ビッグブラックブック

エスクァイア英国版編集長アレックス・ビルムズは、写真集『GREG WILLIAMS PHOTO BREAKDOWNS: The Stories Behind 100 Portraits』の2023年5月のリリースに合わせて、自ら寄稿しました。ビルムズは、エスクァイア英国版の撮影で度々協力してきた著者グレッグ・ウィリアムズへの敬意を表し、彼の作品の魅力に迫る内容をつづっています。

撮影を行った当の本人、グレッグ・ウィリアムズによる撮影背景の解説もあり、筆者がグレッグに対して抱くリスペクトの数々も…。写真は、上のジェイ・Zとビヨンセが確認できる写真だけではありません、その他数枚…。ぜひ皆さんもご確認ください。


「(上の写真は)ゴールデングローブ授賞式の休憩時間。中央に座るのは、ジェイ・Z。この1年前にあるパーティで彼を撮影したことがあって、顔見知りではあったんだ。だから、レンズを向けると私に気づいてくれた。この写真で気に入っているのは、ジェイ・Zのまわりでもさまざまな物語が展開しているところ。もちろん、隣にはビヨンセがいます。でも、その後ろではジェニファー・ロペスがレネー・ゼルウィガーと話している。アレックス・ロドリゲスとウェズリー・スナイプスもいる…それぞれがその瞬間の関心ごとへの表情を素直に出している…。右奥には、エレン・デジェネレスとアネット・ベニング、ウォレン・ベッティもいるね。これが一点透視図法のいいところさ。この構図からは、被写体を中心にそれぞれのドラマが展開しているところが醍醐味(だいごみ)と言えるね」

a person sitting on a couch
© Greg Williams
2019年のカンヌにて。アダム・ドライバー。

「(上の写真は)アダムが滞在していたホテルのスイートで撮った1枚。彼は(ビル・マーレイと共演した)『デッド・ドント・ダイ』のプレミアのためにカンヌ国際映画祭の会場に向かうところさ。壁にかかっているヒョウの絵画が、いい感じだね。これに関しては、アダムのアイデアだったんだ。彼には足(脚)を上げてリラックスしてもらった。これによって彼からも、野生の動物的な雰囲気が生まれる…ありきたりな構図かもしれないだけれど、アダムもあえてそこにユーモアを感じたのだと思う。靴の裏に見えるシールもポイントさ。リタッチなどしていない、そのままの写真だということがわかるからね」

撮影をするとき、
私は瞬間のエネルギーを捉える
そして私自身もそこに参加する

a couple of men sitting on a bench
© Greg Williams
2019年にロンドンにて、ダニエル・クレイグとレイフ・ファインズ

「(上の写真は)『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のロケ現場でくつろいでいる、ダニエルとレイフさ。場所は…ロンドンのテムズ川近くだね。ふたりのアティチュード(たたずまい)とともに、ダニエルのサングラスがいい感じだよ。なんだか、1960年代のロンドンで撮影したような雰囲気に仕上がった写真さ。背景のドアにも注目してほしいね。45度のバイアスのかかったパターンが、この写真を特別なものにしていると思っいるんだ。ダニエルを頂点に、ピラミッド型を描いているように見えないかい? これがレイフとダニエルの並び、および心のつながりとリンクしているようで、気に入っているんだ」

2005年のある嵐の夜、
ロンドンのオデオン・
レスター・スクエアにて…

世界で最も顔が知れた人々と、そのPR担当者たちがひしめいている――そう、私(UK版編集長 アレックスがいるのは英国アカデミー賞授賞式のバックステージ。ここは、役目を終えた受賞者やプレゼンターが集まる場所。マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオケイト・ブランシェットヘレン・ミレン、アンジェリカ・ヒューストン、ダニエル・クレイグ、アッテンボロー男爵もいる。

私(筆者:UK版編集長アレックス・ビルムズ)がメモ帳にペンを走らせていると、隣でフォトグラファーのグレッグ・ウィリアムズがさかんにシャッターを切っていた。テレビやタブロイド紙では見ることのできない、ハリウッドのリアルな姿を捉えている。

ミレンは、その日欠席していたジェイミー・フォックスに最優秀男優賞を獲得したことを電話で知らせているし、ブランシェットはトロフィーを頭上に掲げている。隣では、イメルダ・スタウントンが積極的にキアヌ・リーヴスを口説いているではないか…。

そして、アレキサンダー・マックイーンによる半透明のドレスを着たシエナ・ミラーの輝きは、この世のものとは思えない…。ここにいるメディア関係者は、私とウィリアムズだけだった。

