディーのほとんどがグリルでできているかのように見えるのは私だけでしょうか。そしてアウディも、全ラインナップでより大きく、より圧倒的なグリルを採用するに至っています。

LEDランニングライトもアウディから

「フロントグリルという一つの要素だけでは、アウディがトレンドセッターを名乗ることはできない」とおっしゃいますか? でも、アウディが初代「R8」に採用したもう一つのデザイン要素は、フェラーリからキーアまで、今やあらゆる車種に採用されています。それは何かおわかりですか? 「LEDランニングライト」です。

 
Peter Kramer//Getty Images
アウディ「R8」はアウディ初のミッドシップスポーツモデル。ランボルギーニ「ガヤルド」とプラットフォームなどを共有する姉妹車。

アウディの初代「R8」は、そのライトの下に繊細なLEDライトでメイクアップされ、ワイルドかつ周囲を挑発するかのようなデザインにユニークなアクセントとして効果的でした。このアイデアは非常に評判が良く、各自動車メーカーは発売するかなり多くの車において、独自のLEDシグネチャーを搭載しています。

計器類に採用される、TFT液晶式ディスプレイの存在も忘れてはならないでしょう。もちろん、デジタルメーターは昔から何らかの形で存在していましたし、これはアウディが始めたことではなく、2014年頃には短期間に多くの車に浸透した自動車業界全体のトレンドかもしれません。それでもなお、良い機会ですので今回はご紹介させていただきます。

TFT液晶の良い点としては、ドライバーの目の前に大量の情報を集約させることで、注意散漫な運転を抑制したことが挙げられます。もちろん悪い点もあります。それは車外の明るさに関係なく、常にメーターが点灯していることです…。私が何を言いたいかわかりますか?

何が言いたいのかというと、LEDランニングライトとTFT液晶式ディスプレイは、夜間ドライバーの悩みの種になっているのです。TFT液晶式ディスプレイは電源オンの状態で常にバックライトが点灯し、最新のLEDランニングライトは道路を照らすほどに明るい。そのため夜間に、ヘッドライトを点灯させることを忘れたまま走行するドライバーが非常に多くなっているというわけです。

さらに加えるべきは、全輪(4輪)駆動の普及もアウディによってけん引された事象であると言えるでしょう。全輪駆動は適切な状況、そして何より適切なタイヤと組み合わせることで間違いなく車に恩恵がもたらされます。アウディの代名詞でもあるAWDシステムと言えば「クワトロ」ですが、アウディは路面の荒れたラリーでその名を轟(とどろ)かせ、類まれなる優位性をロードカーに反映させることに成功しました。

アウディは全輪駆動もブランドの軸に

BMWとメルセデスは、80年代から90年代にかけて全輪駆動車を断続的に製造していましたが、アウディほどに全輪駆動というアーキテクチャを全面採用することはありませんでした。それは、BMWやメルセデスの車がすべて後輪駆動であったのに対して、アウディは前輪駆動のプラットフォームをベースとしていたため、全輪駆動のほうがプレミアム感を擁していることが主な理由として挙げられるでしょう。

instagramView full post on Instagram

アウディは、フルタイム4WDの乗用車への導入を1980年以降進めていきました。ブランドの革新性を象徴する技術・ブランドのDNAの一部として磨き上げ、全輪駆動の優位性をアピールすることに成功したのです。

今や高級車には標準装備でもオプションでも、全輪駆動が当たり前の時代となり、雪道を平然と走る車の広告も存在します。ただ、適切なタイヤやそのための装備をタイヤに装着すれば、後輪駆動や前輪駆動の車でも実際のところ(慎重さは必要ですが)ふつうに走ることも可能なものではないでしょうか。もちろん、多くの条件下で全輪駆動の性能的な利点はあることは評されていますが、それだけでは雪のトラブルから抜け出すことはそう簡単なことでもないはずです。そんな事実を忘れさせるほど、現在、全輪駆動に対するイメージは非常にポジティブと言えるのです。

つまり、これもアウディの功績と言えるのです。このブランドによって、他のブランドが追随せずにはいられないような方法で、デザイン、技術、エンジニアリングをマーケティングし、開発することに成功したからなのです。それはアウディの関係者にとって、大きな満足をもたらすものでしょう。そして、少々面白いことでもあります。

Source / Road & Track
※この翻訳は抄訳です。