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アメリカでの人種差別や警察による暴力への抗議行動の歴史、それらを理解するため観るべき映画
これらの歴史を映画から垣間見ることで、今日起きている #BlackLivesMatter を掲げた抗議デモの根本へと少しずつ近づくことができるでしょう。そしてその後、深く共感できる自分になれるはずです。
抗議デモ運動、 #BlackLivesMatter 、暴動…これらはついここ数週間のうちに起きはじめた問題ではありません。ジョージ・フロイド事件をきっかけに、この長い歴史について再びそして深く、さらに早急に考え直すべきだと再確認させてくれたのです。
これまで多くの映画がその歴史を描いてきました。その事実は、われわれは日常の忙しさに流され、いつの間にか視野から外れてしまう…という悲しい事実もあります。ここで改めて数々の映画を見直し、もう一度自分に疑問を投げかけてみてください。
ここでは米国における人種抗争・抗議・警察の不正・略奪・怒り・差別など、数々の歴史を記録した映画をそろえました。これらを今一度目を通すことで、自分の内面にもグレート・リセットをかけてみてはどうでしょうか?
『デトロイト』(2017年)
これまで『ハート・ロー』、『ゼロ・ダーク・サーティ』などを手掛けてきたキャスリン・ビグロー監督による、オスカー受賞作。1967年に、デトロイト暴動の最中に起きた事件を題材にした作品になります。
ベトナム戦争を背景に、アフリカ系アメリカ人公民権運動が盛んになったデトロイトではこの年、継続的な抗争が繰り広げらるようになります。そして警察と軍隊による暴力が、次第に激化していったのでした…。
この映画では、ミシガン州デトロイト市内のホテル、アルジェ・モーテルで起こった事件に焦点を当てています。同事件では3人のアメリカ人が亡くなっており、3人の警察と警備員は起訴されたものの、無罪判決が下されています。
『グローリー/明日への行進』(2014)
アフリカ系アメリカ人公民権運動を、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとマルコム・Xなしで語ることはできません。
この作品は、Netflixオリジナルシリーズ「ボクらを見る目」を手掛けたエイヴァ・デュヴァーネイが監督を務めています。
ジェームズ・ベヴェル、ホージア・ウィリアムズ、南部キリスト教指導者会議のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、そして学生非暴力調整委員会のジョン・ルイスによって先導された、1965年のアラバマ州セルマからモンゴメリーへの行進を題材にしています。
そして、この1965年に投票権法が設立され、アフリカ系アメリカ人も投票権を得ることができるのでした。
『マルコムX』(1992年)
スパイク・リー監督が手掛けた作品の中でも、かなり複雑とも言える野心的な作品です。デンゼル・ワシントンがマルコム・Xを演じた伝記作品で、第65回アカデミー主演男優賞にノミネートされました。
リー監督はキング牧師とは対照的な、より過激で焼夷(しょうい)性の抗議運動を先導したマルコム・Xを複雑ながらも上手く描いています。
「Our objective is complete freedom, justice and equality by any means necessary. (われわれの目的は、いかなる手段をとろうとも、完全な自由・正義・平等を確立することだ)」という
マルコム・Xの名言が印象深く放たれます。
『夜の大捜査線』(1967年)
主演のシドニー・ポワチエは、ハリウッドで初のアフリカ系アメリカ人のスターとなり、映画『野のユリ』(1963年米公開)でアフリカ系アメリカ人俳優として初のオスカー(最優秀主演俳優賞)も獲得しています。
人種差別が根強く残るミシシッピ州の小さな町に配属された刑事ディップス(ポワチエ)は、着任早々に駅の待合室でアフリカ系アメリカ人(黒人)というだけで逮捕され、白人署長(ロッド・スタイガー)の元に突き出されます。
しかし、それが敏腕刑事ディップスであるということがわかると釈放され、街で起こる謎の殺人事件を追っていくうちに署長との関係性にも変化が訪れていくのでした…。
『ビール・ストリートの恋人たち』(2018)
『ムーンライト』でオスカーを獲得した、バリー・ジェンキンス監督による作品であり、アフリカ系アメリカ人の作家として象徴的なジェームズ・ボールドウィンの小説『ビール・ストリートに口あらば』をベースに、警察の人種差別によってラブストーリーに暗い影が落とされています。
若い婚約中のカップルであるティッシュとファニーは、幸せな生活をおくっていました。しかしある日、突然ファニーは白人女性を強姦としたとして無実の罪で投獄されてしまいます。そのタイミングでティッシュのほうは、妊娠していることが発覚。そうして彼の無実をはらすために、抗議に出るのでした…。
