2019年夏に公開された、クエンティン・タランティーノ監督作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットの豪華共演で注目されました。物語は60年代のハリウッドを描いており、映画好きはもちろんのこと、ファッションやクルマをこよなく愛する人にも好評を得ました。

 もし、本作を鑑賞された皆さんなら一度ならずとも、「アロハシャツやモカシン、そしてレザージャケットを買おうかな?」と思ってしまったのではないでしょうか? このようなアイテムを中心に、こだわりの衣裳が目を引く本作。この映画のファッション面で影響された人も少なくないでしょう。

 そこで今回、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の衣装デザイナーを務めたアリアンヌ・フィリップスさんに、インタビューを行いました。インタビュー場所は、ハリウッド大通りに面した伝説的なグリルレストラン「ムッソ&フランク」。

 ここはかつて、チャップリンやマリリン・モンロー、グレタ・ガルボ、ワーナー・ブラザースを創立したジャック&ハリー・ワーナー、そしてハンフリー・ボガートなどの映画関係者がこぞって訪れた有名店です。

 また、ブラッド・ピットやジョージ・クルーニーなど現役のセレブたちも通っているようです。本作でも、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がエージェントと会うシーンで、このレストランが使われていました。

 フィリップスさんは、リックやクリフ、そしてシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が実際に身に着けた衣裳を前にして、それぞれの役の「お守り」的アイテムを発掘した背景や、あのイエローのアロハシャツの誕生秘話など、映画を観ただけでは知ることのできない様々なエピソードを語ってくれました。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開
映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』予告 8月30日(金)公開 thumnail
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エスクァイア編集部(以下、編集部):それぞれの登場人物の衣裳にまつわる裏話などがあれば、お聞かせください。

アリアンヌ・フィリップス(以下、フィリップス):私にとって、衣裳のディテールとは常に重要な意味を持っています。それぞれのキャラクターを象徴するモチーフとしてだけでなく、「役者がその役になりきるために役立つのではないか?」と思っています。例えば、このメダリオンの片面にはリックのイニシャルの「R」が、もう片面にはチューダーローズのような模様が入っています。が、これはスティーブ・マックイーンの不良っぽさを表すアイテムからインスピレーションを得たものです。ベルトにもイニシャルが入っているのですが、身に着けるものにイニシャルを入れるのは、エゴと虚勢の現れでもあります。そのため、リックにはこれがぴったりなのです。

 クリフのためのこだわりのディテールは、スタントマン用のバックルです。

 映画の仕事をしていると、時々信じられないようなマジックが起きて、衣裳のカギとなるアイテム…言ってみれば、その役柄をダイレクトに感じさせるおまじない、またはお守りのようなものと言えるでしょうね。

 ある日私は、ワーナー・ブラザースの巨大な衣裳倉庫をくまなく探し回りました。するとそこで、「スタントマン協会員」用のベルトバックルに出合ったのです。1965年以降のものだと思いますが、これらのベルトバックルはスタントマンが自分専用のものとして身に着けるものです。そのとき、「これこそクリフのアイテムでしょ」ってひらめきました。私が心躍らせたのはもちろんですが、ブラッドとタランティーノ監督もこの案にとても賛成してくれて、正式な衣裳に採用することが決まったのです。

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 シャロン・テートに関しては、幸運にもシャロンの妹であるデボラ・テートをコンサルタントとして迎えることができました。デボラの好意でシャロンの衣類やジュエリー、サングラスを見せてもらえたのです。それらに触れて感じることで、直に伝わってくるものがありました。

 私は、シャロン・テートという人物を再現するということに、デザイナーとして敬意と責任を感じました。さらにデボラからは、シャロンに関する逸話やエピソードを聞くことができたのです。これは私にとって、非常に重要なことでした。

 私はデボラに、シャロンの私物を何か映画の中で使用できないか頼みました。特に目立つものでもゴージャスな宝石でもなく、時を経てなお残っていたシャロンの持ち物の一部ですが、デボラはそれを貸してくれたのです。というわけで、映画の中でロビーがつけていた指輪は、シャロンの実際の私物だったのです。

編集部:クリフのアロハシャツはどのようにして決定したのですか?

フィリップス:タランティーノ監督の脚本に、クリフがアロハシャツを着ているという描写がありました。アロハシャツは、タランティーノ監督の定番アイテムのようなものであり、他の作品で何度も登場しています。だからこそ、この映画に特有の個性が必要だと思いました。そして当然、タランティーノ監督とブラッドも独自の個性がある人たちです。

 ですから、ありとあらゆるビンテージシャツを見て回りましたが、最終的には似たようなビンテージシャツをもとに、柄をハワイアンではなくアジア風のモチーフに変えてつくることを思いついたのです。カタチこそアロハシャツですが、この映画独自の世界を表現しています。

 そしてイエローは、この映画の中でも多用していますが、私にとってカリフォルニアを象徴する色なのです。60年代によく使われていた色でもあり、ブラッドにもよく似合っていたと思います。

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編集部:靴に関してはどうでしょうか? リックのウエスタンブーツとクリフのモカシンは、2人のキャラクターから抽出されたもののようですが…。

フィリップス:リックは、仕事以外でもウエスタンブーツを履いています。が、それは彼が「カッコつけ」だからです。ウエスタンブーツを履いていると、ちょっとワルっぽい感じがしますよね⁉ そして、タフで丈夫で守られている安心感がある。まさに、彼のパーソナリティの一部となっているブーツなのです。

 クリフのほうは、映画『明日の壁をぶち破れ』で主演トム・ローリン演じるビリー・ジャックのデニムスタイルに着想を得ました。彼がモカシンを履いているのもまた「ワル」の演出ですが、柔らかいモカシンを選ぶところに自信がにじみ出ているのです。

 ブルース・リーと対峙するシーンでも、彼がいかに自信に満ちているかがわかると思います。そのため、モカシンを履かせることで、ちょっとした危うさを演出していたのです。クリフはスタントマンですから、ビルからも飛び降ります。スタントマンという危険と隣り合わせに常にいる人物が、その足元にはモカシンを履いている…というのが良いと考えたのです。そして、モカシンは文化的な意味で、クリフが自身の行く末を意識していることを暗示しています。

 なにせ、モカシンは、ヒッピーや若者が履くものですから…。また、リラックス感のあるカジュアルスタイルにも合っています。これらのことが、衣装デザインの背景となっています。

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編集部:衣裳に使う色は、どのように選んでいますか?

フィリップス:私は本作をタランティーノ監督のルポルタージュ映画(事件や社会問題などを題材に、綿密な取材を通して事実を客観的に描く映画)だと思っています。他の作品のように様式化(事物を単純化・類型化しながら、表現に様式上の特性を与えること)されていないという点では、タランティーノ監督が2009年に手がけた「イングロリアス・バスターズ」もルポルタージュ的です。

 そのため、私はタランティーノ監督と長くタッグを組んでいる撮影監督のボブ・リチャードソンさんの手法から、色使いを学ぶことにしたのです。彼の撮影方法や美しい色使いは実にすばらしいもので、とても参考になりました。

 また、プロダクションデザイナーを務めたバーバラ・リングさんのデザインやその時代の色、映画の中で映える色についても着目しました。例えば、緑色はDVDの画質には向きませんから、今回使用を控えています。

 さらに言えることは、赤もあまり使っていないということです。リックのガウンに赤を使いましたが、中国の伝統的な赤いシルクを使用し、独特な雰囲気にしました。本作では普段あまり使っていなかった茶色やオレンジ、そして、黄色を多く取り入れました。 
 

 

 

  
 

Source / Esquire UK 
Translation / Keiko Tanaka 
※この翻訳は抄訳です。