ビッグブラックブック

Focus 1

田園に降り立った宇宙船⁉ 隈研吾が手掛けた日本酒「IWA」の蔵

富山,ボッテガ・ヴェネタ,iwa,隈研吾
Mitsuo Okamoto
ジャケット88万円、 シャツ9万6800円[参考価格]パンツ86万2400円、 タイ2万5300円(すべてボッテガ・ヴェネタ/ボッテガ・ヴェネタ ジャパンTEL0120-60-1966)

直線と金属、ガラスによって構成されたこの極めて洗練された無機質な建造物は、建築家・隈研吾が設計した株式会社白岩の酒蔵。その威容は、長閑(のどか)な田園風景において“異形”のものでありながら、同時に、層をなす金属製の屋根が伝統的な日本家屋の茅葺屋根を思わせ、不思議とこの地に馴染んでいるようにも見えます。

これ対して、モデルが着用するボッテガ・ヴェネタのスレート色のセットアップは、一見するとトラディショナルなファブリック製。しかし実際は、プリント加工を施した上質なレザーを駆使しています。建築とファッションという異なる分野でありながら、ともにモダンなアイデアとテクノロジーにより伝統の様式を見事に革新させている───そんなクリエーションの共鳴が五感で感じることができました。

最高の素材と才能の出逢い──「IWA」というアッサンブラージュ

富山,ボッテガ・ヴェネタ,iwa,隈研吾
Curtesy of IWA

ロケ地となった富山・白岩の酒蔵は、シャンパーニュメゾン「ドン ペリニヨン」の5代目醸造最高責任者として30年近くにわたり辣腕を振るったリシャール・ジョフロワが創立し、 建築家の隈研吾、銘酒「満寿泉」で知られる地元の老舗酒蔵である桝田酒造店の桝田隆一郎といった、強力なコラボレーターたちとの出逢いによって誕生しました。

その日本酒ブランド「IWA」は、「組み合わせ、調合」を意味する「アッサンブラージュ」というシャンパーニュやワインの製造工程を取り入れ、複数の日本酒を掛け合わせることで深い味わいを生み出す画期的なもの。

プレステージと呼ぶにふさわしい日本酒を追い求めて実験的プロセスをたどり、少しずつ、絶妙に進化しながら至高を目指す──複雑さと心地良いバランスが同居する、世界基準かつ “日本酒らしい日本酒”です。

「都市と農村」「革新と伝統」が美しく調和する、唯一無二の土地

富山,ボッテガ・ヴェネタ,iwa,隈研吾
Nao Tsuda

稀代の醸造家であるリシャール・ジョフロワが、自らの理想とする日本酒を生み出すプロジェクトの舞台として選んだ土地、それがこの立山地方でした。飛騨山脈や立山連峰に囲まれ、“土徳”とサステナビリティで起業家からの注目を集める富山市や日本海からもほど近い立山地方は、「都市と自然豊かな農村」「革新と伝統」という相反する要素が美しく調和する、唯一無二の土地である。そんな確信が、ジョフロワにはあったのでしょう。

蔵はその地名から「白岩」と名づけられ、モダンでありながら農村の風景と調和し、その土地と融合する酒蔵が隈研吾の手によって建設されました。「分け隔てなく、全てを包み込むような包容力のあるコミュニティの醸成」という理念を体現するその蔵では、造り手もゲストも家族のように同じ屋根の下で、一つの炉を囲むことができます。アッサンブラージュという「IWA」独自のアプローチは、白岩の蔵の設計にも影響を及ぼしているのです。

リシャール・ジョフロワ氏が造る世界基準の日本酒

富山,ボッテガ・ヴェネタ,iwa,隈研吾
Ohako Studio

1991年に衝撃的なめぐり逢いを得て以来、数え切れないほど頻繁に日本を訪れているという知日派のリシャール・ジョフロワ。とは言え、前例のない革新的な日本酒造りという難題にともに取り組んでくれるパートナーを必要としていました。そこで頼りにしたのが、かねてから親交のあった建築家・隈研吾。

隈は富山を代表する造り酒屋である桝田酒造店の代表・桝田隆一郎を引き合わせ、その狙い通りに二人はすっかり意気投合。まずは富山市内の桝田酒造店の生産背景を駆使し、2019年に最初の日本酒「IWA 5 アッサンブラージュ1」を創り上げたのです。そして2021年には、白岩の地に隈の設計した酒蔵が完成。現在、原酒の醸造からアッサンブラージュ、瓶内熟成を含む全ての工程を白岩の蔵で行っています。

また「IWA」のボトルは、世界的プロダクトデザイナーであるマーク・ニューソンによってデザインされました。彼は伝統的な日本酒のボトルには見られなかった深い色味、ベルベットのような艶のある質感を取り入れました。ラベルのデザインは、書道家の木下真理子、アートディレクターの中島英樹によるコラボレーションの賜物。白い硝子の層からなる書がボトルに躍動感を与え、静と動のコントラストをもたらしています。

このように、「IWA」とは情熱と創造力にあふれる最高峰の才能、そして最高の素材の“アッサンブラージュ”によって命が吹き込まれたもの。日本酒1000年の歴史に新たな物語を書き加えようとする、世界基準の日本酒なのです。

