2020年8月、NYの調査会社「スマーテックアナリシス(SmarTech Analysis)」は、3Dプリントとフットウェアの市場に関する調査結果を発表しました。それによると、「この分野は2030年までに80億ドル以上(約1兆700億円)を生み出す」と予想されています。この数字を見て、過大評価されたマーケットのように思いますか? でも、昨今のトレンドを見ればこの数字は驚くには値しないかもしれません。

フットウェア業界に足を踏み入れた「3Dプリント技術」

数年前、革新的なぜいたく品として始まったこの3Dプリントでつくられるフットウェアですが、ゆっくりと、そして確実にトレンドになりつつあります。そう遠くない未来に、靴の世界における稼ぎ頭の一つとなる可能性を秘めています。その証拠に、最新のパリ・ファッションウィークでも数多くのショーに登場しています。

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3Dプリンターは、実に多くの分野で活用することができます。そしてファッションも、その例外ではありません。特にフットウェアの世界は、このテクノロジーと相性が良いようです。しかし、一歩引いて考えてみましょう。ご存知のように、「スニーカー」はファッション界で最も注目され、コレクターの数も無限にいるジャンルの一つ。リセールにおいても、毎年10億円とも100億円とものお金が動く巨大マーケットです。

ですが最近では市場は後退し、ビジネスや消費者の関心が鈍化している傾向も見受けられます。そういった点においても、3Dスニーカー(3Dプリンターでつくられたスニーカー)の存在感がより際立つのです。そう、これまで類似デザインが多く登場しているスニーカーに3Dスニーカーが風穴を開け、スニーカーブームの炎を再び燃え上がらせるかもしれません。デジタル化とテクノロジーがますます重要な役割を果たすようになった今、3Dプリントという新たなテクノロジーによってこの業界はおそらく、「永遠に続く革命的な変化を遂げた」とも言いたくなります。

第一走者はスポーツブランドの巨人たち。ファッションブランドが追走

3Dプリントの技術を使ったフットウェアを開発した先駆者は、アディダス、ナイキ、ニューバランス、アンダーアーマーといったスポーツウェアの巨人たちであることはよく知られています。ですが、高級ファッションメーカーもこの新しいチャンスに誘惑されています。

これはyouTubeの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。
Reebok and Botter create vibrant collection of 3D-printed trainers with ridged soles
Reebok and Botter create vibrant collection of 3D-printed trainers with ridged soles thumnail
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パリ・ファッションウィークでは、ディオールとボッターは革新的な3Dスニーカーを発表しています。ルシェミー・ボッターとリジー・ヘレブラーによってベルギー・アントワープで設立されたボッターですが、リーボックの協力と、カリフォルニアのHP(ヒューレット・パッカード)のマルチ・ジェット・フュージョン・テクノロジーの力を借りて作成した「ザ ヴィーナス コーム ミューレックス シェル」という3Dスニーカーを発表。大胆かつユニークなデザインで、モノトーンから極彩色まで造形美を際立てるカラーリングも魅力です。

キム・ジョーンズとディオールは、2023年秋冬のプレゼンテーションの一環として、オール3Dプリントのアバンギャルドなダービーシューズ(主に革靴に用いられる言葉で、外羽根式の短靴を指す)を発表しました。 ディオールはこれまでにも靴のディテールの作成など、この技術を使った実験を行ってきました。しかし、3Dプリントを使用したワンピースからなるシューズは、ディオールにとって初の本格的な試みとなりました。

またここで、バレンシアガの存在も忘れてはなりません。デムナ・ヴァザリア率いるこのメゾンはおなじみのサンダル「ハードクロックス(HARDCROCK)」だけでなく、超スリムな「スペースシュー(SPACE SHOE)」や「レースアップHDトレーナー」でも3Dプリントを選択しています。

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courtesy of Balenciaga

3Dスニーカーはぶっちぎりでゴールテープを切るのでしょうか?

とは言え、3Dプリントシューズが本当にフットウェアの未来となるかについては、現状では疑問を抱かざるを得ません。

確かに3Dプリンターの柔軟性や精密性、商品展開までのスピードは、有望なツールであることは間違いありません。ですが、現在このようなプリンターの多くは、ラピッドプロトタイピング(※編集注:製品の開発サイクル短縮のために効果的な試作品製作手法)の一つの手段としても使われているのです。通常の研究開発プロセスよりも10倍速く、5倍安くプロトタイプをつくることも可能とされ、世界中の企業が研究開発に数カ月と数百万ユーロを費やす代わりに、数時間でプロトタイプを作成するために使用されている側面も見過ごしてはなりません。

それでもなお、3Dスニーカーには持続可能性やカスタマイズの自由度の高さ、そして高性能という、今までになく重要なポジティブな特徴もあります。3Dプリントによるフットウェアの製作があらゆるデザイナーにとって身近なものになれば、将来、文字どおりコンピュータでモデリングされたフットウェアが増える未来は容易に想像がつきます。

From: Esquire IT