「子どもの頃から将来は公認会計士になろうと決めて、大学への進学を目指してました。ですが高校のとき、古着に魅せられて『若いうちにしかできないことを』とファッションの世界に進むことにしました」

と語るのは、2015年に25歳の若さでブランドを立ち上げ、日本最高峰の機屋、工場と手を組んでレベルの高いスタンダードな服を追求する「カンタータ」デザイナーの松島 紳さんだ。

この連載を通じて、若い世代のデザイナーに共通していえることは、おしゃれに目覚めるキッカケが古着であるということ。松島さんにとって、それまでの夢や目標を大きく変えた古着の魅力とは何なのだろうか。

「例えばボクの好きなリーバイスの501XXなど、古着屋に行くと数千円のものもあればヴィンテージの数十万円のモノもある。その価値の差って何だろうと。単に年代が古いからだけじゃないですよね。生地の風合いや色落ち、丁寧なつくり込みがヴィンテージの魅力でもあるワケで。だったらそれに近いモノを現代でも作れないだろうか、そう考えたんです」

綿谷寛
Hiroshi Watatani
一見して、つくりの良さがうかがえるトートバッグは、L.L.ビーンの名作「ボート・アンド・トート・バッグ」のXLサイズをモチーフにつくられたもの。倉敷のキャンバス地をベースに底とハンドルには、ラグジュアリーブランドでも使われている「ヴォー・バレニア」と呼ばれる子牛のスムースレザーを採用。使い込むことで革の油分が浮かび上がり、深みのあるツヤが生まれます。19万8000円(カンタータ/クリシェ TEL 03-6407-0300)

シーズンコレクションは糸からつくり始め、革は世界最高峰のモノだけを仕入れて、自分の理想とするモノづくりを目指すという松島さん。

「そうは言っても、思い描くこだわりの服をカタチにできる職人さんや工場を見つけるのは大変じゃないですか?」と水を向けると、「そんなことないですよ。協力いただいてる工場は全部自分の足で見つけたのですが、1回のサンプルで自分が納得できるモノをつくってくれます。1回でつくれないようでは何回やってもダメですよ。あと、大事なのは職人さんと同じ釜のめしが食えるかかな」。

最高の素材と、松島さんの理想をカタチにする工場との絶対の信頼関係があってのカンタータの服。英国最高級靴が扱うイタリア製のスエードでつくった、なんともぜいたくなサードタイプジャケットを試着させてもらった。

「うぁっ、革がきれいすぎて気を使っちゃいそう」と悲鳴を上げると、「汚れを気にせずそのまま着るから味が出ます。雨の日でも構わず着てほしいですね」。


綿谷画伯がたどり着いた、
進化した今の
トラッドスタイルがこちら
綿谷寛
Hiroshi Watatani
キメが非常に細かく質感の美しさに思わず綿谷画伯も驚いた、カシミヤスエードを使ったサードタイプのトラッカージャケット。発色も鮮やかで、本来タフなアイテムでありながらそのたたずまいはとても上品。ヴィンテージのような風格を残しつつも、着丈やアームホールは現代に即した形に調整されており、さらっと気兼ねなく羽織れます。55万円(カンタータ/クリシェ TEL 03-6407-0300)

●問い合わせ先/
カンタータ
TEL 03-6407-0300

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※メンズクラブ2023年5月号掲載記事の転載です。
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