• 肉食恐竜の代表格として知られる「アロサウルス・ジムマドセニ(Allosaurus jimmadseni )」に関する新たな論文が、オープンアクセスの国際的な科学雑誌『PeerJ』にて発表されました。
  • アロサウルス族の中でも、最も著名な種である「アロサウルス・フラギリス」よりも、実に500万年も前に「A・ジムマドセニ」が存在していたという内容です。そこで「A・フラギリス」は、「A・ジムマドセニ」から進化した可能性が高いと指摘されています。
  • 「A・ジムマドセニ」の化石が初めて発掘されたのは、1990年代のことでした。が、その後の発掘調査には長い年月を要すこととなり、「A・ジムマドセニ」の正式な分類は、今日に至るまで見送られ続けてきたのです。

 およそ1億5700万年前から1億5200万年前のジュラ紀後期、極めて残虐な肉食恐竜が、現在の米国・ユタ州近辺に生息していました。このたび、科学雑誌『PeerJ』に新種として正式に研究発表が公開されたその恐竜が、「アロサウルス・ジムマドセニ」になります。

◇「ジムマドセニ」という名の由来は?

 「ジムマドセニ」という名ですが、この恐竜の最初の2体(完全体)の発掘を行った、アロサウルス研究の権威である古生物学者ジェームズ・マドセン(ジム・マドセン)からその名を取っています。

◇特徴

 体重は4000ポンド(約1.8トン)を超え、体調は26~29フィート(約8~9メートル)、「両目のあたりから鼻先にかけて派手なトサカを備えた恐竜であった」とされています。二足歩行性であり、長い前肢には餌となる生物を捕食するための湾曲した大きな爪を備えていました。

 また、80本の鋭い歯を持ち、当時の生態系において最大勢力を誇った肉食恐竜だったとされています。

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D. CHURE

◇「種分化」と「種形成」

 アロサウルスの代名詞的存在である「A・フラギリス」と、それより500万年前から生息していた北米最古の種である「アロサウルス」とされる「A・ジムマドセニ」とを、混同しないようにしなくてはいけません。

 「現在ではA・フラギリスは、A・ジムマドセニから進化した種である可能性が指摘されています」と語るのは、ユタ自然史博物館で研究をおこなう古生物学者、マーク・ローウェン氏です。

 異なる生息地に移り住んだ「アロサウルス」の2つのグループが、それぞれの環境に適応ながら異なる進化を遂げました。さらに時代が進み、再び遭遇したそれら2種のうち、生存により適した片一方がもう一方を淘汰することなったのです。これが「種分化」または「種形成」と呼ばれるプロセスになります。

 「アロサウルスが、時代とともに変化していった様子を見てとることができる」と、ローウェン氏は言います。「捕食者として、より優れた能力を持つに至ったA・フラギリスが、A・ジムマドセニを淘汰していったのです」とのこと。

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MARK LOEWEN

 より原始的な「A・ジムマドセニ」の頭部骨格は、「A・フラギリス」の頭部骨格と比べてほっそりとして貧弱であり、即ち、その獰猛さにおいて…また、捕食者としての能力において劣っていたことを意味しています。とは言え、それでもなお同時代の他の生物と比べれば、極めて能力の高い肉食恐竜であったことに違いはありません。

 「研究がここに到達するまで、実に30年の歳月が費やされてきたのです」と、ローウェン氏は言います。

 ネブラスカ大学オマハ校のジョージ・エンゲルマン博士が、恐竜国立公園のモリソン層の発掘作業の中、世界で初めて「A・ジムマドセニ」の一部を発掘したのは1990年6月15日のことでした。ですが、その存在が正式なものとして認められたのが、今回の研究論文となるわけです。

◇発掘調査の困難

 「A・ジムマドセニ」の化石が見つかったのが切り立った崖の斜面だったこともあり、発掘調査と研究とに惜しみない労力と時間とが割かれることとなったのでした。

 例えば、頭骨の化石を覆う巨大な岩石を破壊するために、調査隊はダイナマイトを用いています。そして、露わになった頭骨を取り上げるためには、巨大な消防ヘリコプターが用いられました。頭骨を除く骨格のすべては既に発見されていたものの、肝心の頭骨を見つけ出すために、研究者たちは幾度となく切り立った斜面を発掘しなければならなかったわけです。

 「骨には放射性物質が含まれていたため、ガイガーカウンター(放射線を計測する機器)の使用も必要となりました」と、ローウェン氏は振り返ります。

 車輪を付けて可動式にした放射能検査器が、調査チームにより開発されています。検査器を発掘現場付近まで運び込んだところ、発掘現場のわずか1メートル強の場所にホットスポットが検出されたこともありました。そのような悪戦苦闘の末、ついにやっと頭骨が発見されたのは1996年のことでした…。

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TODD MARSHALL

2万体以上ものアロサウルスの骨との比較調査

 厳しい努力の末に掘り出された化石でしたが、果たして本当にそれが「ティラノサウルス」や「A・フラギリス」など、既に発見されている肉食恐竜とは異なるものであるのかを調査するため、古生物学者たちはさらに何年もの歳月を研究調査に費やさねばならなかったのです。

 ローウェン氏と、その共著者である国立恐竜公園を既に定年したダニエル・チュアー氏の2人は、発見された骨が未知なる古生物のものであるか否かを調べるために世界中を飛び回り、2万体以上ものアロサウルスの骨との比較調査を行っています。

アロサウルスの骨格を完全に組み上げようとする古生物学者、ジェームズ・マドセンJr.
LISA MADSEN
アロサウルスの骨格を完全に組み上げようとする古生物学者、ジェームズ・マドセンJr.。

 「A・ジムマドセニ」の発見が、なぜこれほど重大な出来事となったのでしょうか…。それは「アロサウルス」の種が世界的に最もよく知られ、広く研究の対象となっているからにほかなりません。

 「アロサウルスの何が素晴らしいかと言えば、これらA・ジムマドセニとA・フラギリスの種だけで、ジュラ紀のいかなる生物よりも多数の標本サンプルが現存しているということです。アロサウルスを通じて、恐竜の世界を知ることができるのです」と、ローウェン氏は最後を締めくくってくれました。

Source / Popular Mechanics
Translation / Kazuki Kimura
※この翻訳は抄訳です。