現地時間2021年6月25日(金)に、パリで発表された「ディオール サマー 2022 メンズ コレクション」。「Dior(ディオール)」のアーティスティック ディレクターであるキム・ジョーンズは、テキサス生まれのラッパー兼シンガーソングライターで音楽プロデューサーでもあるトラヴィス・スコットと共に、前例のないコラボレーションを果たしました。今回のコレクションはスコットのレコードレーベル「カクタス ジャック」にちなみ、「カクタス ジャック ディオール」と名づけられています。

テキサスを舞台とした
コレクション会場

 パリのメンズコレクション4日目に開催されたフィジカルなショー会場には、砂漠や砂岩の中に、サボテンやバラが点在した空間が広がります。これは、クリスチャン・ディオールの幼少期を想起させるバラ園からスコットが生まれ育ったヒューストンのサボテンの庭園へと、異空間のつながりが表現されています。そして、それらが根を張る地面には、グランドキャニオンと広大な砂漠が広がっています。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior
ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior

 1947年にクリスチャン・ディオールが自身のデビューコレクションを携えてアメリカへとわたり、最初に立ち寄った場所のひとつがテキサスでした。そこでディオールが目にしたグランドキャニオンと広大な砂漠は、強い印象を彼の心に刻みます。同じく忘れられない印象に残ったのはアメリカの気風とスピリットであり、彼はそれについて「人生と自信に対する熱意」と言葉に残しています。

 このディオールとテキサスのつながりにインスピレーションを受け、キム・ジョーンズとトラヴィス・スコットの2人の友人、2つの文化、2つの時代の対話から今回のコラボレーションが誕生したということです。

テーラリング、スニーカー、
そしてジュエリーまで。
コレクションの全容

 かつてクリスチャン・ディオールが感銘を受けたグランドキャニオンと広大な砂漠は、モーブ、カフェ、ピスタチオ、ペールブルーなど、日に焼けたようなカラーパレットに反映されています。ディオールの象徴的なプリント柄「トワル ドゥ ジュイ」はシネ織(「シネ・ア・ラ・ブランシュ」と呼ばれる絹織物で、水彩画のようにぼかした文様。あらかじめ模様を染めた縦糸で模様を織り出す技法)の「トワル ドゥ カクタス」となって、砂漠の風景を描写しています。また、オリジナルのモチーフは、スーツを飾るソウタシエ(へり飾り用の平紐でできた細い組み紐)刺しゅうとして再解釈されています。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior
ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior

 コレクションを支えるテーラリングは、メゾンのサヴォワールフェール(savoir-faire : モノづくりにおける知と技)を反映。ハイウエストで裾にかけてゆるやかなフレアのパンツとアームホールの細いオーバーコートは、ディオールが1956年に発表した「アロー」ラインの進化をなぞっています。身頃の高い位置で留める「テイラー オブリーク」は、フォーマルなタッチを加えることでスポーツウェアの要素とのコントラストを演出。トラックパンツにはクチュールのディテールが添えられ、ツアーグッズを模したウォッシュ加工のTシャツには刺しゅうとハンドペイントが施されています。

 トラヴィス・スコットは、ディオールのロゴを手描きのグラフィックでアレンジし、オリジナルのロゴをプリントや刺しゅうなどでコレクションを飾っています。その他にも、ヒューストンの地形や「カクタス ジャック」のキャラクター、そしてディオールのアーカイブから取り入れたイメージなどのモチーフが架空の旅を連想させるパッチとなって、バッグやレザーのスーベニアジャケットを飾ります。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション

 アクセサリーも特徴的で、「ディオール」の象徴的なモチーフ「ディオール オブリーク」が「JACK」のスペルでアレンジされ、ディオールのモノグラムに大胆な遊び心が取り入れられています。また、1960年代のアーカイブから取り入れた「ダイヤモンド モノグラム」は、新たなグラフィックロゴのキャンバスとして登場しています。

 スケートカルチャーにインスパイアされた新作のスニーカーには、さまざまな要素が取り入れられ、傾斜したプラトーソール(厚底)が1990年代のスタイルを思い起こさせます。旅への欲求を掻き立てるモンクストラップのサンダルには、ラグジュアリーなテクスチャーと素材を組み合わせています。「サドル」バッグは、頑丈なスティラップハンドルが2つをつなぐダブルバージョンで登場。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior
ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior

 また、二元性を反映したもうひとつのアイテムとして、帽子デザイナーのスティーブン・ジョーンズが手掛けた新作の帽子は、フランスの「ボブハット」にアメリカンなビーニーを融合させた、ハイブリッドなにカタチに落とし込まれてます。

 さらに、キム・ジョーンズは今回のコレクションで初めて、ディオール ファイン ジュエリーのアーティスティック ディレクターであるヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌとのコラボレーションによるファイン ジュエリーを発表。ショーのために特別に制作された「カクタス ネックレス」は、プレシャスストーンをまといます。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior

ショーの後には、
アートで支援を行う

 ディオールの視点を通したアメリカの探求は、ファインアートにも及びます。

 今回のショーのためだけの特別な芸術作品として、キム・ジョーンズ、トラヴィス・スコット、そして「ディオール」は、アメリカの著名なコンテンポラリーアーティストであるジョージ・コンドとコラボレーションしています。アメリカンポップの感性とヨーロッパの名画とが対話しているかのような作品は、見事なまでにコレクションのテーマを引き立てています。

 コンドは本コレクションのために、ハンドペイントシャツのコレクションを制作。一つとして同じもののないこの作品はショー後にオークションにかけられ、その収益は次世代のクリエイティブな才能をサポートするための奨学金に充てられるということです。

ディオール サマー 2022 メンズ コレクション
Courtesy of Dior

公式サイト