4年目を迎え、更なる進化を遂げた「IWA 5」

富山,ボッテガ・ヴェネタ,iwa,隈研吾
Jonas Marguet

リシャール・ジョフロワによる日本酒ブランド「IWA」は、優れた香りと味わいのバランスによってクラシカルな日本酒をかつてない醸造酒へと昇華。4年目を迎え、さらに進化を遂げた「IWA 5 アッサンブラージュ4」を9月に発売しました。

完璧なバランスと複雑さを追求し続け、醸造からアッサンブラージュ、1年半にわたる瓶熟成を経て完成したこの新作は、驚くほどに卓越した洗練性に支えられ、確かな感情で心を満たします。

「IWA 5 アッサンブラージュ4」
720ml/1万4300円
公式サイト

Focus 2

かのスティーブ・ジョブスも愛用した越中瀬戸焼の魅力

a person looking down
Mitsuo Okamoto

古墳時代に朝鮮半島から伝来した手法による須恵器を端緒(たんしょ=手がかり)とし、400年以上にわたって受け継がれる越中瀬戸焼。その伝統は立山地方で産出される良質な土によって支えられ、黄、青、赤茶、茶褐色などの多彩な陶土のなかでも異彩を放つ白、白土は特に個性的かつ印象的です。

立山連峰の麓、瀬戸村に名窯・庄楽窯を構える釋永由紀夫(しゃくなが ゆきお)さんは、白土をメインに自ら採集した立山産の土を用いた作陶で世界的に知られ、かのスティーブ・ジョブズからも贔屓(ひいき)を受けたという大家。立山固有の自然を見事に表現したその作品は、過去や未来という時の流れを超越する――まさに“タイムレス”な美を具現化しています。

年に2回火が入るという庄楽窯の登り窯はこの日、静かに眠っていました。そしてモデルの首元を飾るのは、長い月日をかけ形づくられる最高級の「ミキモトパール」とK18イエローゴールドチェーンとのコンビネーションが奏でる、優雅でかよわいけれど力強い旋律です。

土、水、火の結晶ともいうべき陶器、豊かな海とアコヤ貝が育む真珠はいずれも、自然とテクノロジーのコラボレーションによるもの。母なる自然の偉大さと人類の叡智の融合をリアルに実感できたのは、“土徳”の地・富山だったからこそなのかもしれません。

釋永由紀夫さんが祖父の代から受け継ぐ名窯・庄楽窯

a room with a brick wall and a brick wall
Esquire
a stone tunnel with a stone staircase
ESQ

富山に根づく伝統工芸、そして職人技術やクラフトの妙を表現できるロケーションを求めてお邪魔したのが、越中瀬戸焼の第一人者として知られる釋永由紀夫さんが祖父・庄次郎さんより受け継いだという「庄楽窯」でした。

釋永さんが特にこだわっているのは、白土と呼ばれる地元・立山で採掘できる石灰のような白い土。粒子が細かく鉄分が少ないので、非常に高い温度での焼成ができるという特質があり、そして温度を調整することによって陶器のようにも、磁器のようにも仕上げることができるのだとか。なによりその上品で垢抜けた“白さ”は、瀬戸焼らしさ、越中人の気質そのものを体現しているかのようです。

現在の登り窯は、釋永さんと同じく作陶家である長男の岳さん、長女の陽さんと3人で「築窯(ちくよう)」したもの。若かりし釋永さんが研鑽を積んだ、韓国の窯で使われているのと同じ形状の土レンガを使用しているとのこと。日本の工芸にも精通していたスティーブ・ジョブスの依頼で制作した作品も、この窯で焼き上げられたのです。

富山・立山の自然のエネルギーが感じられる作品の数々

a model of a boat
Esquire
a cup of coffee
Esquire

立山の土から生まれ、立山の自然の有り様、あるいはそのエネルギーを具象化したかのような、釋永由紀夫さんの作品。富山の“土徳”を感じるものとして、これ以上のものはないでしょう。ちなみに茶碗型の物がスティーブ・ジョブス氏のオーダーしたもの。

400年以上にわたって受け継がれる「越中瀬戸焼」の魅力を世界に発信するキーパーソン

a man and a woman standing in front of a staircase
Esquire

快く撮影協力を買って出てくれた、釋永由紀夫さん(写真右)と、長女の陽さん(同左)。陽さんも自身の工房である「釋永陽陶芸工房」を立山町内に構え、作陶を行っています。また二人は立山の土、富山の風土を知り郷土に根ざした陶芸のあり方を考えようと、地元の作家と連携して2011年に「かなくれ(土地の言葉で「陶片」の意)会」を発足。県内外、国内外で積極的な作品発表を行い、陶芸を通じて富山、立山の魅力を発信し続けています。

a room with a table and chairs
Esquire

庄楽窯の母屋に併設されたギャラリーでは、釋永由紀夫の多彩な作品を展示。購入することも可能です。

【DATA】
庄楽窯
住所/富山県中新川郡立山町上末51
TEL/076-462-2846
公式サイト