人気ヒーロー、バットマンの永遠の宿敵として名高いのが、ピエロ風メイクに甲高い笑い声が印象的なジョーカー。悪役キャラクターながら、世界中で高い人気を誇っており、実写版ではこれまでジャック・ニコルソンや故ヒース・レジャーら演技派俳優が、個性あふれるジョーカーを演じてきました。 
 
 最後に私たちがジョーカーの姿を目にしたのは、2008年に公開された『ダークナイト』です。故ヒース・レジャー演じるジョーカーが、バットマンを心理戦でじわりじわりと痛みつける姿がとても印象的でした。惜しくも撮影後に命を落としてしまったヒース・レジャーは、その年のオスカー助演男優賞を受賞し、多くの方々はジョーカー=ヒース・レジャーと認識することとなります。

 そんな中、11年ぶりとなる2019年、ジョーカーが帰ってきました。

 最新作『ジョーカー』ではジョーカーの誕生エピソードが描かれ、「一人のコメディアンであるアーサー・フレックがいかにしてジョーカーになったのか?」について明かされます。

 アーサー・フレック(ジョーカー)を演じるのは、演技派俳優として知られるホアキン・フェニックス。本作を手がけたのは、「ハングオーバー!」シリーズなどこれまで多くのコメディ作品を世に送り出してきた、トッド・フィリップス監督。 
 
 本作は第76回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、「オスカー作品賞候補に入るのでは?」と映画評論家たちから好評を得ています。 
 
 このたび「エスクァィア・デジタル」編集部は、トッド・フィリップス監督と電話インタビューを行うことに成功。多くのファンたちが気になる本作のことについて、直接聞いてきました。その内容を皆さんにお届けいたします。 


【トッド・フィリップス監督へインタビュー】 
 
編集部:『ジョーカー』は1970年代の雰囲気を残しています。監督が70年代が好きなこと、映画を描くうえで70年代が適切だったことが背景にあるのでしょうか? 
 
私たちの頭の中では、このストーリーは1970年代後半から80年代初期の設定です。これには多くの理由がありますが、主な理由はDCユニバースから切り離すため…。今までの映画で観て来たジョーカーと、このジョーカーが共存することは避けたかったのです。そのため意図的に、すべてその話が起こる前に設定しました。『タクシードライバー』、『狼たちの午後』、『キング・オブ・コメディ』のような映画の時代に起こった出来事としてつくりたかったことは確かです。当時(70年代)のスタジオは、キャラクター描写の作品を制作していました。それは効果がありましたね。

編集部:本作が、今までとは全く違ったジョーカー作品であることに驚きました。フィリップス監督は、意図的にこのようなジョーカーをつくられたのか? または、既にあったイメージのジョーカーをもとにつくられたのでしょうか?

このジョーカーは独立したものです。そのため、大きなユニバースの一部としてつくったものではありません。この作品をつくった目的は、皆さんが長い間知っていて、また愛着を感じているキャラクターを研究し、しっかりした現実的なキャラクターをつくり出すことにありました。過去に素晴らしい俳優がジョーカーを演じていますし、素晴らしいコミックも書かれているため、チャレンジもあり怖い気持ちもありましたが、ホアキン(・フェニックス)と私にとって、自分たちの作品をつくることが大切でした。

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本作に登場するジョーカーのビジュアル。

編集部:ホアキン・フェニックス演じるジョーカーが、世界中で称賛されています。彼が演じたジョーカーはいかがでしたか?

ホアキンが役づくりでもたらしてくれたものは、驚きの連続でした。これまでも、この世代で彼は最も優れた俳優だと思っていましたが、常に私を驚かせてくれました。ホアキンのような演技派俳優が、演じる役を素晴らしいものにしてくれるのかを数値で示すことは決してできません。彼の素晴らしい演技は説明したり、言葉で表現することは難しいですね。

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ホアキン・フェニックス(右)と作品作りに励む、トッド・フィリップス監督。

編集部:この映画にこめたメッセージがあれば、教えてください。

映画において、私はそこにメッセージを定義すべきとは思っていません。映画を観に来た人の中には、ジョーカーの原点だと理解しながらも、そこに必ずしもメッセージがあることを望んではいないと思うのです。メッセージがあるだけで政治的な映画だと捉える人がいるかもしれませんし、人によっては人道主義者的の映画だとみる人もいることでしょう。メッセージが何かはすべて観客のほうに委ね、観客に対して「こんな経験をしてほしい」と、こちらが定義するものではありませんから…。 
 
編集部:予告編でも登場するジョーカーの踊りについて、参考にしたものはありますか?

