今年、2023年1月末には入国後の隔離などが廃止され、香港好きやアート好きが待っていましたと一気に押し寄せた3月のアートマンス。渡航制限がないアートフェア開催は実に3年ぶり。アジア最大のアートフェアを維持しているアート・バーゼル香港は32カ国・地域から177のギャラリーが参加し、わずか5日間で8万6000人を超える来場者数に。過去最高だった2019年(8万8000人)に届く勢いとなり、ようやくコロナ前の賑わいが戻ってきました。

アートバーゼル香港
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村上 隆氏自身も香港入りして設営したというカイカイキキのブースは、初日から大盛況。
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タカイシイギャラリーのブースには彫刻家の掛井五郎さんの子ども心あふれる彫刻作品が。
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Mella Jaarsma, The Constructor, 2008-2023 Courtesy Art Basel
エンカウンターズ部門で、メラ・ヤースマはパフォーマンス作品「The Constructor」(2008/23)をサイトスペシフィックに再現。

3月末のアートフェアが集中するアートウィーク中は、世界中からアート好きやアートコレクターが押し寄せ、各参加ギャラリーの売り上げも好調だったといいます。「香港はアジアのアートマーケットの中心、アートのホームと言えるのではないでしょうか」と、初日のオープニングでキュレターのアレクシー・グラス=カントール(Alexie Glass-Kantor)さんもその勢いと吸引力を語ります。

アート、クリエイティブな産業は
香港経済の新たな柱

注目したいのは、香港島の西側のウォーターフロント、西九龍文化地区(West Kowloon Cultural District:以降WKCD)です。香港政府の肝いりのプロジェクトとして、香港最後の未開発エリアといわれる40ヘクタールの土地を買い取り、埋め立てを進め、文化とクリエイティブな産業の発信地として開発を進めているプロジェクトです。

WKCDには文化・芸術、教育、公園などのオープンスペース、ホテル・オフィス・住宅、小売・飲食・娯楽施設などが融合され、建設予定。香港政府が216億香港ドル(開発が決まった2008年当時の為替レートで約2867億円)という金額を投資していることから、その本気度がうかがえます。

東洋と西洋、過去と未来の文化を繋ぐ
アジアで唯一無二の文化施設群

すでに2019年にオープンした広東オペラ用の施設「戯曲中心(Xiqu Centre)」、2021年11月開館のアジア最大級のヴィジュアル・カルチャー博物館「M+」、2022年7月に5年の歳月を経てオープンした「香港故宮文化博物館」など話題の文化施設のオープンが相次ぎ、今後はミュージカルなどの舞台芸術が楽しめる劇場の建設も複数予定されています。

アートウィーク中の記者会見で、WKCDA最高経営責任者であるベティ・ファン・チン・スクイー(Betty Fung Ching Suk-yeeは、「かつての香港は金融貿易やショッピングのみで『文化の砂漠』と呼ばれていましたが、現在の香港は活気があり、文化の中心地という新たなレベルに到達しているといえるでしょう」と発言しています。

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Screening of Hand Me Your Trust on M+ Facade, 2023. Photo: Moving Image Studio, M+, Hong Kong
アートバーゼルの期間中、ビクトリア・ハーバー沿いのM+のファサードに映し出されたピピロッティ・リストの作品《Hand Me Your Trust》2023。アートウィーク以外もこのファサードはアーティストが発表する場となっている。
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Photo : Virgile Simon Bertrand © Virgile Simon Bertrand Courtesy of Herzog & de Meuron
世界的にも有名な香港の夜景が、M+のファサードでさらに華やかに。

なかでもM+は、スイスの建築事務所ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計を担当。計画開始から10年以上の歳月を経て、展示空間は1万7000平米、33ギャラリーにも及ぶという大規模な美術館としてオープンし、今世界中のアート好きやデザイン、建築好きが注目するスポットとなっています。

アートウィークの期間中は、ウォーターフロントに面したLEDのファサードにスイスのアーティスト、ピピロッティ・リストの作品が映し出され、施設内で展示された草間彌生の大規模個展「Yayoi Kusama: 1945 to Now」(〜5月14日)も大盛況でした。

ピピロッティリスト《Hand Me Your Trust》2023

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M+の空間に映える草間彌生の作品。

M+ではさまざまな展示が行われていますが、香港らしい展示としては、アート、グラフィックデザイン、ビデオゲーム、広告グラフィック 、映画など香港の視覚芸術を通して新たな香港を発見する「Hong Kong: Here and Beyond」(〜6月11日)。元駐中国スイス大使のウリ・シグ氏が集めた中国現代美術のコレクション約1500作品が展示されている「M+ Sigg Collection: From Revolution to Globalisation」(〜7月23日)などが開催中です。

そろそろ香港に美味しいものを食べに行きたい…という香港旅を計画している人は、ぜひ香港の西九龍文化地区にできたアートスポットを訪れてみてください。最先端のテクノロジーと考え抜かれた見せ方に驚かされ、新たな香港を楽しめることでしょう。

※後編へつづく

M+(エムプラス)
Address/ M+, West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon

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