マーティン・スコセッシ監督のような偉大な映画監督ほど、アダム・ドライバー(Aadam Driver)を「この世代で最も優れた俳優」と評価しています。これは大御所監督の何気ないお墨付きといったレベルでは収まりません。もともとは、ほとんどエンターテインメント界とは無関係な元海兵隊員というキャリアから俳優に転向した人物が、HBOのテレビシリーズ「Girls/ガールズ」で有名になるとその後すぐに、『スター・ウォーズ』の続編三部作で架空のキャラクター、カイロ・レン役を演じて一定の評価を受けるほどの、類まれな俳優であることの証明なのです。

以来、ドライバーは過去数年間でいくつかの重要なキャスティングにサインし、スコセッシだけでなく、リドリー・スコット、ノア・バームバック、スパイク・リー、ジム・ジャームッシュ、テリー・ギリアム、スティーヴン・ソダーバーグ、サヴェリオ・コスタンツォ、マイケル・マンといった著名な監督たちとコラボレートしています。以下、「アダム・ドライバーの出演作ベスト5」を選出しました。彼の最も重要で最高の演技をリスト化したもので、常に際立ったキャラクターたちです。


『ブラック・クランズマン』(2018) スパイク・リー監督

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
ブラック・クランズマン(字幕版)
ブラック・クランズマン(字幕版) thumnail
Watch onWatch on YouTube

スパイク・リーの『ブラック・クランズマン』は、コロラドスプリングスの黒人刑事であるロン・スタロワース(演:ジョン・デヴィッド・ワシントン)の実話に基づいており、彼は白人至上主義秘密結社クー・クラックス・クランに潜入するよう命じられます。

スタロワースはデビッド・デューク(演:トファー・グレイス)に、電話で囮(おとり)捜査を仕掛けるのには問題ありませんでしたが、実際には相棒が必要でした。同僚のフリップ・ジマーマン(演:アダム・ドライバー)が助け、汚職、暴力、無知が蔓延る世界に潜入します。

アダム・ドライバーが初めてアカデミー賞候補(助演男優賞)入りを果たしたこの映画は、強力な市民権に対する使命感を持っていると同時に、人種差別によっていまだ分断されているアメリカの過去と現在の橋渡しとなっています。ドライバー演じるジマーマンは非常に特殊なタイプの刑事であり、職務に忠実でありながらも警察官のステレオタイプからはかけ離れています。

捜査のため変幻自在に、警察官としての自分と白人至上主義者のキャラクターを入れ替えます。完璧なアメリカの田舎者でありながら、(KKKが行う)十字を燃やす儀式に対し、忠実にふりができる冷血さも持ち合わせている複雑な人物。ドライバーのその演技でキャラクターに自然と身をゆだね、その人物像に“spontaneity(自然体で自発的)”な要素をもたらす天才的な能力を示しました。それは実に見事なものでした。


『マリッジ・ストーリー』(2019) ノア・バームバック監督

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
『マリッジ・ストーリー』予告編 - Netflix
『マリッジ・ストーリー』予告編 - Netflix thumnail
Watch onWatch on YouTube

第76回ヴェネツィア国際映画祭で発表された『マリッジ・ストーリー』は、アダム・ドライバーとノア・バームバックが組んだ一連の作品のうちのひとつで、彼のキャリアの中で最も重要な時期を象徴しています。

この作品で彼は、ニューヨークの舞台演出家として、女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)と結婚しているチャーリーを演じています。ニコールのキャリアがロサンゼルスへ移ると、2人の間には徐々に遠ざかりが生じ、離婚と息子ヘンリーの親権をめぐる激しい争いに発展します。

甘酸っぱいコメディとメロドラマをミックスした『マリッジ・ストーリー』は、ドライバーとヨハンソンによって信じられないほどのケミストリーを起こす作品であり、彼らは痛みを伴う別れに直面する夫婦の深く感動的な姿を描いています。チャーリーは、妻が去ったあとにできた空虚感ゆえに彷徨(さまよ)い、変化を受け入れることができない人物。その美しい演技は、男性の脆弱性を演じる豊かな表現となっており、ドライバーに2度目のアカデミー賞ノミネーションをもたらしました。


『沈黙 -サイレンス-』(2016) マーティン・スコセッシ監督

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

マーティン・スコセッシ監督による『沈黙 -サイレンス-』は17世紀、徳川時代に観客を誘導し、全ての人々を驚かせます。この時期、キリスト教徒は非情に迫害され、イエズス会の信者たちは大胆にも民衆の中で説教した罪で殺されました。

その中でも出色なのが、遠くポルトガルから来たイエズス会士フランシスコ・ガルペ神父を演じるアダム・ドライバーです。彼は同僚のセバスティアン・ロドリゲス神父(演:アンドリュー・ガーフィールド)と共に、信仰を捨てたと伝えられている師クリストヴァン・フェレイラ神父(演:リーアム・ニーソン)を捜索するために旅立ちます。

ドライバーは体重を25キロ減らしただけでなく、当時のイエズス会士たちの生活様式と精神を入念に研究しました。ガルペ神父は明らかにゆるがない信念を貫く宣教師であり、同時に信仰という要塞の中に閉じこもり、最も閉鎖的・保守的な存在です。ドライバーはこの作品の演技により、世界を二分法的に見る人物の曖昧さという矛盾を見事に表現しています。


『最後の決闘裁判』(2021) リドリー・スコット監督

the las duelDisney+で観る
20th Century Studios

リドリー・スコットによる壮大な歴史映画『最後の決闘裁判』は、黒澤 明、セルゲイ・エイゼンシュタイン、イングマール・ベルイマン、そして彼自身のキャリアにも敬意を表しています。

この映画はアダム・ドライバーに、完全なる悪役に扮する機会を与えました。14世紀のフランスで実際に起きた決闘を基に、物語はジャン・ド・カルージュ(演:マット・デイモン)とジャック・ル・グリ(演:アダム・ドライバー)の対立を中心に展開されます。後者は、ジャンの妻マルグリット(演:ジョディ・カマー)を暴行したとして告発されます。カルージュとル・グリの壮絶で劇的な最後の決闘は、双方が政治的圧力と残虐行為で自分たちをじわじわと最悪の姿に変えていく過程のハイライトにすぎません。

見かけは騎士道的で魅力的、エレガントで教養豊かに見えるジャックですが、ドライバーのカリスマ性によって毒々しいナルシシズム、残酷さ、二重性を内包する恐ろしい魅力を光らせます。


『フェラーリ(Ferrari)』 (2023) マイケル・マン監督

preview for Ferrari – official trailer (Sky Studios)

2023年のヴェネツィア映画祭で、マイケル・マンによる大作『フェラーリ(原題:Ferrari)』(2023年12月25日全米公開)は作品としては批評家を納得させることはできなかったかもしれませんが、アダム・ドライバーは皆を納得させました。

この映画はブロック・イェイツの伝記を元にしており、フェラーリの創設者であるエンツォ・フェラーリが最も困難な時期に直面した1957年を描いています。映画はペネロペ・クルス、パトリック・デンプシー、ジャック・オコンネル、サラ・ガドン、シェイリーン・ウッドリーなど豪華なキャストを擁していますが、アダム・ドライバーは始まりから終わりまで、その中心で物語のエンジンとなっています。

彼の高度な演技力によって、フェラーリが持つ神話性からの距離を感じさせることで置、ヒーローにまとう恐怖、罪悪感、痛み、野心、そして完璧主義に囚われた姿を見せつけてくれます。ドライバーと妻ラウラ役のペネロペ・クルスは、終わりの見えない喪失の中で結ばれ、終わりを迎える夫婦の力強いイメージを印象付けました。そして同時に、アダム・ドライバーの冷酷で神経質な演技は、エンツォ・フェラーリが生きた孤独という要塞を説明するのに完璧なものでした。

※この記事は抄訳です

Translation / Wakapedia
Edit / Keiichi Koyama

From: Esquire IT