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ファッションにおいて、ときにはベーシックなアイテムがもっとも強い印象を与えることもあります。注意深く選んだ服装も今時のコーディネートも、シンプルなアイテムが的確に着こなされているスタイルには勝てっこありません。
例えばシンプルな白Tシャツです。ジェームズ・ディーンやマーロン・ブランド、ジョン・トラボルタ(『グリース』のダニー役)を、どんなスパンコールのボンバージャケットよりも断然輝かせて見せてくれました。
「いつでも頼りにできるアイテムです」とMatches Fashionでメンズウエアのトップを務めるダミアン・ポール氏は話します。「どんなに難しいファッションでも、白Tシャツに解決できないものはありません。ありふれたアイテムでありながら、クールな雰囲気を持っているのも大きな魅力と言えますね」。
しかし、「ベーシック」と言うのは、「ディテールをないがしろにしていい」という意味ではありません。1000円のTシャツでキメるのは難しく、洗濯にも耐えることもできないでしょう。私たちが選ぶべきは頼れる白Tシャツです。そんなTシャツの選び方を見ていきましょう。
白Tシャツの歴史
まずは何事も基本から…。白Tシャツの歴史を振り返りましょう。遡(さかのぼ)ること1904年、Cooper Underwear Companyという会社が「独身男性のためのアンダーシャツ」を売り出しました。1世紀以上も前のことだと考えると驚きですが、モデルは口ひげをたくわえた男性です。「伸縮性のある襟ぐりで、脱ぎ着が簡単」というのが売りで、「外れたり縫いつけたりしなければならないボタンはありません」という確約付きです。
頻繁にメンテナンスが必要だったボタン付きのユニオン・スーツに代わるデザインとして登場したこのシャツは、もともと工場の労働者が下着として使っていました。が、1914年にはアメリカ海軍の服装規定に正式に採用されたのです。
多くのミリタリーアイテム同様、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間にクルーネックが市民の間でも着られるようになりました(『Tシャツ』という言葉自体は、1920年にF・スコット・フィッツジェラルドの『楽園のこちら側』という小説の中で登場しています)。
しかし、Tシャツが下着以上の存在として確立されるようになったのは、マーロン・ブランドとジェームズ・ディーンの影響を受けてからのことです。Tシャツは(理由なき)反抗の証となり、その後、アーティストや活動家、デザイナーたちにとっての白いキャンバスとなったわけです。
完璧な白Tシャツとは?
「Sunspel(サンスペル)」のヘッドデザイナーであるデイヴィッド・テルファー氏にとって、Tシャツにとって重要な要素は「着心地だ」と言います。
「ネックラインが肌に馴染み、縫い目や縁がヨレずに長持ちするものを購入しましょう。そしてもちろん、着心地と耐久性の両面で、良質な生地であることも重要です」と彼は話しています。
これが、何枚でいくらといった安いTシャツが、お得に見えて高くつく理由です。2000円以下のTシャツはすぐにヨレてしまい、一度洗っただけで縮んでしまうでしょう。5000円以上のものを探せば、カシミヤのような輝きを放つ上質なピマコットンのクルーネックシャツが見つかるはずです。手触りがよく、軽いピマコットンは超長綿(ちょうちょうめん:綿花の繊維の平均の長さが35mm以上の上質な綿の種類)なので、安いTシャツよりも柔らかくて長持ちするのです。
手頃な価格で買える白Tシャツ
さらにワンランク上に位置するのが、ピマコットンの高級版である(最高級ランクに分類される超長綿繊維の上質綿であるピマコットン100%であることが、米国スーピマ協会 で承認された )スーピマコットン製のTシャツです。
綿の中でも、さらに希少で最高級のものと言えば海島綿(シーアイランドコットン)になります。海島綿は16世紀後半に英国王室に献上され、貴族を虜にした最高級のコットンでとも言われています。「シルクのような光沢に、カシミヤのような肌触り」と絶賛されるほどで、圧倒的に長く細い繊維が特徴となっています。
海島綿と言われるだけあって、現在でもカリブ海に浮かぶ、西インド諸島バルバドス、ベリーズ、アンティグア、ネービス、ジャマイカの5つの地域のみでしか栽培されておらず、厳しい管理下の元で生産されています。この素材のアイテムには、必ず「西印度諸島海島綿(West Indian Sea Island Cotton)」のロゴマーク付きのタグが付けられているので、見つけられたらぜひ手触りを感じてみてください。
