※本記事は、米国人エディター、アレックス・パッパデマス氏(Alex Pappademas)による取材をもとに構成されています。

"最終シーズンだったからこそ、『やれるはずだ』というような雰囲気があったんです"


  「最終シーズンは本当に強烈でした」と、コスター=ワルドー。

 ある戦闘シーン(ネット上の噂によれば、これはウィンターフェルのための戦いだといいます)は3つのロケ地を使用し、寒く湿った気候の中で50晩もかけて撮影されたとのこと。「あれは本当に大変でしたが、最終シーズンだったからこそ、『やれるはずだ』というような雰囲気があったんです」と、彼は語っています。

 コスター=ワルドーは48歳。ジェリー・サインフェルド(米国の人気俳優、スタンダップコメディアン)のようなホワイトのニューバランスを履き、薄茶色の髪にはかなりの白髪も混じっています。彼は『ゲーム・オブ・スローンズ』の以前には、何本かの米国映画に出演し、戦争映画のスナイパーや浮気をする夫、トム・クルーズ映画でトムに銃を突きつける男などを演じてきました。彼の場合ちょっとした役であっても、どこか行き場を失った主演俳優のような印象を抱かせました。

 そして実際に彼は、ある意味でそうだったのです。

 コスター=ワルドーは、1994年のデンマークスリラー『モルグ/屍体消失』でデビューし、連続殺人事件の重要参考人として疑いをかけられる死体安置所の警備員を演じました。この映画が大ヒットし、一躍デンマークの有名俳優となると、彼は在籍していた英国の映画学校を中退します。そして、本格的な俳優キャリアをスタートさせるのです。

 「『成功を収めた映画の主役を務めたんだから、オファーの電話は鳴り止まないだろう』と、甘い考えを抱いていました。そうです、実際は何も起きませんでした…本当に愚かでした」と、コスター=ワルドーは言います。

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ニコライ・コスター=ワルドー(2013年)。


 「ですが有名になるということの一面について、1つだけ学んだことがあります。そして、『ゲーム・オブ・スローンズ』の若手俳優たちが、この弊害をどのように乗り越えていくのかを見るのは楽しみなところです。私の場合、デンマークであれから5〜10年は何かをするたびに、『モルグの俳優』と言われたものでした。若い俳優として、あれには気が狂いそうになりました。『俺をその枠にはめないでくれ、俺はモルグの俳優じゃない!』と…。そして、このようなことは『ゲーム・オブ・スローンズ』でも起こるでしょう。名声という概念は、外部の力によって作り上げられる完全な抜け殻なんです。それは現在の自分自身とは何の関係もありませんし、将来的に関係を持つこともありません。名声を得るということは、自分とは無関係の物語の中で消費されるということであり、それを肝に銘じておかなければ、正気を失うことになるでしょう」とコスター=ワルドー。

 このタイミングで1つ重要なことに触れておくと、コスター=ワルドーは1999年に『Misery Harbour(原題)』という映画に出演しました。これは19世紀末に生まれ、デンマークやノルウェーで活躍した小説家のアクセル・サンデモーセの半自伝的な物語を映画化したものです。サンデモーセはデンマーク文化に、「ヤンテの掟(jantelovenn)」という概念を残したことで知られており、この10か条の倫理規定は個人主義よりも共同体が重要であることを強調するものです。

 デンマークと言えば、世界でも最も高い水準にある税金で知られていますが、それにもかかわらず国民の幸福度が世界一である理由には、このような価値観が関係しているのかもしれません。

 「ヤンテの掟」の第1条は、「自分を特別な人間だと思ってはならない」というもので、第7条には「自分が何かに秀でているとは思ってはならない」というものもあります。このような価値観は、ヴァイキングの末裔が住む極めてうまく組織された社会で育つ中で身につく多くの価値観とともに、コスター=ワルドーの頭のどこかに刻み込まれているのです。この価値観こそが、トイレに行く前に丁寧に断りを入れるような彼の人柄を形成したのです。このとき、私は斧投げに興じる周囲の音で彼の発言を聞き逃し、次の質問に進んでしまいました。しかし、彼は嫌な顔ひとつせずにきちんと質問に答え、その後立ち上がって、きっぱりと「トイレに行きたくてたまらない」と言ってから出ていきました。

 とても礼儀正しいコスター=ワルドーですが、断固とした意志の強さもあります。

 最終シーズンでのジェイミーの運命について、しつこく聞いたときには「これについては何も言えないんです」と笑顔できっぱりと断られました。彼はそれからひと呼吸置くと…「ジェイミーの腕が生えてくるんです。切られた腕がね」と、真面目な顔で言ってくれました。

 「ようやく聞けました」とインタビュアーである私は言いました。ファンたち、彼が何らかのヒントを出してくれる瞬間を待ちわびていたことでしょう。

 「ジェイミーの腕が生えてくるんですが、皆さんの考えるようなカタチではありません」と、コスター=ワルドーは続けて言います。

 私が「触手のようにでしょうか」と聞くと、彼は「爪です。爪が出てくるんです。いいえそれは、動物の前足のようなものです」と答えてくれました。おそらく彼はジョークを言ったのでしょう。

 とは言え、ジェイミー・ラニスターへの報いは必然的に感じられます。このシリーズの最初にジェイミー・ラニスターを見たとき、彼は自分が極めて特別で多くの点で秀でた人間であると信じており、あらゆる場面で「ヤンテの掟」を破っていました。

 しかし、最後から2番目のシーズンが終わるころには、彼は自らの人生を破綻させる(レナ・ヘディ演じる)サーセイへの忠誠をようやく考え直しているように見えます。サーセイはジェイミーの双子の姉であり、彼の子どもたちの母親でもあります。そして、サーセイが鉄の王座(アイアン・スローン)を求めた直接的・間接的な結果として子どもたちは、いずれも非業の死を遂げたのです。

 彼はサーセイによってひどく苦しめられており、彼女の命令で大きな苦しみを撒き散らしています。彼の借りを返しているのはいつもラニスター家であり、これがどんな結果を招くのかはまだわかりません。

「双子の姉サーセイを求めるジェイミーの感情は、(近親相姦であるという)タブーのほかは異常だと思ったことはないからです」


 ジェイミーとサーセイの恋(語の途中で、ジェイミーはサーセイ以外の女性を知らないことが明らかになりましたから、「恋」という言葉が正確かはわかりませんが)は、これまでテレビで描かれてきたあらゆる関係の中でも最も狂気じみたもののひとつです。

 しかし、ヘディとコスター=ワルドーは、2人の関係にいつもありそうもない優しさを吹き込んできました。コスター=ワルドーはこの理由について、「サーセイを求めるジェイミーの感情は、(近親相姦であるという)タブーのほかは異常だと思ったことはないからです」と語っています。

 「ほとんどの人は、自分が惹かれるべきでない人に惹かれた経験があるのではないでしょうか。姉ではなくとも、絶対に恋に落ちるべきでない人、たとえば親友のガールフレンドなどです。ジェイミーがサーセイのために尽くすのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』における数少ない真のラブストーリーの1つです」と、コスター=ワルドーは説明してくれました。

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 ラニスター家の中でも一番応援したくなるのは、ピーター・ディンクレイジ演じるティリオンでしょう。残酷さを内面化したような人生を克服し、プレッシャーのもとで隠された勇気を奮い起こし、質の良い「ドーニッシュレッド」ワインをがぶ飲みするような痛快さで、次から次へと名ゼリフを吐き出すのですから。


 また、超越的思考を持つという意味で、応援したくなるのはサーセイでしょう。

 彼女は『ゲーム・オブ・スローンズ』の中で、唯一王国を率いる資格があるように思える人物です。しかし、コスター=ワルドー演じるジェイミーは、最も親近感を感じられるラニスターではないでしょうか。過去の誤った判断を繰り返し、屈辱的な人生で出口を見つけようともがき、信じたあらゆるものが自らを見捨てたことを理解した上で生きているのですから…。

 人々がティリオンのセリフをTシャツにプリントするのは、最高の自分になるのを想像することが楽しいからです。一方、ジェイミー・ラニスターのセリフで記憶に残っているのは、「俺のような男は他にいない。俺だけだ」というものです。

 これをウルヴァリン的なクールなセリフと受け取る人もいることでしょうが、私はいつも彼の深い孤独を感じずにはいられません。『ゲーム・オブ・スローンズ』の最も大人向けな部分は、その残酷さや性的な露骨さにはありません。「ヒロイック・ファンタジー」というジャンルにもかかわらず、「ヒーローたちがときに何もできないことがある」という事実にあるのです。こんなとき彼らは、配られたお粗末な手札をプレーするための名誉ある方法を見つける他ないのです。

 コスター=ワルドーはジェイミーについて、「彼は人生の中で、多くの成功や喜びを得てきたわけではありません。彼が触れるあらゆるものが壊れてしまうのです」と語っています。

 何シーズンか前には、ジェイミーが娘に実の父であることを伝えようと、勇気を出すシーンがありました。コスター=ワルドーは、このシーンが好きだったそうです。俳優としての彼の本当の見せ場でした。しかし、その数秒後に彼女は、サーセイの敵が盛った毒により命を落とします。こんなことが起こるのがウェスタロスなのです。

 このドラマの最新シーズンに関して、苛立たしいことを挙げるとすれば…インパクト抜群でネットで話題になるような展開を重視するあまり、キャラクターたちに内省の余裕がほとんど与えられないということです。自分の子どもたちが全員死ぬというような人生の重要な局面においてさえ、彼らには自らを見つめ直す機会が与えられないのですから…。

 「まさにその理由で脚本家を煩わせました」と、コスター=ワルドーは笑いながら語ります。

 「ストーリー展開が飛躍するのは、このドラマの常です。しかし、ジェイミーとサーセイは自分たちの最後の子どもが死んだという事実について、話し合うことはできなかったのでしょうか? そしていまや、サーセイは女王になろうというのですから…。あまりに多くのことが、同時に進行しているのです。俳優としてはこれらの点をつなぎ、ときにはかなり大きな飛躍が必要になります。たくさんの感情的な橋渡しをしなければならないのです」とコスター=ワルドー。

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   『「 『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章は本当に強烈でした」 ― ニコライ・コスター=ワルドーが語る』


From Men's Health
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。