初期の段階でホアキンと話したのは、アーサーとジョーカーの中には音楽が頭の中に常に流れているということでした。これを表現する方法として思いついたのが、ダンスです。ダンスは本作において重要なことであり、彼の転身(変換)も表しているのです。ダンスを通じてアーサーは自身を捨て、ジョーカーというもう一人の自分を受け入れているのです。 

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開
映画『ジョーカー』本予告【HD】2019年10月4日(金)公開 thumnail
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編集部:
アーサーは階段を上がるとリラックスしているように見えますが、この「階段は」重要な要素なのですか? 
 
本作での階段が表現しているのは、アーサーは重い足取りで毎日を暮らしているということです。社会のシステムのどこかに所属しようとしているのですが、階段を上がるのは、そのシステムにうまくフィットしようと思っているとき。そして、階段を下りるのは、彼が狂気に落ち込んでジョーカーになってしまうことを表現しています。 
 
編集部:フィリップス監督は、元々DCコミックのファンでしたか? また、ジョーカー以外に映画をつくりたいと思ったキャラクターはいますか? 
 
子供の頃はコミック本を読んでいました。最初に面白いと思ったコミック本はフランク・ミラー原作の「デアデビル」シリーズでした。「デアデビル」はマーベルコミックですが、彼の影響で今度は彼が書いた『ダークナイト』に興味を持つようになりました。そこで初めてジョーカーとバットマンのキャラクターに興味を持つようになりました。コミック本の映画を今回のような方法で作りたいというアイデアが浮かんだ時に、最初に浮かんだのはジョーカーでした。なぜならば、彼は大混乱を象徴していると思ったし、バックストーリーもないし、それが自分にとっては魅力を感じる部分でもありました。他のキャラクターで映画をつくりたいと思ったことはありませんね、ジョーカーのみです。 
 
編集部:
本作のプロデュ―サーの1人に旧知の仲である、ブラッドリー・クーパーがいます。そんな彼がこの映画にもたらしたものはありますか? 
 
これまでに、私たちはお互いの映画を製作しています。つまり、お互いにフィードバックを与え合っているのです。脚本に対してのフィードバックもそうですし、そして編集室に一緒に入ることもあります。私にとってブラッドリーは、かけがえのない存在です。一日中、または何日も編集室に来て、メモを書いてくれるのです。これは彼が監督・主演を務めた『アリー/スター誕生』で、私が行ったことと基本的には同じです。「ハングオーバー!」シリーズ(フィリップス監督、ブラッドリー・クーパー主演)の1作目の撮影から12年も経ちますが、最も信頼している親友そしてコラボレーターの一人ですね。 
 
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トッド・フィリップス(Todd Phillips 
 
1970年12月20日生まれ、アメリカ出身の映画監督・脚本家・プロデューサー。代表作は『ハングオーバー!』シリーズ、『スタスキー&ハッチ』、『ロード・トリップ』など。これまで多くのコメディー作品を多く手がけており、『ハングオーバー!』シリーズで出会った俳優ブラッドリー・クーパーと仲が良いことで知られる。最新作『ジョーカー』が第76回ベネチア国際映画祭(2019年)で最高賞にあたる金獅子賞を受賞し、世界中から注目されている映画監督である。

『ジョーカー』 
2019 年/アメリカ/カラー/英語/122分 
原題:Joker 
配給:ワーナー・ブラザース映画 
2019年10月4日(金) 全国ロードショー 
(c)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &(c)DC 
 
公式サイト
>>>http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/