Tシャツと言えども、海島綿製ともなると1万円越えすることもあります。ですが、テルファー氏の言うように上質なTシャツは長持ちするので、投資の価値はあると言えるのです。
サイズ感に関しては、クラシックカットなら縫い目が肩のラインにぴったりと合い、袖がちょうど上腕二頭筋の中間の長さになるので、上半身にフィットするものが適正サイズです。胴回りはぴったりと張りつくものは避け、余裕を持たせるのが良いでしょう。丈の目安は、パンツのジッパーの中間ほどの位置に来る長さがおすすめとなります。
おすすめの白Tシャツの着こなし
「文字やブランドロゴがプリントされたTシャツが、長い間市場を支えてきました」とFarfetch(ファーフェッチ)のシニアメンズウエアエディター、ルーク・レイモンド氏は話します。
「しかし現在は、よく考え抜かれたクラシックな美しさが重視されるようシフトしています。この現象を『ボッテガ・ヴェネタ効果』と呼ぶ人も、やりすぎだと言う人も、クラシックファッションの変化だと言う人もいますが、どちらにしろ白Tシャツが重要な要素であることは間違いありません」。
レイモンド氏の言う“ボッテガ・ヴェネタ効果”とは、同イタリアブランドの舵取り役としてダニエル・リーがクリエイティブ・ディレクターに就任して以来、落ち着いたクラシックなファッションへとシフトしていった動きのことを指しています。就任後2回目のショーとなった2020年春夏コレクションを、絶妙なオーバーサイズの真っ白なTシャツの裾をミッドウォッシュのデニムジーンズに入れ込んだスタイルで締めくくりました。
「ルメール」や「ダンヒル」など、同じく気取らない高級ブランドたちも似た方針をとっており、タートルネックの上やオーバーサイズのジャケットの下などに白Tシャツを合わせていました。
白Tシャツは上等なアイテムになりつつある
レイモンド氏によると、現在のTシャツは「微妙なひねりを加えた控えめなアイテム」だそうです。「厚手の生地でしっかりしたネックライン、少しだけ大きめなシルエット、肩のラインは落とし、長めで太めの袖に、ポケットのディテール…小さな工夫がTシャツを特別なものにしているのです」とのこと。
これらのインスピレーションは、「ギルダンやカーハートなどのアメリカのワークウエアブランドを、少しだけレベルアップさせることで生まれている」のだそうです。
ワークウエア風に着こなすには、ディッキーズのワークパンツやカーゴパンツ、ワイドパンツ、紐ベルトのワイドパンツなど、ゴツめのボトムスと合わせるのがおすすめです。スマートな着こなしを目指すなら、フィット感のあるものを選んだほうがいいでしょう。「ワイシャツの代わりに、白Tシャツをスーツに合わせるというトレンドがあるのは間違いありません」とレイモンド氏。「しかし、裾はパンツに入れ、張りのある生地を選ぶ必要があります」とのこと。
ということで、ここで上質な生地が重要になってくるわけです。
イタリア製のスーツには、それなりの1枚を合わせるべきでしょう。プレミアムなコットンなら型崩れしにくいだけでなく、白さも長持ちします。ちょっと奮発してシルクやカシミアの入ったものにアップグレードすれば、天にも昇る着心地も手に入れられます。
Tシャツの白さを保つ方法
基本中の基本ですが、もっとも重要なのが色物と分けて洗うこと。これで色移りを防ぐことができます。真っ白に保つためには、ストライプの服とも分けたほうがいいでしょう。部屋着に格下げされた古いシャツとも、分けておくことをおすすめします。高温での洗濯も効果的です。熱湯で洗濯すると縮みの原因となりますが、温水洗浄機能を使えば白さがより長持ちすることが期待できます。
え、もう手遅れ? いいえいいえ、くすんでしまったTシャツも白さを取り戻すことだって可能な場合もありますので。
特別な白Tシャツには特別な手入れを
「本来の白さを取り戻すには、レモンの果汁を入れた温水に30分つけ置きしてから洗濯してみてください」と、サステイナブルなケア製品のブランドClothes Doctorの創業者、ルル・オコナーさんは話します。
「日光が服を明るくしシミを消してくれるので、可能であれば外干しで乾燥させましょう」とも言います。
また、デオドラント系のコスメに含まれるアルミニウムが原因で起こる脇の黄ばみに関しては、洗濯前に使えるシミ抜き製品が効果的です。よく染み込むように優しく布に叩き込んでください。
乾かす際の注意点ですが、Tシャツのネックラインが伸びてしまうので、ハンガーの使用は避けたほうが懸命でしょう。そして、乾いた後もハンガーにはかけず、KonMari(こんまり)風に畳んでクローゼットにしまうといいでしょう。
Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。