グレッグ・ウィリアムズは戦争写真家として、そのキャリアをスタートさせている。ビルマやチェチェン、シエラリオネをはじめとする、世界の中でも最も危険と言われている場所を訪れては、現地の様子をカメラに収めてきた男だ。そんな彼が(20世紀を代表する報道写真…中でも紛争写真家として有名な)ドン・マッカランではなく、レンズ越しにハリウッドを見つめ続け、ファッション、スタイル、有名人を記録したことで知られる英国の写真家テリー・オニールと同じ道を歩んでいるのかと考えると、不思議な気持ちになる。

しかし、よく考えてみるとそこに矛盾は何もないと思えるのだ…というのも、彼が成功した理由は数知れないが、そのうちのひとつは彼がエンターテインメント界の最前線にアプローチする手法が優れた報道写真家のそれと変わらないからだ。彼は、常に被写体の生き生きとした様を捉えている。そのときの決定的瞬間を決して逃さず、素早くシャッターを切る…被写体にポーズを取らせるような、“いかにも”な撮影手法など決してとらないのが彼のスタイルなのだ。

a person dancing in a room
© Greg Williams
2018年、ロンドンにてサム・ロックウェル。

「(上の写真を)撮影したのは、サムが英国アカデミー賞授賞式の会場に向かう直前だね。『スリー・ビルボード』で助演男優賞部門にノミネートされたんだ。ホテルのスイートを訪れ、彼と少し話してから撮影を始めた。サムはある大きな出来事があった夜について私に話してくれて、その時ときの様子を再現してくれたんだ、もちろん、このアクション付きでね。そんなところを、撮影したのがこの写真さ。彼が夢中で手足を動かしているところを収めたんだよ。撮影手法について話すとき、『自分も写真に参加する』と私はよく話すのだけれど、この1枚に関してはそれが当てはまらないね。私はただただ観客だったね…。『フォトグラファーは観察者である』ということを再確認できるいい例さ。ジョークを言っていたり、なにかを真剣に話しているときに人は、実に魅力的に見えるからね…」

彼が写すのは、今まさに目の前で起きている光景になる。「マグナム・フォト」のアンリ・カルティエ=ブレッソンが写真集のタイトルにして残した言葉を借りるなら、「The Decisive Moment(決定的瞬間)」だ。撮影のために舞台をセッティングして、演出するなどということはない。

「どのような場所であれ、先入観をもって現場に行くことはないんだ」

と、ウィリアムズは語っていた。 

「スタジオにセットをつくることも、ほとんどしないね。照明の下でポーズをリクエストすることもないな…。ただ、私からお願いするのは、『数秒間でいいから集中してほしい』ということだけ。瞬間のエネルギーを捉えたいからね。そうして私自身も、その写真に参加するんだ。被写体に話しかけ、その彼や彼女に向かって歩いていく。あるいは相手がこちらに歩いてくることもあるだろう。互いに距離を縮めていく中で、シャッターを切っていく。だから私は、すごく、すごく仕事が早いのさ」

持ち前の魅力と大胆さ、それから目を疑うほどの根気強さによって、ウィリアムズはロイヤルファミリーから映画界や音楽界のスターたちに至るまで、あらゆるセレブリティの撮影をこなしている。アカデミー賞授賞式にゴールデングローブ賞授賞式、カンヌ国際映画祭、ベネチア国際映画祭のVIPエリア、それから有名映画の撮影現場を収めた写真をいくつか思い浮かべてほしい。そのうちの大半は、きっとグレッグ・ウィリアムズによるものだろう。

『ヴォーグ』誌や『ヴァニティ・フェア』誌には、ファッションフォトグラファーとしても参加。『エスクァイア』では、ダニエル・クレイグ、トム・ハーディ、イドリス・エルバを撮影し、それらは表紙にもなっている。

a person sitting on a balcony
© Greg Williams
2019年、ニューヨークにてシャーリーズ・セロン。

「マンハッタンのミッドタウン、ペントハウス・スイートで撮影したんだ。シャーリーズの背後には、セントラルパークが見える。この写真は、行儀の悪さと楽しげな様子のバランスがいい感じだ。中指を立てているのも面白い。構図的には彼女と公園、さらに高層ビルがフレーム内に収まっている点が気に入っている。それから、多くの要素が写真からはみ出しているところも…ね。ベランダの手すりと窓枠でトライアングルが描かれていて、自然と視線がシャーリーズへと向くんだ。この写真にはダイナミズムがあるね。撮影中、ずっとふざけあっていて、あるときこの1枚が撮れたんだ。『またとない瞬間を捉えることができた』というわけさ」

❝被写体と互いに距離を
縮めていく…その中で、
シャッターを切るんだ――”

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Austin Butler drives Greg Williams back home.
Austin Butler drives Greg Williams back home. thumnail
Watch onWatch on YouTube

