オーナーと建築家の想いが詰まったコージーな宿
坂茂,shigeru ban,shishiiwahouse,しいいわハウス
Sachiko Suzuki

ししいわハウスのエントランスは、緩やかな木のスロープから始まります。右側に広がる松林と左側の建築を眺めながら歩きだすと、心地よい風が吹き抜け、さわさわと葉ずれの音が。深呼吸をすると、土や苔、森の香りが胸いっぱいに広がります。慌ただしい日常から解放されて、静かな高原リゾートにやってきたという喜びにあふれる瞬間です。

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そして、大きくカーブしたスロープの先はダイナミックな木造の大空間。このアプローチこそが「建築とランドスケープの一体感を味わってほしい」という、建築家・坂 茂さんのゲストへのサプライズです。

坂さんは、まだサステナブルという言葉を耳にすることがなかった1980年代後半に、世界でも類を見ない「紙の建築」を日本で実用化。自然災害時には専門知識がなくても簡単に組み立てられる仮設住宅を、日本のみならず世界各地で建設しています。貯めた雨水を庭で再利用するポンピドー・センター・メス(仏)の設計など、環境にやさしい建築家として世界を飛びまわり精力的に活動を続ける坂さんは、2014年に建築業界で最も権威あるプリツカー賞を受賞。

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Sachiko Suzuki

ししいわハウスのディレクターは、この坂さんの建築をこよなく愛するシンガポール人、フェイ・ホアンさん。もともと日本が大好きで東京にも家を持ち、時々軽井沢に遊び来ていたそう。その自然豊かなエリア一帯が気に入り、「軽井沢に別荘を建てるなら、坂さんにお願いしたい!」と熱いラブコールを送り、実現したというわけです。

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Sachiko Suzuki

まず2018年に出来上がったのが「ししいわハウスNo.1」。こちらは建設前の敷地に美しい樹木がたくさん生えていたことから、大きな樹木を1本も切らず、木々を避けて建物を作ったので、うねうねと曲線を描く独特のフォルムとなっています。最初はフェイさんの別荘として建てられましたが、現在はししいわハウスのメイン棟として宿泊客にも開放されています。

ししいわハウスNo.2は、「長方形の土地の特性を生かし、家の中と外を連続させて居心地のよい空間を作る」をポリシーとする坂さんのコンセプトに、アート好きのフェイさんの感性がうまく融合し、まさに建物全体がひとつのインスタレーションとなっている、言っても過言ではありません。

コンパクトながら快適な客室、究極のサステナブルデザイン

ししいわハウスNo.2は、全敷地が約600平米。シンプルな長方形の2階建ての造りで、1階には客室が12部屋、2階は、レストラン、バー、ライブラリーのパブリックスペースとなっています。

「ししいわハウスNo.1を大人のためのブティックホテルとすれば、No.2は、もっとカジュアルで、若い層のゲストを意識しています。ディレクターのフェイさんからも、できるだけシンプルな造りにして経済的に作ってほしい、という依頼がありました。客室空間は20平米。コンパクトでありながら、必要なものはすべて手に届くように設計しています。通常、インテリアは内装専門の会社に発注というところも多いのですが、坂は、内装から、ソファ、ベッド、照明などの家具、ドアの取っ手まで細かなすべてをデザインしています」と話すのは、坂茂建築設計のグラント鈴木さん。

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こちらが今回泊った客室内です。杉材が美しく、大きな窓を配置して自然光を取り込み、家具からアメニティまでできるだけ木や紙などの自然素材を使うなど、環境に配慮した設計になっています。

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ベッドの足やヘッドレスト、椅子にもこのように、再生紙でできた紙筒「紙管(しかん)」が使われています。紙管を使った家具は、とても強く、軽く、運びやすい。見た目にも柔らかな印象を与えます。

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Sachiko Suzuki
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檜風呂が置物のように配され、風呂側のガラスも開くようになっていて、少しだけ露天風呂気分を味わえます。これも、少しでも部屋を広く感じさせる工夫の一つ。浴槽の壁の一部がへこんでいて湯船につかった時に頭を置けるようになっています。浴槽からものぞける全室にあるテラスも、居心地抜群。

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シモンズのマットレス、タオルやシーツ類はアマンやバンヤンツリーでも使われているプロー(Ploh)を使用。バスローブの肌に直接触れる裏地素材の肌触りも最高でした。余談ですが、フェイさんは、ホテルの設中に何度も来日し、坂茂建築設計の鈴木さんとデパートやショールームを何軒も回り、究極のベッドを探し歩いたそうです。

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バスアメニティも、サステナブルを意識しています。竹製の歯ブラシやくし、かみ砕いて使用する歯磨き用タブレットは新鮮でした。

パブリック空間に重きをおいて、Z世代にもフォーカス

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ディレクターのこだわりが最も感じられるのが、2階の約100平米はある巨大なオープンスペースです。メインダイニングの「ザ・レストラン」、「ザ・ワイン&ウイスキー・バー」、「シガールーム」、屋外スペースの「フォレスト・テラス」で構成されています。

1階のそれぞれの客室から出て、このスペースにみんな集まって楽しんでほしい、とフェイさんの思いから、大きなパブリックスペースが誕生しました。社交や人との交流を楽しむ「ソーシャル・ホスピタリティ」という言葉が、ししいわハウスの大切なコンセプトとなっています。

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ここで1泊過ごしてみると、この空間で、朝、昼、夜と刻々と変わりゆく光と影を存分に、もっと楽しみたいという気持ちになるはずです。

たとえば午前中、この木組みの空間から見る外の景観。鳥の囀りを聴きながら、緑の木々を愛でながら朝食をいただく至福の時間。支配人によると、西日が差す夕刻がもっとも美しいとのこと。

夜は、こだわりの音楽を聴きながら。ここにしかないライブラリーのアートの本をめくり昔の時代を偲んでみる。

また、お酒好きにたまらないのが、このバーエリア。ディレクターのフェイさんも無類のお酒好き。ワインセラーはもちろんですが、とくに1800年代のウィスキーなど、超のつくレアものがいただけます。

「ししいわハウスでヒップに過ごしてほしい!」と、Z世代や若者に向けて、もっと文化的な時間を過ごしてほしい、とディレクターのフェイさんは語ります。

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「この大空間、建築も大変リーズナブルな造りとなっています」

「No.2の建物を作るにあたり、コストを抑え経済的に作るという依頼がありました。なるべく小さな部材を使って、大空間を作っています。柱を作らない屋根のトラス(三角形を基本単位としてその集合体で構成する構造形式)もエル・ビー・エル(LBL)というリーズナブルに入手できる小さな合板を組み合わせて作っています」と鈴木さん。

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三角のトラス組にさりげなく設置された照明、鏡を廻らして、より広い空間を演出しています。

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ディレクターのフェイさんが世界中から集めた世界的アートコレクションを楽しめます。

パブリックスペースは

イベントでも使えるよう工夫が

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ししいわハウスNo.2のレストランの大空間では、ガラスシャッターが自動で開いて外と繋がるようになっています。フェイさんのリクエストで、施設全体を借りて企業のセミナーやイベントなどができるよう、シャッターの面には白いスクリーンがついており、下ろしたらプロジェクターとして使えるような工夫も。上の写真は、ししいわハウスNo.1のグランドルームのピクチャーウィンドウ。宿泊者は誰もがNo.1とNo.2のパブリックスペースを自由に行き来でき、使用ですることができるのも、ここの魅力のひとつです。

軽井沢の季節の食材をフレンチでたっぷりと

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夜のお楽しみのディナーも、決して期待を裏切りません。

千ケ滝への散歩道へ

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ししいわハウスNo.2から車で約10分のところに、約1.5Kmの千ケ滝への散歩道(プロムナード)があります。こちら早朝に無料で参加できます。とにかく、絶景続き。ちょうど新緑の頃の散歩で、マイナスイオン浴を存分に楽しめました。おすすめは朝食前。

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せわしない日常、そして、毎日のように流れてくる戦争や悲しいニュース。仕事や暮らしに心身疲れてしまったら、ぜひこのししいわハウスへ足を運んでみませんか。ゲストが真に寛げる自然あふれる空間を提供してくれる坂 茂さん。写真やSNSでは決して伝わることのない、本物の癒しがここにあります。

SHISHI-IWA-HOUSE KARUIZAWA No.2
住所/長野県北佐久郡軽井沢町長倉2147-768
1泊2名、朝食付き 4万9280円~
公式サイト

※2023年には西沢立衛氏によるNo.3が誕生予定。ししいわハウスの宿泊者は、No.1、No.2、No.3の宿泊ゲスト専用パブリックスペースは自由に行き来できて、すべての施設を利用できます。