ファッションブランドがライブショーからライブストリームへと移行する様子は、実に興味深いものです。新しいパラメーターの中で成功したブランドもあれば、服の説明はできてもライブイベントの代替として上手に表現することができず、苦戦を強いられたブランドもありました。

 2020年6月のロンドン・ファッションウィークにおいて、デザイナーたちが厳しい予算の中で生み出した創意工夫を思い出してみてください。例えば、イギリスの新進デザイナー、プリヤ・アルワリア(Priya Ahluwalia)による「Ahluwalia(アルワリア)」は、オンラインでポップアップ・インタラクティブ・アートギャラリーを開き、ブランドの雰囲気を巧みに表現するためにはランウェイなど必要ないことを証明しました。それどころか、服さえも必要ない…とまで証明したかもしれません。

 「ルイ・ヴィトン」のメンズ アーティスティック・ディレクターであるヴァージル・アブローは、現代の真髄とも言えるクリエイティブな存在です。これまで、ミクストメディア(mixed media=異素材の組み合わせ)、コラボレーション、イコノクラスム(シンボルを破壊する革命的運動)などで、数々の伝統を覆してきました。彼なら、新たなメディアを探求するこの機会を楽しむに違いありません。

 そうして2021年秋冬の“ショー”では、その様子が大いに確認することができました。とは言え、そんな彼がフィルム・ノワール(1940年代から1950年代後半にハリウッドで活発につくられた犯罪映画)に手を出すとは、誰もが予想していなかったでしょう。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Men’s Fall-Winter 2021 Fashion Show | LOUIS VUITTON
Men’s Fall-Winter 2021 Fashion Show | LOUIS VUITTON thumnail
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 『Peculiar Contrast, Perfect Light』と題されたこの作品は、ジェームズ・ボールドウィンの1953年のエッセイ『Stranger in the Village』にインスパイアされたものだとアブローは説明しています。

 ショーが始まると見えてくるのは、雪で覆われた真っ白なアルプスの地の中で、クロムメッキのモノグラムのブリーフケースを持って雪山を移動する1人の男性です。その後、主人公を幻想的な山の頂上から、現実的な室内へと導きます。抽象的な街の中を移動しながら、疑わしい目つきで彼を見ている通勤者やビジネスマン、徘徊者、社会から取り残されたように見える人々の間を慎重に進んできます。「社会の“普通の”人々を表している」とショーノートには書かれ、「ヴァージル・アブローは、文化的背景、ジェンダー、性的指向などによって選択する服装に基づいて、私たちが人々に対して作り上げるイメージをひも解こうとしている」のだそうです。

 素晴らしくスタイリッシュな、レイモンド・チャンドラーの改作を見ているような緊張と不気味さがあります。

ルイ・ヴィトンの作り出したフィルム・ノワール
Courtesy of LOUIS VUITTON

 アブローのスタイルも、かなり象徴的に現れています。アメリカの“ストリートウエア”出身にもかかわらず、彼が担当した過去2回のルイ・ヴィトンのショーはテーラリングを多用したものでした。その点については今回も同様なのですが、登場するスーツは“しっかりと”しているのです。ピンストライプに中折れ帽(またはそのバリエーション)、ブリーフケース、そして黒のオックスフォード…と、すべてがハードボイルドになっていることがその理由かもしれません(2020年秋冬コレクションにも登場した、クラシックでスマートながら退屈させない、同系色のネクタイが残っているのはうれしい限りです)。

 フォーマルな中にも、芸術的なドラマを喚起させます。ですが、2020年8月に見た2021年春夏コレクションのニューウェーブのような蛍光色ほどではありませんが…。

 新しいコレクションでは、エメラルドグリーン、淡いグレー、青みを帯びた白を中心としたカラーパレットで、以前よりも落ち着いた色味になっています。しかし、そこには質感とレイヤーがふんだんに盛り込まれています。レザー、ポプリン、ポリエチレン、ウール、シルクなどの素材を使用し、その多くはマーブルプリントやルイ・ヴィトンのモノグラム、新しいロゴのプリントなどで表現されています。特に新しいロゴには注目です。

ルイ・ヴィトンの作り出したフィルム・ノワール
Courtesy of LOUIS VUITTON

 映画の不気味さや、原作のシリアスさのせいかもしれませんが、過去5シーズンほどの作品と比べると、より大人びたアブロー版ルイ・ヴィトンに仕上がっているように感じます。しかし、よくよく見てみると、彼のボーイッシュな感性はまだまだ健在です。

 コートのボタンやバッグに飛行機があしらわれたり、象徴的な建物の縮尺模型のようにカットされたジャンパー(下のスライドビュアーのLook 21をご覧ください)も見られます。さらには、ノートルダム寺院のような建物の脇にエッフェル塔が添えられたプルオーバー(同、Look 38)もあります。少年から大人の男性への成長は、アブローの作品には共通したテーマとなっていますが、今回はまるで子どもたちの自由な発想のまま服を描いたかのようなルックもありました。

 運が良ければ、次のルイ・ヴィトンのショーはパリのショースペースで見ることができるかもしれません。しかし今のところ、アブロー(そして彼と同世代のデザイナーたち)は、新しいコレクションを直ちにランウェイで発表する必要はないことと考えているはずです。なぜなら、それはじっくりと時間をかけてつくることができることを実感しているからです…。

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公式サイト

Source / ESQUIRE UK
Translation / Yuka Ogasawara
※この翻訳は抄訳です。