※これはエスクァイアUS版で2023年1月20日に公開された、作家・音楽ジャーナリストのAlan Lightによる記事の転載になります。

「(アメリカで)こんなに反応してもらえるなんて、想像すらしていませんでした」

典型的なロックコンサートでのオーディエンスが最近どうなっていようと、マネスキンのオーディエンスは確実に異なります。マネスキンの会場にいるのは、初めてコンサートに来たプレティーンたち、大音量のギターを求めて来た中年男性たち、煌(きら)びやかなクィアカップル、そしてもちろん多くの...イタリア人(?)です。

2022年12月上旬、マンハッタン・センター内にある3500人規模のハマースタイン・ボールルームを満員御礼とし、2公演ともソールドアウトの中で親密なパフォーマンスを披露したのが「MÅNESKIN(マネスキン)」。イタリア・ローマを拠点に世界的なセンセーションを巻き起こしているバンドで、その名はデンマーク語で「月光」を意味します。

2021年ユーロビジョン・ソング・コンテスト(欧州放送連合加盟放送局によって開催される、毎年恒例の音楽コンテスト)での優勝をきっかけに、思いもよらないルートで世界的な注目を集めるようになったこのバンド。そこで浮上していた彼らの疑念は、そこで汗まみれになりながらジャンプを繰り返し、歌詞の一言一句をともに大合唱する喜びに満ちた観客たちの存在によって打ち砕かれたようです。

「こんなに反応してもらえるなんて、想像すらしていませんでした」「多くの人々が、イタリア語の歌やマイナーな曲も一緒に歌ってくれました」と、公演の数週間後にボーカルのダミアーノ・デイヴィッドが話します。

ベースのヴィクトリア・デ・アンジェリスは、ヨーロッパの音楽フェスティバルで何万もの観客の前で演奏する夏を過ごし、アメリカでより小規模のクラブや会場でツアーをしたことで、バンドの観客を新たな視点で見ることができたそうです。

「私たちの観客がどれだけ多様であるか、実際に見ることで理解できました」「会場には多くの大人と子どもたちも…さまざまな人々がいて、私たちをすごく驚かせてくれました。それって、とてもクールなことですよね」

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フォー・シーズンズの「ベギン」のカバー曲で、アメリカ人気に火をつけたそう。

マネスキンの興味深い躍進に続き、最近ではロックがポップミュージックのリスナーの間でクロスオーバーするという、さらに珍しい現象が起きています。特に、1960年代中期に世界規模で成功したブルー・アイド・ソウル(いわゆる、白人が演奏した60年代の黒人音楽)ロックとポップスを融合させたグループ「The Four Seasons(フォー・シーズンズ)」のヒット曲『Beggin’(ベギン)』を、にぎやかなサウンドで魅力的にカバーしてアメリカでの人気に火をつけました。

Spotifyの2021年7月6日付のグローバルTOP50チャートでは1位を獲得し、全世界でその当時で11億回を超える再生回数を記録(12月13日現在、14億6000万回超)。同2021年には世界で2番目に多く使用されたTikTokソングにもなりました。そして楽曲全体では、全世界でのストリーミング数は65億回を超えています(2023年1月時点)。翌2022年には、MTVビデオ・ミュージック・アワードでは最優秀オルタナティブビデオ賞を獲得。同年のビルボード・ミュージック・アワードでは、この『Beggin'』でトップ・ロック・ソング賞を獲得しています。そして2023年2月6日行われた第65回グラミー賞で彼らは、最優秀新人賞にもノミネートされています(その栄冠は、Samara Joyに奪われましたが…)。

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まさにカッティングエッジな活躍ぶりに、ファッションブランドも黙っていません。同イタリアのブランド「エトロ」は、2ndアルバム「Teatro D'ira: Vol.I」のアートワークに衣装を提供します。また、それだけでなく「サンレモ音楽祭」や「ユーロヴィジョン・ソング・コンテンスト 2021」といった晴れの舞台のために特別に衣装を仕立てるなど、ファッションの側面から彼らをサポートしました。

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また「グッチ」もマネスキンに首ったけのようです。コレクションのフロントローへの招待はもちろん、創業100周年を記念する特別キャンペーンにも起用。「コーチェラ・フェスティバル」やヨーロッパ最大級の音楽授賞式である「2021 MTVヨーロッパ・ミュージック・アワード(2021 MTV Europe Music Awards)」、「第75回カンヌ国際映画祭(75th Cannes Film Festival)」などのために特注衣装も仕立てています。2022年6月に公開された『SUPERMODEL』のMVでは、メンバー全員が「グッチ」の衣装に身を包むなど相思相愛の関係を示していました。

