ちょうど20年前、ハル・ベリーは黒人女性として初めて、映画『チョコレート』でアカデミー賞主演女優賞を獲得しました。ですが、それ以降この賞を獲得した黒人女性は、これまでほかにいません(さらに、今年の候補者はすべて白人であることから、少なくともあと1年は、同じ状態が続くことになります)。

さらにひどいのは、白人女優14人の受賞回数の合計が、過去に受賞した黒人女性の人数を上回ることでしょう。たとえば『スリー・ビルボード』『ノマドランド』などに出演するフランシス・マクドーマンドは、主演女優賞を獲得した黒人女優の3倍にあたる数のトロフィーをひとりで受け取っています(もちろん、フランシスの演技は素晴らしいですし、侮辱するつもりはありません)。

90th annual academy awards show
Kevin Winter//Getty Images
フランシス・マクドーマンド

ハルが主演女優賞に輝いたとき、それはこの賞にとっての重大な分岐点になると考えられました。にもかかわらず、その後ひとりも黒人女優がこの賞に選ばれていないことは、にわかには信じられません。そして、この考えは年を追うごとに、ますます強まっているように思われるのです。

受賞からちょうど20年というこの記念すべき年に、ハルは『ニューヨーク・タイムズ』紙のインタビューに応じ、こう語っています。

「扉を開いたと思ったけれど、そうではありませんでした。私の隣にほかに誰もいないという事実に、胸が張り裂ける思いです」

ハルが受賞した2002年も、彼女は“本命”ではなく、有力視されていたのは『イン・ザ・ベッドルーム』で主演を務めたシシー・スペイセクでした。ハルの受賞がことさら重大な、歴史的な出来事とされたのは、まさに予想外の受賞だったという驚きのためでもあったと考えられます。今でもこのときのハルのスピーチは、アカデミー賞史上最高のスピーチだったといえるでしょう。

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Halle Berry Wins Best Actress: 74th Oscars (2002)
Halle Berry Wins Best Actress: 74th Oscars (2002) thumnail
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また、ハルは『タイム』誌に対して、「受賞者がいないことは、有色人種の女性たち、特に黒人女性たちがハリウッドで素晴らしい仕事をしていないということではない」と述べています。

2010年に『プレシャス』でノミネートされたガボレイ・シディベの素晴らしい演技は、多くの人の記憶にも残っていることでしょう。この年『しあわせの隠れ場所』で受賞したサンドラ・ブロックや、2012年に『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』でノミネートされたヴィオラ・デイヴィス、『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で受賞したメリル・ストリープに、ガボレイが劣っていたと思う人がいるでしょうか……?

ハルが主演女優賞でオスカー像を手にした後、この賞のノミニーとなった黒人女優は、わずか7人(ヴィオラ・デイヴィスは2回ノミネート)のみ。そしてそのうち5人は、公民権運動で活躍した黒人女性を演じてノミネートされています。

abc's coverage of the 93rd annual academy awards
ABC//Getty Images
ヴィオラ・デイヴィス

ちなみに、2022年の主演女優賞のノミニーも、すべて白人。これは、『PASSING -白い黒人-』のテッサ・トンプソンやルース・ネッガといった非白人の女優に対して、非常に失礼な話ともいえます。

アカデミー賞を巡るこうした状況は、「人種差別」や「芸術的傾向」、「アクセスの問題」など、いくつもの言葉を使って説明することができるでしょう。ただし、確かなことはひとつ。それは、「アカデミー賞が“白すぎる”こと」は、もはやそれほどショッキングではないということです。

それでも、受賞者を決定するためのこれまでの投票が、白人至上主義に満ちたものであったことは見過ごせません。黒人のノミネート率はわずか7%、受賞率は0%――これが偶然だと考える人が、いるでしょうか?

Source / ESQUIRE US