4月22日のアースデイは、1970年アメリカのG・ネルソン上院議員がこの日を“地球の日”であると宣言して誕生しました。

いま、地球はさまざまな問題を抱えています。中でも、大きな問題のひとつと言えるのが「温暖化」です。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響はあるのか? これからわたしたちの暮らしはどうなるのか? そしていま、わたしたちは何をすることができるのか? などなど、国連大学サステイナビリティ高等研究所プログラムヘッド竹本明生さんに教えていただきました。

【 INDEX 】

1.温暖化の影響でいま、起きていること

2.「気温上昇を1.5度に抑える」。その意味を理解していますか?

3.温暖化への備え、そして未来の上昇を抑えるためにできること

4.気候変動対策は、平和で公正な社会を目指すSDGsとの両立によって成り立ちます


1.温暖化の影響でいま、起きていること

グリーンランドや南極圏、北極圏の氷床や氷量の消失などによって海面上昇が起き、台風やハリケーンの影響も加わりバングラディシュなど低地の国の一部が浸水しました。一方、干ばつによって農業が打撃を受けたアフリカなどの地域から、ヨーロッパなどへの移住者が増加しています。すでに世界各地で起きている「温暖化」の影響は、人的損害をはじめ食糧問題や紛争、人道問題など連鎖的な広がりを見せます。

Q:国内という足元に目を向ければ、私たちも年々、猛暑やゲリラ豪雨、台風などによる被害の大きさを痛感していますが、他にはどんなことが起きているのでしょうか。

「温暖化によって、すでに日本の生態系が崩れはじめています。それによって、生態系を利用した農業や水産業などの産業にも影響が出ているのです。例えば、愛媛県ではミカン、長野県ではリンゴといった特産品の果物は優れた品質の維持が難しくなっているようです。より温暖な気候に適した果物に転換したり、品種改良を進めたり、と適応策を実施しています。お米の産地も、北日本へと拡大しています。海水温の上昇により、漁場にも変化が見られます。東京湾近郊では、魚の栄養源となる藻場が減少してサンゴが増加し、熱帯性の魚が見られたりといった変化が起きています。こうしたことは生産者にとっても深刻な問題ですが、当然、消費者である私たちへの影響も免れません」

2.「気温上昇を1.5度に抑える」。その意味を理解していますか?

Q:「気温上昇を2度あるいは1.5度に抑えるという目標の達成は難しい」という情報をしばしば目にしますが、この目標の背景や基準を教えてください。

「2015年のパリ協定で、産業革命前から2100年までの気温上昇を2度未満に抑えるための国際ルールを結びました。しかし、2度未満ではダメで、1.5度と目標をもっと高くすべきだという議論が起きました。2018年の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で、地球温暖化を1.5度のレベルに抑えることが人間と自然生態系を気候変動の脅威から守るために必要であり、そのためには「今世紀半ばまでに地球規模でカーボンニュートラルを実現しなければならない」ということが明らかとなりました。そして2021年11月、グラスゴーで開催されたCOP26の『グラスゴー気候合意』で“5度に抑える”という目標が明記されたのです」

    Q:気温上昇の現状は、この目標に沿っていると理解していいのでしょうか。

    「IPCCの最新報告によれば、残念ながら2030年までに“約1.5度上昇する”と予測されています。近年(2010年から2019年の平均)は、産業革命前(1850年から1990年の平均値)からすでに1.06度上昇していますから、いまから8年後までにあと約0.4度程度上昇する可能性が高いということです。それ以上の温暖化を抑えるためにも、脱炭素社会の早期の実現が求められます」

    長い歴史の中で、地球の気候はいく度となく変化してきました。これまでは自然の要因が変化を引き起こしてきましたが、この温暖化は人間の活動によってつくり出された温室効果ガスの蓄積によるもの。温室効果ガスの中でも一番の要因とされるのが二酸化炭素で、特に化石燃料由来の排出です(ごく一部ですが、この説に異論を示す研究者もいることを忘れずに…)。

    Q:現在、各国それぞれ努力をしていると思いますが、やはり、不十分なのでしょうか

    「特にこの1、2年、国内外で気候変動対策は大きく進展しています。ですが二酸化炭素の寿命は、100年程度と非常に長いのです。一度排出されると長期にわたって大気中に蓄積されるので、対策によって排出を減らしてもすぐには効果が表れません。1960年代から20世紀末までは主として先進国が、21世紀に入ってからは経済発展の著しい途上国が化石燃料の消費を増やしました。これに森林の乱開発なども重なった結果、排出された二酸化炭素を陸地や海洋が吸収する能力を超え、蓄積され続けてきたのです」

    Q:目標は2度から1.5度へ、0.5度引き上げられました。ですが、その上昇はあと10年前後に訪れるかもしれない、その影響にはどんなことが考えられるでしょうか。

    「現在、私たちは産業革命前から約1度平均気温が上昇した世界にいますが、IPCCの報告書によれば、50年に一度発生するレベルの極端な高温の頻度がすでに約4.8倍増加しています。今後1.5度温暖化した場合、極端な高温が発生する頻度が現在よりも80パーセント程度増加、2度上昇した場合は3倍近く増加すると予測されます。また、平均気温の上昇により大気中の水蒸気量も増加、それに伴い豪雨災害も増加すると予測されます」