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Måneskin - SUPERMODEL (Official Video)
Måneskin - SUPERMODEL (Official Video) thumnail
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グッチのキャンペーンモデルを務めたと思えば、バズ・ラーマン監督の映画『エルヴィス』のサウンドトラックに楽曲を提供したり、ヒット曲「アイ・ワナ・ビー・ユア・スレイヴ」ではイギー・ポップとのコラボレーションを果たしたりしています。そんなイギー・ポップは『NME』誌でこのように語っています、

「彼らはものすごく強いバンドだ」「ダミアーノ・デイヴィッドは素晴らしいシンガーだよ。彼は本当に理解してやっているね」

これらの経験や功績を携え、マネスキンは2023年1月に『ラッシュ!』をリリースします。彼らにとって3枚目のアルバムですが、ほとんどの楽曲が英語で収録されたのは初めてのこと。制作過程で50曲もの候補から選曲され、スタジアム級のロック&パンク旋風を巻き起こすアルバムとなっています。少し生意気な態度と(テイラー・スウィフトやブリトニー・スピアーズ、ザ・ウィークエンド、イン・シンクへのメガヒットを送り出したことで知られる裏方の魔法使い、マックス・マーティンが制作に参加するなど)ポップミュージックの構造、そしてプロダクションについて高いセンスを持つ作品にファンは心躍らせていることは間違いありません。

ステージ上では、マネスキンのメンバー4人(ダミアーノ・デイヴィッド、ヴィクトリア・デ・アンジェリス、ギタリストのトーマス・ラッジ、そしてドラマーのイーサン・トルキオの4人で全員が20代前半)は観客のもとへジャンプしクラウド・サーフィングを繰り返し、何度も膝や背中を床につけたりしてエネルギッシュなパフォーマーをノンストップで見せつけます。

ですが、LAにある彼らのマネジメントとのZoomミーティングでは、彼らは自身のエネルギーを出しきれないことに悩んでいるようでした。そこではダミアーノ・デイヴィッドが風邪で咳や鼻づまりの症状があったため、ヴィクトリア・デ・アンジェリスがリードすることになりました…。

maneskin
Fabio Germinario
Live, this foursome is non-stop dynamo.

生きろ。この4人は止まらない、疲れ知らずです。

「今回のアルバムでは、さらに実験的で違う方向性にも挑戦したの」と、ヴィクトリア・デ・アンジェリスは話します。「私たちはそれぞれに違った性格で、異なる個人的な好みもあるし…。今回はこの個性を強調しようと試みたの。ひとつのポジションに留まらないで、ある曲では完全にダミアーノが制作監督を担当したり、別の曲では私がディレクションしたり…今回のアルバムは、とっても多様性が出てるって思うわ!」

多様性とポップミュージックへのセンスを保つことで、典型的で重たいロックのプロダクションとマネスキンを区別させることはごく自然にできている…そうダミアーノ・デイヴィッドは話します。

「自慢するわけじゃないけど、僕らにとっては簡単なこと」「僕らは異なる4つの強いバックグラウンドがある。イーサンとトーマスはロックンロール、パンク、クラシックが好きで、そのエネルギーをもたらしてくれるんだ。そして僕はメインストリームの音楽、メインストリームのフック、メインストリームのメロディーが大好きです。だから僕はそういうアイデアを持ってくるし、彼らは僕のやることにステロイドを投与してくれているって感じさ」

彼らには伝統的なロックバンドが長いこと失っていた、威勢の良さとユーモアに満ちています。『KOOL KIDS(クール・キッズ)』で、彼らはこのように歌っています。

クール・キッズ、彼らはロックなんて好きじゃない
トラップとポップスしか聴かない
ロックンロールが終わってることはみんな知ってる
でも俺は クール・キッズでいることなんて 全く気にしない

ではなぜ、よりによってイタリア出身のバンドが全世界に認知されるという夢を抱いたのでしょうか? ストリーミングが利用しやすくなったとは言え、イギリス出身のバンドがアメリカで成功することすら難しい現状です。スカンジナビア出身のバンドは何組か成功していますが、(スコーピオンズやラムシュタインは別として)大陸出身のバンドでアメリカでスターになり、しかも母国語で歌い続けたバンドがいたでしょうか?

