※本記事は、米国人エディター、アレックス・パッパデマス氏(Alex Pappademas)による取材をもとに構成されています。


 「ここに至るまでに(『ゲーム・オブ・スローンズ』のプロデューサーである)デヴィッド・ベニオフ氏とD・B・ワイス氏は、俳優がときとして感情的になる…ということを学んだことでしょう。ですが私の関心は、ジェイミーだけに向けられています。彼らの関心はもちろん、多くの他の俳優たちにも向けられているようですが…。私には、ジェイミーのことに集中できる余裕があるので…。ジェイミーとサーセイには、このことについて数日間じっくりと話し合ってもらいたいと思っています」と、コスター=ワルドーは語ります。

 彼が脚本家に文句をつける様子が目に浮かぶようです。

 「どういうことなんだ? ジェイミーについて、私にじっくり話す時間はないっていうのか? 彼は一番重要なのに…」と。このときばかりは、「ヤンテの掟」とは正反対の身勝手で高慢な態度だったかもしれません。

 コスター=ワルドーが初めて、『ゲーム・オブ・スローンズ』の読み合わせに参加したとき、ベニオフとワイスはジェイミーについてのあらゆるアイディアを彼に伝えることはできませんでした。特に、このドラマが原作のファンタジー小説に追いついた後のことは、はっきりしていなかったのです。とは言え2人は、「ジェイミーは粗野な悪党集団と遭遇して片腕を切り落とされてしまい、さらに傲慢な騎士としての自らのアイデンティティも失ってしまう」といったことまで、このキャラクターについて十分彼に伝えました。

私たちはいま、犯罪行為とは違う意味で人々が過ちを犯す時代を生きています


 シリーズのパイロット版の最後では、ジェイミーが自分とサーセイの関係を目撃した子どもを窓から突き落とすというシーンもありましたが、コスター=ワルドーはこのようなキャラクターを演じるということにも、嫌悪感を持つことはなかったと言います。

 彼はこのシーンでの「愛のためだ」というジェイミーのセリフと行動の矛盾が、とても気に入ったと言います。この矛盾こそ彼が愛するものであり、人間の魅力を感じる点だというのです。

 「物事を100%有言実行する人に出会うことは、非常に稀なことです。誰もがあらゆるものに意見を持っていますが、他人に抱く理想に実際に自分自身が応えられるという人はかなり少ないんです。私たちはいま、犯罪行為とは違う意味で人々が過ちを犯す時代を生きています。『バカをやって炎上する』とでも言うべきでしょうか…。そこには許しがありません。一線を超えてしまっているんですね」と、コスター=ワルドー。

 「デンマークでもこんなことがありました。1800年ごろにつくられた歌があります。美しい歌です。曲名を英語にすると『The Danish Song is a Young Blonde Girl(デンマークの歌は、若きブロンドの髪の娘)』というものです。あるとき誰かがこの歌に腹を立てたんです。彼女は若くもなく、ブロンドでもなかったからです。『なんだって?』と思いませんか? 少なくとも私はそう思いました。古い人間で無神経だからかもしれません。ですが、もっと腹を立てるべきことは他にあると思いませんか。それに腹を立てるかどうかは、個人の選択でもあります。いちいち感情を害されないという選択だってあるのです。というのも、私たちが常にお互いや自分たち自身を検閲しなければならないとしたら、それは恐ろしい未来です」と、コスター=ワルドーは言います。

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  再び会話が脱線してきたのは、マッシュルームコーヒーのときと同じように行き詰まりかけているためでしょう。私(筆者)は話題を変えました。もう少し仕事について話し、彼が次に何をしたいかといったことを聞きました。

 コスター=ワルドーは、ジェイミーのイメージからの決別を強く意識しているわけではありません。「自分には他にこんなこともできる」というような、斬新な役にこだわっているわけではないのです。ちなみにこのファンタジーのキャラクターとは、180度異なるコスター=ワルドーを見たければ、2017年の映画『ブラッド・スローン』があります。この映画での彼の役どころは、飲酒運転で事故を起こして刑務所に入り、恐ろしい白人至上主義のギャングの中で地位を高めていくホワイトカラーの男性というものでした。

 ですが、それは重要ではありません。

 そもそも、「自分を特別な人物だとは思ってはならない」のです。コスター=ワルドーは『ゲーム・オブ・スローンズ』の撮影終了後、すでに1本の映画に出演しました。そして、この取材の後はすぐに車で空港に向かい、デンマークに帰国してさらに1本を撮影する予定です。しかしながら彼がこれほど忙しくしているのは、ジェイミー・ラニスターのイメージから決別するためではありません。久しぶりに夏休みをとり、妻と2人の娘と一緒に過ごすためにハードなスケジュールをこなしているからです。

 娘たちは、彼が架空の王国の王座を争っている間に驚くほど成長しました。そう、ジェイミーの言葉を借りれば、仕事は「愛のために」するもの…この考え方は、いたって普通なのです。

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From Men's Health
Translation / Wataru Nakamura
※この翻訳は抄訳です。