数年前、「 ANOTHER ASPECT (アナザーアスペクト)*¹」という名前の、新しいデンマークブランドから「撮影をしてほしい」と連絡がありました。私はそのブランドのことを知らなかったのですが、製品のラインナップを見てすぐに惹きつけられました。
極端なところがなく、どれも着やすくて、何よりも値段が手頃でした。創業者たちと連絡を取り合うなかでこのコラムが始まり、ぜひ彼らのことを何らかの形で取り上げたいと思いました。
2、3カ月前にニューヨークシティのロウアー・イースト・サイドにあるColbo*²(ソーシャルスペース & セレクトショップ)で彼らがポップアップをしたときに、共同創業者のひとりであるダニエル・ブロントと会い、「アナザーアスペクトの創設」「ブランドの独自の価値提案」「リリーススケジュール」「なぜColboが彼らのポップアップに最適なスペースだったのか?」、その他にもたくさん話を訊いてきました。
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――アナザーアスペクトについて、もう少し教えてもらいたいです。あなたの仕事内容やその仕事をするようになった経緯をうかがえますか?
ブランドをスタートしたのは4年前です。私とアンダース・ポールセンとニコライ・トムセンの3人が、立ち上げメンバーです。私たちは服づくりに独自のアプローチを取りたいと思っていました。トレンドをベースにおくのではなく、クラシックなメンズウェアの定番アイテムを扱う継続的なコレクションのような感じです。
品質の高いものを目指しています。生地選びにもかなり力を入れていて、全てヨーロッパ製です。ニットと仕立てに関しては、全てイタリアで行っています。立ち上げの頃、ブランドを始めるとしたらサステナブルなアプローチも必須だと考えていました。自分たちにとってサステナビリティとは、人が繰り返し着たいと思える服をつくることであり、時という試練に耐えられる服をつくることでした。
その過程の中で私は、ブランドのディレクションを担当するようになったというわけです。まだ小さなチームなので、ひとりがいろいろな役をこなしています。ブランドディレクションに関しては、私がメインで担っている役割です。
――このブランドにかかわる前はどのようなキャリアパスを歩んできましたか。また、それはアナザーアスペクトへのアプローチの仕方に影響を与えていますか。
コペンハーゲンにある、「Goods」という名前のメンズウェアの専門店で働いていました。アートディレクションとeコマースの仕事もしていました。そこで私は、アナザーアスペクトを始めるための基礎となるものを身につけました。ここで多くを学んで、それをブランド構築に活かしています。ですから、そういう意味では、「とても良い学校だった」と言えますね。
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――あなたたちはとても上質な服を、比較的手に入れやすい値段で提供していますが、シルエットはどれも馴染みのあるものです。何が、アナザーアスペクトを特別なものにしていると思われますか。そして、このようなやり方で服をリリースする理由は何でしょうか。
私たちは定番アイテムをつくりますが、それらに現代的なひねりを加えています。それに私たちがブランドをスタートした当時には、「環境に関してのグリーンアジェンダ」をもったブランドはそれほど多くなかったと思います。ですから、それが私たちのセールスポイントになりました。つまり、「時間経過の試練に耐えうる服をつくる」という点です。
コレクションの大部分について私たちは、毎回「車輪を再発明する」ような無駄な労力を払う必要もありません。私たちにはこれまでに蓄積されてきたシルエットとライブラリ(※両方とも服の歴史のなかにあるコモンズ)があります。なので、そこからセンスに合わせて組み合わせを考えていくといった感じです。そこに、皆さんがお金を払いたいと思っているのだと思います。もちろん、ブランドの世界観もですね…。
私たちは製品だけでなく――もちろん、製品に関しては本当に良いものをつくらなければなりませんが――私たちはコミュニティに対しても注力しています。関わりのあるコミュニティに対して、大きな役割を果たしたいと考えているのです。
――どのように製品をリリースしているのでしょうか。
シーズンごとの製品もつくりますが、なるべくコアコレクションに注力するようにしています。ですから私たちのコレクションは、60パーセントが同じものを何度も出していることになります。その際、その定番品にちょっとしたアレンジを加えることもあります。そうやって、ときどきアップデートするわけです。
もちろん40パーセントはシーズンごとのアイテムなので、毎年2回コレクションを発表しています。リテーラー(小売)とも仕事をしているので、そうする必要があるというわけです。私たちはそれを、「コレクション」と呼んでいます。いまは「コレクション8.0」です。冬は厚手のニット、夏はショートパンツと薄手のシャツを出す予定です。