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Måneskin, Iggy Pop - I WANNA BE YOUR SLAVE - with Iggy Pop (Audio)
Måneskin, Iggy Pop - I WANNA BE YOUR SLAVE - with Iggy Pop (Audio) thumnail
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「ヨーロッパ人がアメリカに到達できない主な理由は、彼らの多くがそれについて考えもしていないからだと思います」と、ダミアーノ・デイヴィッドは語ります。「それはまるで『試合は終わった』『不可能だ』――って、だから考えようともしないし、そのための戦略も考えない。そう、諦めているかのようさ。僕たちはただただ、努力してきたんだ。 ユーロビジョン・ソング・コンテストに出るチャンスがあったとき、多くのロックバンドは同コンテストは『メインストリームすぎる』『安っぽすぎる』と言い放ち、この機会を否定していたはずさ。でも僕らにとっては、イタリア以外の国でも見てもらえるチャンスだったというわけ。8000万もの人が視聴しているので、『少なくとも誰かは僕たちに魅力を感じてくれるかもしれない』ということかな…。それにソーシャルメディアなんか使えば、クリックひとつで瞬く間に全世界にリーチできるしね」

マネスキン(ヴィクトリア・デ・アンジェリスの母親の母国語であるデンマーク語で「月光」を意味するバンド名)は、ローマの高校生たちで結成されました。地元のバトル・オブ・ザ・バンドで演奏したり、ストリート・パフォーマンスをしたりしました。そのような日々の努力の積み重ねが、現在も維持され続けているステージでの存在感を確立するのにつながったと、彼らは信じているのです。

さらにダミアーノ・デイヴィッドはこのように語ります。

「ストリートでは、『周りで何が起きているのか?』『どうすれば人々の注目を集め続けられるか?』『雰囲気が悪くなっていないか?』ってことを常に察知するような勘を養ってきた感じだね」

「目の前にいる人の数がどんどん増えていくのを目の当たりにして、もし何か失敗したら、半分の人がいなくなって、最初からやり直さなければならなくなる…。だから僕らは今でも、ライブをしている間は常に盛り上げてるんだ。最後の曲まで、ピークの盛り上がりでい続けたいからね。それを見極めながら継続するメンタリティを持つようにしているんだ」

そしてヴィクトリア・デ・アンジェリスはこう補足します。

「これは挑戦でもあるの」「私たちのことを全然気にしていない人たちや、初見で私たちのことを嫌っている人たちを目の当たりにして、そんな彼らを説得しなければ…って思ったの。それはかえって、私たちを燃え上がらせたということね。彼らが間違っていることを証明したい、そして私たちがどれだけ上手いかを見せつけたいと思ったの!」

ダミアーノ・デイヴィッドは、それを聞いて笑います。笑いながらも、「観客を一人残らず味方につける必要性をまだ感じている」と語ります。

「腕を組んで、ガールフレンドと一緒に立っているクソ野郎がいるとします。そいつの心をつかみたいんだ。そいつに付きまとって、じっくり目を見て、『お前がおかしいのさ。周りの奴らを見ろよ』ってね」

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Måneskin - GOSSIP ft. Tom Morello
Måneskin - GOSSIP ft. Tom Morello thumnail
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僕たちの活動、ファンベース、そして文化の中心はまだイタリアにあるから」

かつては「パンクのゴッドファーザー」の異名を取り、そして時にはシャンソンを披露するなど、変幻自在の音楽活動で今もなお人気のイギー・ポップですら、このマネスキンの負けず嫌い精神を認めています。

「彼らがそういうバックグラウンドを持っているって、わかるよ」「貧しさと無名さをバンド全員で味わい、改善するために行動する。それらが、彼らに本当にいい意味での強みを与えたんだと思うね」と、イギー・ポップは語ります。

アルバム「Rush!」では、このグループの成熟と成長が示されています。特に『GASOLINE(ガソリン)』はロシアによるウクライナ侵略にインスパイアを受け、グローバル・シチズン・ファンドの救済活動のためにリリースされました(歌詞には、「奪われた玉座/石ころの心で神を演じる/全世界があなたがいなくなることを待ち望んでいる/ダウン、ダウン、ダウン」とあります)。「僕たちは“支援”と“愛”を表明することこそが大切で、意味のあることだって思ったんだ」とイーサン・トルキオは語り、その楽曲について「そしてダンス的音楽要素は、僕たちが今までに持ったことがない雰囲気をもたらしたんだ」とも説明します。

最新シングル『ゴシップ』では、グループにもう一人のヒーロー、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーントム・モレロを迎え入れます。「僕はロックンロールが大好きだし、イタリア系としてイタリアの伝統にも誇りを持っているんだ」と、彼は(トム・モレロ)は語っています。そしてこう続けます。