LGBTQを題材にした『ムーンライト』からさらに一歩踏み込み、50年もの間変わらない「差別」への怒りを、「暴力ではなく、無償の愛でこそ抵抗の手段だ」と言うかのごとく、普遍的なラブストーリーを描いています。
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『アラバマ物語』(1962年)
名優グレゴリー・ペックが主演を務めるこの映画は、人種差別が根強く残る1930年代のアメリカ南部で、白人女性への性的暴行容疑で逮捕された黒人青年の事件を担当する弁護士アティカス・フィンチの物語になります。事件当時の出来事を、後に成長した娘のスカウトが回想するという形式で見応えのある演出も施されています。
原作はハーパー・リー著書の小説で、彼女の自伝的小説は1961年度のピューリッツァー賞を受賞。翌1962年には、全米で900万部を売り上げるという大ベストセラーを記録しているほど。そんなわけで、この映画も大ヒットを記録しました。
同年度のアカデミー賞では作品賞を含む8部門の候補となり、そのうち主演男優賞、脚色賞、美術賞(白黒部門)の3部門で受賞しています。
國民の創生(1915年)
アメリカ映画初の長編作品であり、人種差別的な描写で批判を受け、上映禁止運動も起きた作品です。米国の人種差別について理解するには、不可欠な存在と言えるでしょう。
物語は南北戦争と、その後の連邦再建の時代の波に翻弄されるアメリカ北部・ペンシルベニア州のストーンマン家とアメリカ南部・サウスカロライナ州のキャメロン家の2つの名家を対比させながら、さまざまな問題を壮大な叙事詩として白人視点から描いています。
これだけは評価できるという面もあります。それは映画の表現法です。クロスカッティングや極端なクローズアップ、フラッシュバックなどなどの効果を駆使するなど、映画技術や編集でも画期的な工夫がみられ、映画表現の教科書的な存在となっています。
ですが内容は白人が英雄的な存在で表現され、黒人を悪役として描れていることは否めません。最も不快を示すべきは、キャメロンが子どもの遊びからKKK団結成のインスピレーションを得て、南部の白人たちとともに「見えざる帝国」すなわちKKK(クー・クラックス・クラン)を結成するところでしょうか。その指導者の一人となり、暴力によって黒人の支配しようとするのでしす…。
そうしてこの映画を真に受けた白人たちが、当時姿を消していたKKKを「復活させなければ」と決意させたとも言われています。そうして劇中に登場する三角頭巾の白いコスチュームをそのまま採り入れ、再結成することになったのです。
つまり、「この映画がなければ、KKKは復活していなかった!」とも言える作品です。そして、この作品をつくったグリフィス監督はその後、この作品をつくったことを後悔し、遺憾の意を表明したと言います…。
『マンダレイ』(2005年)
「純潔の誓い」と呼ばれる「ドグマ95」を提唱するデンマークのラース・フォン・トリアー監督が描いた作品になります。
撮影場所をスタジオ(スタジオではなくただの倉庫の可能性もあるが…)に限り、床に白い枠線と説明の文字を描いて建物の一部をセットに配しただけの舞台で撮影し、ジョン・ハートによるナレーションが登場人物の心理までも事細かに解説するという、非常に実験的な作風で「道徳の無意味さ」を描いた『ドッグヴィル』の続編にあたる作品がこの『マンダレイ』です。
前出の『ドッグウィル』の主演はニコール・キッドマンが演じていましたが、こちらはブライス・ダラス・ハワードが主役グレースを務めています。
南北戦争と奴隷解放宣言からおよそ70年経っても、奴隷制度に近い風習が残る街を訪れたグレース。この衝撃の事実を目の当たりにして、この街をより自由で民主主義にしていこうと改革に乗り出すのですが…。
こちら、『ドッグウィル』の続編だけに、同様の表現方法でつづられています。
『私はあなたのニグロではない』(2016年)
ジェイムズ・ボールドウィンの未完成原稿をもとにした作品であり、ラウル・ペック監督によるドキュメンタリー映画になります。20世紀のアフリカ系アメリカ人の抗議運動の歴史が簡潔にまとめられており、これまでのアメリカの人種主義がどのような道をたどってきたのかが要約されています。
ナレーションをサミュエル・L・ジャクソンが務め、公民権運動家であるジェームズ・ボールドウィンの未完の原稿をもとに、ボールドウィンのテレビでの発言や講義などの映像、そして映画や音楽の記録映像を交えながら公民権を得てもなお、差別の本質が変わっていない現実を浮き彫りにしています。
そしてこの作品は、第89回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされています。