[INDEX]
▼ スウェットシャツの歴史
▼ ディテールと名称
▼ ガゼットの種類
▼ スリーブの種類
▼ リバースウィーブと謎の英数字
▼ Esquire注目のスウェットシャツ
着こむほどに独特の味わいが楽しめるスウェットシャツ。ヘルシーかつスポーティーな存在感と、アクティブにも知的にも見せてくれる懐の広さによって、歴史上のさまざまなアイコンたちにも愛されたアイテムです。
冒頭のイラストにあるように、俳優のスティーブ・マックイーンは映画『大脱走』(1963年)で着用し、ロナルド・レーガン元米国大統領は俳優時代に出演した映画『クヌート・ロックニー・オール・アメリカン』(1940年)でたくましいスウェットシャツ姿を披露しています。意外なところでは、物理学者のアルベルト・アインシュタインもスウェットシャツの愛好家だったそうです。
そんなスウェットシャツですが、もとは1920年代にスポーツウェアとして誕生しました。誕生から1世紀もの間、男性達(もちろん女性達も)のライフスタイルに寄り添い続けてきた、厚手のコットンでつくられたプルオーバーシャツの秘密に迫ります。
歴史|誕生のきっかけは不満から
スウェットシャツは、インナーにボタンダウンシャツを合わせて育ちの良さそうなプレッピーぽく着ることもでき、レザージャケットのインナーにして無骨さを演出するのも得意です。そのスポーティーな表情を生かして、カジュアルに過ごす休日のリラックス気分を高めるのもおすすめです。
幅広い用途で私たちのライフスタイルのすぐ近くにあるスウェットシャツですが、その起源は「ラッセル」という、アメリカブランドにあると言われています(起源は諸説あり、コットン製のシャツを運動時に着るようになった大学が自然発生的に生まれていたとする説もあるようです)。
このアイテム誕生までの経緯について、私たちはベンジャミン・ラッセルJr.という、下着メーカーを営む父親を持つアラバマ州の高校生(と言っても、1920年当時のことですが…)に感謝しなければならないでしょう。高校でフットボールに興じていた彼は、フットボールシャツに不満を抱いていました。
当時のシャツは重いウールでつくられて実用的ではなかった上に、直接肌に触れると不快そのものでした。さらには、汗を吸ってさらに重くなったウールで皮膚が擦り剝けてしまうことすらあったと言います。そこでベンジャミン・ラッセルJrは、ユニフォームをウールからコットンに改良することを父親に提案。その父親、ベンジャミン・ラッセルは息子の願いを受け入れ、柔らかい厚手のコットンでゆったりとしたプルオーバーをつくります。
すると、その新商品が学生やスポーツ選手に大ヒット。スウェットシャツを専門に取り扱う「ラッセルアスレティック」ブランドを新設するほどの人気となり、それまでの主力だった下着事業に取って変わることとなりました。さらに映画『大脱走』でスティーブ・マックイーンが着用したことで、クールなファッションアイテムとしても脚光を浴び、純然たるスポーツウェアからカジュアルなデイリーウェアとしての地位も確立していきます。
スウェットシャツにおいて、ラッセルと双璧を成す存在のブランドが、NYで誕生したチャンピオンです。「フロック加工」という文字を生地に美しくプリントする技術の特許を取得した同社は、その加工に最適な生地であるスウェットシャツに注目します。
そして1930年代前半になると、チーム名や大学のロゴ、企業の宣伝用キャッチコピーやスローガンなどがプリントされたスウェットシャツも登場し始めます。ときには団体の団結を示すアイテムとなり、ときには世の中への主張を発信するアイテムにもなります。動きやすさや着心地の良さだけだけでなく、メッセージ性の高いファッションアイテムとしての潜在能力も、これまでスウェットシャツ人気を支えてきた要因の1つでもあると言えるでしょう。
スウェットシャツのディテールと名称
スポーツウェアとして誕生したスウェットシャツ。運動着に由来する正統なデザインを備えたスウェットシャツのディテールと名称を押さえておきましょう。
01:「ガゼット」とは、首元にある逆三角形のリブのパーツのこと。02:「スリーブ」は前身頃と袖の縫製部分を指します。袖や裾にある03:「リブ」は運動時に袖や裾がめくれることを防ぎ、フィット感を高めるために生まれたもの。
「リブ」よは、肋骨(リブ:rib)のような編み目であることが名称の由来となります。特に裾に入る長いリブは、日本では04:「はらまきリブ」と呼ばれることもあります。また、パーツの名称ではないものの、スウェットシャツの表情を左右する要素のひとつが「オンス」です。標準タイプは9~10オンス程度で、12オンス以上のものが「ヘビーウェイト」と呼ばれています。
味のあるガゼットの風合い
01:「ガゼット」にフォーカスしてみましょう。このディテールは襟元の逆三角形のリブのパーツのことで、V字に見えることから「Vガゼット」とも呼ばれます。昔のスウェットシャツは生地の伸びが悪かったので、襟元の伸縮性向上という目的もありました。のちにコスト削減や技術向上などによって、ガゼットその数は減少していきました。また、汗を止める目的でも付けられたため、「汗止め」と呼ばれることもあります(詳細は後述します)。
前身頃と後身頃の両方にあるVガゼットのこと。1930年代〜50年代前半にかけて一般的でした。
前身頃だけにあるVガゼットのこと。1940年代〜60年代までに特に多く見られたディテールとされています。
これはガゼットの縫合方法のお話。首元の生地をV字に切り抜いて、その部分に“リブ編み素材の生地”を三角型にはめ込むのが「はめこみ式ガゼット」です。首元の伸縮性を高める目的がメインとなります。「両V」「前V」共にこのタイプのガゼットは存在しますが、伸縮性を高めるガゼットがふたつある「両V」の方が「前V」よりも伸縮性が向上するため着心地も良くなると考えられています。
こちらもガゼットの縫合方法のお話。はめこみ式ガゼットの他に、貼り付け式ガゼットが存在します。これは、首元に別の三角形の布地を上から縫い合わせるもの。リブ編み素材の三角形の生地とは限定されません。そのため伸縮性を高める目的とは言い難く、チャンピオンのホームページによると、「汗止めの目的」と記されています。あえてリブ編みのように見える素材を使用してファッション性を高めているものも少なくありません。
スリーブの種類によって表情が変化!?
続いて、02:「スリーブ」です。スウェットシャツは運動時の動きやすさを求めて生まれたので、腕も動かしやすいように袖の付け方も工夫されています。ここで紹介するのは「セットインスリーブ」と「ラグランスリーブ」ですが、袖の付け方が違うと着たときの肩の落ち方が変わります。シルエットを左右する要素でもあるので、気に留めておきましょう。
肩に対して、袖がまっすぐ垂直に縫合されているタイプのスリーブのこと。腕部分のシワを軽減させることができます。1940年代以降から現在に至るまで、数多く生産されているスタンダードなタイプのスリーブです。
袖を襟から脇の下にかけて、斜めにつけているタイプのスリーブのこと。肩と袖の部分が同じ1枚の生地からなるため、肩のラインがなく、肩や腕を動かしやすいのが特長とされています。ちなみに「ラグラン」とは、1800年代中期の戦時中に負傷者でも衣服の着脱がしやすい洋服を考案した「ラグラン男爵」に由来します。
リバースウィーブと謎の英数字
スウェットシャツは洗濯・乾燥を繰り返すうちに、縮んでしまうことが悩みの種とされてきました。その対策としてチャンピオンが生み出したのが、リバースウィーブです。一般的に縦方向に向かって織られた生地を使用したスウェットシャツは、「縦に縮みやすい」という性質があります(綿には「伸びようとした方向に逆らうように縮む」という性質があります)。
そこでリバースウィーブは、縦方向に使われていた素材を横向きに使うことで縦縮みを抑えています。さらに、両脇部分に縦方向に向かって織られたリブを採用することで、横への縮みにも対策を講じています。ちなみに「リバースウィーブ(Reverse Weave)」という名前ですが、これまでの編み方から「縦と横を逆にする」という意味から名づけられたものとなります。
スウェットシャツのタグに記された「WPL7232」の文字。これは、スウェットシャツの元祖・ラッセルの製造者ナンバーを表しています(各メーカーで固有の製造者番号が割り振られています)。第二次世界大戦時の軍への支給品を始めとする官給品では、本来タグに記されるメーカーのブランドロゴは外され、製造者ナンバーのみが記されています。その稀少価値から、製造者ナンバーのみがタグに記されている製品は古着屋でも人気を集めているようです。
Esquire注目のスウェットシャツ
厳選した天然素材とメイド・イン・ジャパンにこだわり、最高の着心地をかなえるフィルメランジェ。コチラの「ロルフ」は、表糸には海島綿のオーガニック種を使用し、美しい艶とカシミアのような極上の柔らかさを実現。裏糸にはオーガニックコットンを用いています。吊り編み機を用いてゆっくりと編むことで、最高級素材の特性を存分に最大限に引き出しています。2万8600円(フィルメランジェ/フィルメランジェ TEL 03-3473-8611)
後染めの藍色が絶妙な風合いを醸すチャンピオンのスウェットシャツ。エルボーパッチや首元に入れられた切り替え、ヴィンテージ感のある「はらまきリブ」がアクセントに。素材は綿65%とレーヨン&ポリエステルを使用。粗野でリッジの立った素材感ならではの、タフな表情も魅力で、大人が着ても様になります。1万4300円(チャンピオン/チャンピオン ブランドハウス シブヤ トウキョウ TEL 03-5962-7600)
東東京をベースに、スウェットシャツへのこだわりを凝縮した通好みのブランドとして注目の「イーストファーイースト」。コチラは、袖と裾の長めのリブやリバース使いの身頃、特注のYKKジップのアンティークゴールドモデルを採用するなど、ミニマルなデザインで上品さが漂うクラシックテイストなハーフジップスウェット「MODEL015」。糸から特注したブランドオリジナルの18オンスを使用。こだわり抜いたつくりなので、さり気なく着るだけで本物の良さが引き立ちます。2万4200円(イーストファーイースト/イーストファーイースト info@eastfareast.tokyo)
ヴィンテージスウェットのディテールと型をそのまま受け継いだ裏毛シリーズのフーディー「ジェファーズ」。ムラ感のあるリサイクルコットンを美しい超長綿と合わせ、適度なハリ感と柔らかさ、こなれ感のある表情が特徴です。ふんわりととろけるような質感と、極太2本針ステッチなどの細かなつくりで、雰囲気のある1枚に仕上がっています。2万8600円(フィルメランジェ/フィルメランジェ TEL 03-3473-8611)
Styling / GoRi
Illustration / Qoonana
Edit / Ryutaro Hayashi(Hearst Digital Japan)