「地球上で最もホットな新人ロックバンドがイタリア出身だって知ったとき、『どこで契約すればいいんだ?』ってなってね…。マネスキンは現代音楽に一石を投じる、ラウドでセクシーでロックなバンドさ」

ヴィクトリア・デ・アンジェリスは、トム・モレロが初めてスタジオを訪れたときの興奮を、息も絶え絶え振り返ります。

「私たちはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを聴いて育ったの。この大スターにもう釘づけだったわ」「そしてトム・モレロの謙虚さにも、圧倒されたの。スタジオに着いて、何時間も一緒にセッションしていても、彼は一切のエゴも見せることも、境界線をつくることも、制限を設けることもなかったわ。オープンマインドで純粋に楽しんでいたの…。一緒に演奏して、自然に楽しんで、まるで彼が5人目のメンバーであるかのように感じさせてくれたし、私たちにちょっと欠け始めていた感覚を取り戻させてくれたの」

マネスキンは世界的な有名人になったからといって、彼らのルーツであるイタリアとの絆を断ち切ろうと思ってはいません。アルバム『ラッシュ!』には、彼らの母国語で歌われた楽曲が3曲収録されています。トーマス・ラッジはこう語ります。

「僕らのバンドのこういった一面を見せることは、今でも本当に重要なことなんだ――イタリア国外の人々にとってはきっと(イタリア語は)フレッシュなもので、それは僕らにとって大きな意味を持っていると思うんだ…」

そこにダミアーノ・デイヴィッドもこう付け加えます。

「僕らはこのやり方に誇りを持って、やり続けていこうと思っているよ。なぜって、これは僕らの一部さ。僕たちの活動にせよ、ファンのみんなも、それに僕たちの文化の中心はイタリアにあるのだから…」

懐疑的な人はこのマネスキンを見て、「この手のパフォーマンスは、もう既に昔のアーティストもやっていて見たことあるよ」と言うかもしれません。派手に描いたアイライナーや、ステージでみんなでシャツを脱いだり(そうです、ヴィクトリア・デ・アンジェリスまでも)、バラード曲「ザ・ロンリエスト」の長めのイントロでアンコール・パフォーマンスを始めるトーマス・ラッジのギター・ゴッド的瞬間などなど――これらはロックンロールへのオマージュでもあるかもしれません。ですが、彼らにとってそれは、さらに一歩前進させた要素のようです。

「過去の繰り返しじゃないか!」と言われることについて、マネスキンは異議を唱えています。

「私たちは誰かをコピーしたり、張り合ったりしているわけじゃないわ。ただ純粋に、その瞬間に自然と身体が動く…それを表現しているだけなの」と、ヴィクトリア・デ・アンジェリスは語ります。そしてこう続けるのでした…。

「私たちのファン、特に若いファンはみんな、そんな光景をリアルに見たことがないのよ。だから私たちのような存在は、大人たちにとっては陳腐なことかもしれない…でも、若い世代にとってはとってもフレッシュに感じられることなの新しいことなの。私は、トーマスがギターでイントロを演奏しているときはいつも、ステージから降りて観客席側から見ているのだけれど、そこで多様な人たちのリアクションを間近で見れることがたまらなくうれしいの。最前線にいる女の子たちなんて、いつも『WOW!』って感じになっているもの。なんせ彼女らはこれまで、あんなクールなギター・ソロなんて見たことないでしょうから…」

そして最後に、改めてこう加えます。

「例えそれが、(これまでの歴史の中では)目新しいことではないかもしれない…これまで多くのバンドが同じことをしてきたかもしれない…。でも、今を生きる彼ら(若い世代)の目に映るものは、新しい発見なの――」

そんなマネスキンは、2023年12月に「Rush!WORLD TOUR」の一環で来日。12月2, 3日は東京・有明アリーナ、同月5は東京ガーデンシアターで。さらに同月7日には兵庫・神戸ワールド記念ホールでライブが行われました。もちろん、5公演全てソールドアウト。

ライブの様子は言うまでなくラウドとジャンプ、クラウドサーフィングの連続で、きっと忘れられない夜になったことでしょう…。


最新アルバム「ラッシュ!(アー・ユー・カミング?)」配信中

a group of people jumping in the air

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これはThird partyの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

Translation / Miki Chino
Edit / Minako Shitara
※この翻訳は抄訳です

From: Esquire US