記事のポイント

  • 地球の磁場が持つ高エネルギー電子が太陽風のプロトンのように働き、月面の水の生成を助けているという研究結果が発表されました。
  • 月と地球の磁場に働く相互作用は、月で水がつくられる仕組みを理解するうえで重要な要素となっています。
  • 地球が月面の水の生成を助けるというこの新たな発見について学ぶことは、「将来の惑星探査に役立つ」と考えられています。

地球の磁気圏と月の関係

地球は太陽系の片隅で大きな影響力を持っており、「月面の水の生成は、地球の磁場と密接な関係がある」と考えられてきました。そして遂に科学者たちは、地球と月に働く相互作用についてさらに詳しく知り得たことで、地球が月における水の生成を助けるという全く新しい発見にたどり着いたのです。

査読付き科学ジャーナル「Nature Astronomy」に掲載されたハワイ大学マノア校の新しい研究では、「地球の磁気圏が、月表面の風化プロセスをどのように助けているのか」「水が生成されるプロセスにおいて、高エネルギー電子がどれほど重要であるか」が示されています(※「査読」とは、学術誌に投稿された学術論文を第三者の専門家が読み、その内容を査定すること)。

これはxの内容です。詳細はそちらでご確認いただけます。

しかしながら水を生成する元素を理解するためには、研究者たちはまず「太陽風」に関するデータを理解する必要がありました。

(約6000度の太陽表面から2000kmほど上空で、100万℃を超える高温のプラズマとされる)コロナが膨張するにつれて、励起(れいき=量子力学で原子や分子が外からエネルギーを与えられ、もとのエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ること)されたプロトン*プラズマ*からなる電子があらゆる方向へと放出されます。それは約200万℃で、毎秒559マイルで移動するとされています。これを「太陽風」と呼んでいますが、この「太陽風」は地球の大気だけでなく、太陽系内の他の全ての惑星の雰囲気にも到達します。

また、電子やイオンなどの電気を帯びた粒子(荷電粒子・プラズマ)は磁場によって曲げられる性質があります。 そのため(太陽系外から飛来する荷電粒子で超新星爆発等をその起源とし、銀河系内磁場により加速される)銀河宇宙線や、(太陽における爆発現象「太陽フレア」に伴って発生した太陽高エネルギー粒子<SEP=Solar Energetic Particles>が地球に近いところの空間で観測される)プロトン現象等で示されるSEPは、 地球の中低緯度まで入り込みにくくなっていることが研究でわかっています。

つまり地球磁場は 、宇宙空間からの高エネルギー粒子に対するバリアの役割も果たしているということになります。

そして「太陽風」によって地球の磁気圏は形を変え、太陽から離れた方向に伸びるようにして“マグネトテール(磁気圏の尾)”をつくっていることがわかっています。そうして地球の近くを公転している月は、太陽風の約99%を遮るこの尾部の中で、約27%の時間を過ごしているということが研究によって算出されています。

プロトン(Proton):一般的には、水素原子の陽イオンのこと。つまり、Hydron(ヒドロン)の通称。正式には、そのうち質量数1の水素原子の陽イオン(つまり陽子)だけを指す。天然の水素を考えている場合、その99.9%以上が質量数1なので、どちらの定義でもほぼ同じ意味になる。原子番号1番で、陽子(H+)と電子(e-)が対になってできた宇宙で最初にできた物質としている。プロトンとはギリシャ語で「最初のもの」「根源」という意味で、あらゆる物質の生みの親であり、あらゆる生命の源である「水」の素とされている。
※プラズマ(Plasma):物質の第4状態と呼ばれるもので、気体を構成する原子・分子が供給された熱や電力を吸収することで生成した、イオンやラジカル(不対電子を持つ原子や分子)を含む状態のこと。
磁気圏尾部
MARK GARLICK/SCIENCE PHOTO LIBRARY//Getty Images

以前は、「月の水分子の生成は、ほぼ太陽風によるもの」と考えられていました。その論理は、水素イオンを含んだ高エネルギーの太陽風が、月の鉱物に含まれる酸素イオンと化学反応を起こすことによって水が生成されるというものでした。

ですが、ハワイ大学地球物理惑星学研究所の研究補佐でこの研究の筆頭筆者であるシュアイ・リ氏によれば、「太陽風はもはや、水の生成の全てを担っているわけではない」としています。つまりこの研究によって、「太陽風が存在しないときでも、水は盛んにつくられている」という回答が導き出されたのです。 リ氏はニュースリリースで、次のようにつづっています。

「月が磁気圏の外側にあるときには、月の表面は太陽風にさらされます。ですが、Magnetotail(マグネトテール=前出の太陽風によって引き伸ばされた磁気圏尾部)の内側には太陽風によるプロトンはほとんど存在しないため、『水の生成は、ほぼゼロになる』と予想されていました。ですが、驚いたことにリモートセンシングによる観測によると、『月が地球の磁気圏尾部にあるときにつくられる月面の水の量は、月が地球のマグネトテール外にあるときとほぼ同じである』ということがわかったのです」とのこと。

これは重要かつ予想外の発見でした。リ氏は、次のようにもつづっています。

「これはマグネトテールにおいて、太陽風のプロトンの注入とは直接関係のない、新たな水の生成プロセスや新たな供給源が存在する可能性を示しています。特に高エネルギー電子の放射は、太陽風のプロトンと同様の効果を示していることになります」

リ氏は、「この新しい発見は、地球と月がこれまで信じられていた以上に本質的に結びついている可能性を示すものであり、しかもそれは、“これまで認識されていない多くの側面において”である」と考えています。

今回のデータは2008年から2009年にかけて、インドの無人月面探査機「チャンドラヤーン1号」に搭載された月鉱物マッピング装置から得られたものになります。将来的には、NASAのアルテミス計画(有人の月面探査を目指す国際的な計画)と協力して、月面の極域におけるプラズマ環境と水の含有量をモニターしたいと考えているそうです。

最後にリ氏は、次のように述べています。

「これは、月面における水の生成プロセスを研究するための、まさに自然の実験室となるでしょう」

source / POPULAR MECHANICS
Translation & Edit / Satomi Tanioka
※この翻訳は抄訳です