ウィリアムズはまた、たぐいまれなる起業家でもある。ロンドンのメイフェアに構えたスタジオ兼ギャラリーでは、さまざまなメディアのオペレーションを行っている。ハリウッド映画のキャンペーン(最近発表された『007』シリーズのうち4作品でポスターを手がけた)や、写真・カメラ関連のプロダクトデザインもこなす。インスタグラムでは100万人以上のフォロワーを抱え、自身の雑誌『Hollywood Authentic』も発行。さらに、「The Greg Williams’ Candid Photography Skills」という教育プラットホームも運営していて、そこでアマチュアのフォトグラファーをターゲットに、スマートフォンでの写真撮影を成功させるための技術の伝授もしている。

instagramView full post on Instagram

彼を突き動かしているのは「写真撮影を民主化すること」、そこへの衝動だ。これは最近出版された『Greg Williams Photo Breakdowns』にも貫かれている。世界を舞台に活躍する俳優や歌手、アーティストたちの写真を集めた一冊だ(作品の一部を本記事に掲載している)。

本著でウィリアムズは、各写真の構成について解説するとともに私たちも彼のような写真を撮ることができる(かもしれない)秘訣や、その技術を明かしてくれている。

「君も手にしているけれど、スマートフォンには本当にいいカメラが搭載されているんだ」とウィリアムズ。「私も多くの人と同じようなやり方で撮影している。自然光を利用して、シャッターボタンを押す。撮影チームなんて連れずにね。だから自分が学んできたスキルを、みんなに伝えたいと思っているんだ」

a man in a suit and tie holding a tie
© Greg Williams
2016年、ヴェネツィアにて。スタンリー・トゥッチ(左)とマーク・ラファロ(右)。

「スタンリー・トゥッチとマーク・ラファロが写っているけど、表現しているのは2人の友情さ。これはヴェネツィア映画祭のタイミングだね。この少し前、私は船着き場の近くでドリンクを手に歩いていて、スタンリーとラファロがボートに乗り込もうとしているのが見えたんだ。どちらも一緒に仕事をしたことがあったから、とっさに声をかけた、『写真を撮らせてもらってもいいですか?』ってね。ふたりは同意してくれて、この1枚を撮ったというわけさ。結局、一緒にボートに乗せてもらって、プレミアにも同行したんだ。だから、この日はふたりと長い時間を一緒に過ごして、楽しい写真をたくさん撮影させてもらったよ」

もちろん、彼の偉大な才能は、そう簡単に伝えられるようなものではない。逆説的なようだが、被写体の多くは露出を拒むものだ。だからウィリアムズは、被写体の信頼を得るためにあらゆることをしてきた。

そしてその結果、目の前に起こる最高の瞬間を収めることができる…。そんなわけで、グレッグ・ウィリアムズが魅力あふれる写真を撮ることができる理由は、どんな被写体をも惹きつける彼自身の人となりにある…それが一番だ。

「私は、自分の前にあるものを撮っているだけだけどね…」と彼は言う。

私たちとグレッグ・ウィリアムズの違いは、その被写体が、ホテルのスイートにいるマーゴット・ロビーであり、ステージから降りてきたレディ・ガガであるということ。自分の愛犬や子ども、そして休日の夕焼けなどではない。

なぜグレッグは、セレブリティにレンズを向けるのか? その撮影に、自身のキャリア全てをささげることにしたか理由が知りたかった…。

「悪口を言っているように聞こえてしまうかもしれないけれど」と、彼は前置きをしながら続けた。

「別に、セレブリティという存在自体に興味があるわけじゃない。惹(ひ)かれるのは、彼らの才能なんだ。私は、被写体をコラボレーション相手だと思っているんだ。撮影を通して、この時代に生きる最高のアーティストたちと協業させてもらっているのさ。私が撮った写真は、ここに写っている人たちとともにつくり上げたものなんだよ」

日々カメラを構える私たちアマチュアフォトグラファーへ、最後にもうひとつアドバイスをお願いすると、こんなことを教えてくれた。

「撮るべきではない瞬間を知ることも大切、ということを忘れないでほしい…」

Greg Williams Photo Breakdowns: The Stories Behind 100 Portraits (1)

Greg Williams Photo Breakdowns: The Stories Behind 100 Portraits (1)
Now 24% Off
¥8,500
Amazon で見る

GREG WILLIAMS PHOTOGRAPHY

Photographs & Captions / Greg Williams
Translation / Chisato Yamashita
※この翻訳は抄訳です

※この記事は、 『Esquire The Big Black Book』FALL/WINTER 2023(2023年10月14日 発売号 )からの転載になります。