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――ヴィジュアル面、あるいはプロダクト面における、あなたのインスピレーションの源は何でしょうか。
ナイキやアップルのような、成長を続けながら持続可能性も高めていっているビッグブランドです。アナザーアスペクトでやりたいのも、それです。他には、建築にも注目しています。イタリア人、彼らのやり方にも注目しています。彼らは何をするにしてもハードルを高く設定するので、そこからたくさんインスピレーションをもらっています。
――服に関してでしょうか。
食べ物、料理のこともありますし、自動車産業、建築のこともありますが、もちろん服に関してもあります。私たちは、機能的なプロダクトをつくるというデンマークらしいアプローチを取っていると思います。デンマークは優れたデザインで有名ですが、機能性でもよく知られています。私たちもそれを実現しようとしているのです。
――洋服やスタイルに初めて夢中になったときのことを覚えていますか。
私にはアメリカに住んでいる叔母がいて、帰国するときにいつも古いJ.クルーやブルックスブラザーズを私に持ってきてくれたのです。ウェルメイドな服、クラシックな定番品に対する私の感覚の出発点はアメリカのヘリテージブランドでした。
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――ここニューヨークのcolboで、ポップアップを開催されましたね。この展示のアイデアはどうやって出てきたのでしょうか。また、ポップアップのための場所としてcolboを選んだのはなぜでしょう。
複数の友人を通じてcolboのオーナーであるタル・シルバシュタインと連絡が取れ、打ち合わせをしました。私たちはある意味、ただコペンハーゲンをニューヨークに持って来たかったのです。ニューヨークにはとても大きなコミュニティがあるので、それを活性化したいと思いました。デンマークのコーヒーブランドでラ・カブラ(La Cabra)というところがあって、ここニューヨークでも展開していますが、私たちはとても良いパートナーシップを組んでいます。それも合わせて、全てを融合させた楽しいポップアップをやりたかったのです。
以前、コロナ禍にもポップアップを開催したのですが、私たちは渡航できませんでした。ですから今回ニューヨークに来ることができて、とてもうれしいです。colboはコミュニティの活性化のやり方や物事に自分たちらしさを加えるやり方など、すごく私たちと合っていると思っています。
――いま探しているものは何かありますか。
イギリスのあるヘリテージブランドから出ているローファーで、程度の良いものを見つけたいと思っています。実際、ここニューヨークでぴったりのものが見つけられないかと思って、探しているところです。
――ご自分のところ以外で好きなブランドはどこでしょうか。
アワーレガシーをはじめとした多くのスカンジナビアのブランドは、とてもうまくいっています。最近10年間、業績も好調です。これはスカンジナビア諸国全体にとって本当に良いことで、スウェーデンとデンマークのことも有名にしてくれました。
アナザーアスペクトを着ないときには、なるべくヴィンテージ服を買うようにしています。それはヴィンテージにはいい服がたくさんあって、まだ高い価値を維持していると思うからです。本当に良いヴィンテージ品を見つけるのは、そう難しくないと思っています。
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――それはアナザーアスペクトが従っているという例のグリーンアジェンダと結びついているものですか。
大きな理由として、私があまり服を必要としていないし、新しいものをたくさん買いたくないということもあります。すでにあるものを買いたいという感じです。アナザーアスペクトでは、そういうことにも取り組んでいます。すでにある服に力を入れていて、私たちのコレクションの25パーセントを占めています。
そうやって、既存のものを活用しています。こういったことを念頭に置いておくのは良いことだと私は思っています。もちろん、新しい服も売っているので、私たちのところの製品を買ってくれる人たちは必要ですが…。
――もし残りの一生をひとつの服装で過ごせるとしたら、どんなアイテムの組み合わせになると思いますか。
ジーンズとブルーのオックスフォードシャツ、ローファー。
*1:ANOTHER ASPECT デザインプロセスの全工程において、環境および人権、サステナビリティの観点からものづくりをするコペンハーゲン発のブランド。 公式サイトを参照
*2:colbo NYC マンハッタンのロウアー・イースト・サイド、地域活性化の開発が進むOrchard Streetにある複合型セレクトショップ。オリジナルファッションブランドを含むアパレルやヴィンテージウェア、ホームグッズ、レコードなどさまざまなアイテムがそろう。 公式サイトを参照
Translation: Miyuki Hosoya
Edit: Keiichi Koyama