    地球が直面している「温暖化」のこと。気温上昇を15度に抑える
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    3.温暖化への備え、そして未来の上昇を抑えるためにできること

    Q:世界的な知見として、「2030年までに1.5度上昇に達する」と目され、その影響が推測されるとすれば、「わたしたちの備えも待ったなし」ということでしょうか。

    「まず大事なことは、私たちが住んでいる街の気候変動のリスクについて知ることです。最近はハザードマップを通じて、洪水や高潮などの災害リスク情報を入手することができます。また、予想される気候災害に対した備えをしておくことが重要です。太陽光発電、電気自動車、蓄電池などの自律分散型の電力システムを整えておくと災害時に大いに役立つことが分かっています。将来、住まいを選ぶ場合には、自宅だけでなく病院や学校など公共施設周辺の災害リスクを調べたり、自治体の気候変動対策をHPなどでチェックしたりして、気候リスクに対して適応力の高い地域を選択することをおすすめします。また、行政は政策立案のプロセスでパブリックコメントを行っているので、街づくりなどの政策に対して、気候変動対策を強化すべきといった声を届けることも可能です」

    Q:二酸化炭素の寿命が長いのであれば、わたしたちは、将来の気温上昇を抑えるためにクリーンエネルギーを利用していくことが重要ということでしょうか? 他に、頭に入れておいたほうがいいことはありますか。

    「IPCCの最新報告では、私たちの食料が生産から輸送、消費、廃棄の課程で温室効果ガスの排出に大きな影響を与えていることが明らかになりました。例えば、アマゾンやアジアの一部地域の農民は熱帯林を伐採して農地に転換し、カカオやコーヒーなどお金になる作物を生産して生計を立てています。それらを主に消費しているのは、私たち先進国の人々です。また牛肉は、広大な放牧地と飼料を必要とします。人々の暮らしが地球規模で豊かになり牛肉に対する需要が増加することで、より多く森林が牧草地に転換され、さらに農薬によって土地の劣化を招くことで温室効果ガスの排出も増大しています。さらに、包装容器や衣類の材料であるプラスチックも、製造工程で大量の二酸化炭素が排出されていています」

    「これからは大量生産・消費・廃棄の社会から、『地産地消』をはじめとしたサステナブルな生産・消費社会への転換を地球規模で進めていく必要があります。最近は多くの企業が、環境配慮の取り組みの“見える化”を積極的に進めています。企業の公開情報などもチェックして、サステナブルな商品の購入を検討していただきたいです」

    「stop!地球が悲鳴を上げている」地球が直面している「温暖化」のこと
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    4.気候変動対策は、平和で公正な社会を目指すSDGsとの両立によって成り立ちます

    一人ひとりの意識や行動を変えていくことが、温暖化対策につながります。ですが、これはまさしく地球規模の問題。「自分が変わったから自分だけは助かった」、ということはありえず、地球に暮らす人間全体の安定した生活や社会があってこそ、解決できる問題ということ…。私たちは、より広い視野を持って行動する必要がありそうです。

    「はい。人類が誰一人取り残されない平和で公正な社会を築くために立てた目標 『SDGs』と気候変動対策、は両立し実現していかなくてはなりません。例えば、発展途上国の農村や離島など電力アクセスのない地域の人々は、森林を伐採し薪をつくって燃料にしています。主に女性や子どもが採取や調理の役割を担い、就労や学ぶ機会を損失しています。狭い室内で薪を使うため、大気汚染による健康被害も起きています。このような地域に太陽光発電などのクリーンエネルギーが普及することで、森林伐採による二酸化炭素の排出が抑制され、ジェンダー平等の下で教育や就労の機会の増加や健康増進が図られ、持続可能な社会に近づいていきます。日本と途上国では社会的課題は異なりますが、資金的に余裕のない世帯でもクリーンエネルギーが利用できるよう、カーボンニュートラルを公正なカタチで移行させていく必要があります」

    Q:最後になりますが、このたびのロシアのウクライナへの軍事侵攻は痛ましい限りです。地球全体の問題ではないでしょうか? 温暖化に対しても、何らかの影響はあると思われますか。

    「ウクライナ危機は世界の平和、食料、エネルギーなど、SDGsの実現に大きな影響を与える深刻な問題であり、気候変動対策にも無関係ではないのです。日本は脱炭素社会に移行していく中、今後、海外に対するエネルギー依存度が低下してエネルギーセキュリティが確保されるという点で、気候変動政策と方向性が合致しています。他方で、現在起きている燃料価格の高騰などの問題については、気候変動対策とエネルギー弱者の支援をバランスよく組み合わせた取り組みの検討がSDGsとの両立の観点からも重要となってきます」

    「stop!地球が悲鳴を上げている」地球が直面している「温暖化」のこと
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    お話をおうかがいしたのは…

    竹本明生(たけもとあきお)さん
    国連大学サステイナビリティ高等研究所プログラムヘッド

    環境省などで気候変動対策、環境アセスメント等に関する法案や計画の策定、家電エコポイント制度などの政策立案や国際交渉を担当。2018年より地球環境ファシリティにて途上国の環境保全プロジェクトのファイナンスを担当。2020年6月から国連大学にて気候変動対策とSDGsのシナジー、SDGsに関するガバナンス等の研究、教育、アウトリーチ活動を実施。

    From: Fujingaho JP